攻守にわたって勝ち点1獲得に貢献した柴崎岳 [写真]=Getty Images
「タテにパスを入れていくところはホントに僕の出来次第。そこで取られると相手のカウンターは強烈なものがある。逆にタテにつけられれば大きなチャンスになるので、そこは僕のパフォーマンス次第だと思っています」。
2018 FIFAワールドカップ ロシアのグループステージ突破が懸かかるセネガル戦(24日/エカテリンブルク)の前日、日本代表の7番を背負う柴崎岳(ヘタフェ)は司令塔としての自分の重責をあえて言葉にしていた。これまで報道陣にあまり多くを語らなかったこの男が、ここまでの発言をするのはかなり珍しい。それだけ、この一戦に賭けるものが大きかったのだ。
日本の試合の入りは決してよくなかった。開始早々の11分、警戒していた日本の左サイドから蹴り込まれたクロスを原口元気(ハノーファー)がクリアするも、中途半端となったボールをDFユスフ・サバリ(ボルドー)に拾われ、中に折り返される。これをベテラン守護神・川島永嗣(メス)がまさかのパンチング。ボールは目の前のFWサディオ・マネ(リヴァプール)に当たってゴールに吸い込まれた。
失点後しばらくは相手に押し込まれ、日本は低い位置での守備を強いられる。柴崎自身も思うようにボールを触れず苦しんだが、25分前後には体を張って3度続けて相手のチャンスを阻止。27分の相手右CKのシーンでは、身長で11センチ上回るMFアルフレッド・エンディアイェ(ウォルヴァーハンプトン)のヘッドに対し、鬼気迫るデュエルを見せて決定機に持ち込ませなかった。
スペイン移籍前の柴崎にはこれほどまでの守備意識の高さは感じられなかった。世界トップ選手がひしめくリーガ・エスパニョーラで生き抜くための術を体得したからこそ、屈強な身体能力を誇るセネガルにも堂々とぶつかっていけたのだろう。
そして、本人が公言していた攻撃の見せ場が34分にやってくる。自身がセンターサークル内から前線に絶妙なロングパスを供給すると、反応した長友佑都(ガラタサライ)は強引なトラップで対峙していたDFムサ・ワゲ(オイペン)をかわす。相手の体が離れたスキを見逃さず、入れ替わりながらボールを受けた乾貴士(ベティス)が右足シュートを沈めてゴール。背番号7を起点に待望の同点弾が生まれた。
「岳には『あのサイドバックの裏は狙えるから見てくれ』と何度も言い続けた」と長友はしてやったりの表情を浮かべたが、味方の要求に確実に対応し、ゴールをお膳立てしてみせる冷静さと高度な技術を柴崎は改めて大舞台で印象付けた。
1-1で後半に入ると、相手のパワーとスピ―ド、寄せの速さに慣れてきた部分もあり、柴崎がサイドに動いてボールを触りながら起点を作る回数が増えてくる。60分に右サイドから大迫勇也(ブレーメン)に入れたグラウンダーのクロスは、前半には全くなかった形。それを“半端ない”点取屋が確実に決めてくれていたら、日本はもっと楽に戦えたはずだろう。
「基本的にはしっかりとつなぎながら、連携を取りながらというのをイメージしていたんですけど、裏への配球に対する相手の対応があまりよくなかったんで、個人的にロングボールに切り替えたところははあります」と本人も語るように、ワイドで多彩な展開も前面に押し出していった。
その最たるシーンは酒井宏樹(マルセイユ)を右サイドのスペースに引き出す強気なスルーパスを出した63分の場面。これも酒井宏樹の頑張りで最終的には大迫のチャンスになったが、またも追加点につながらず、お膳立て役を担う男にしてみれば、嫌なムードを多少感じたかもしれないが、それでも精神的にブレることなくピッチに立ち続けた。
中盤の大黒柱として、ほぼパーフェクトに近い仕事ぶりを見せていた。だからこそ、唯一悔やまれたのが71分にワゲに決められた2失点目だ。左に開いたマネからペナルティエリア内にボールが入った瞬間、柴崎はパスを受けたサバリに寄せたが、巧みなボールタッチで折り返されてしまった。これがファーサイドに流れ、最終的にフリーのワゲに無人のゴールへとシュートを叩き込まれた。
「2失点目の部分もそうですけど、相手のスピードだったり、フィジカル的な能力をリスペクトしすぎたというか、警戒しすぎて距離を多少開けてしまって、前を向かせてしまった。あそこは自分自身の反省点でもある。ああいった身体能力のある相手に対してさらにいい対応をしていきたい」と彼自身も潔く自分に足りない部分を素直に認めていた。
Jリーグ時代は自分のスタイルへのこだわりを垣間見せることもしばしばあったが、今では貪欲にマイナス面を克服し、高みに上り詰めようという姿勢が見て取れる。結局、この日は失点を本田圭佑(パチューカ)の同点弾にフォローされる形となったが、いかにして彼はこの重大なミスを今後のさらなる進化の糧にしていくのか。この先に向けて、1つの大きな宿題が残されたと言っていい。
日本は2試合を終えて勝ち点4を手に入れ、28日のポーランド戦(ボルゴグラード)は引き分け以上で決勝トーナメントに進出できることになった。その追い風を生かし、柴崎には次戦でさらなる存在感を発揮することが求められる。この2試合を通してみると、中田英寿や遠藤保仁(ガンバ大阪)という背番号7の偉大な先輩たちに肩を並べるほどのインパクトを残したのは確か。そのうえで、ノーミスで圧巻のパフォーマンスを示せれば、彼は紛れもなく“日本代表の真の新司令塔”に君臨できるはずだ。
「自分に対して『もっとできるだろう』という気持ちの方が強い。今日のパフォーマンスには納得していない」と語る理想高き26歳は目下、ロシアの地で爆発的進化の過程にある。その成長スピードを緩めてほしくない。今がサッカー人生最大の飛躍のチャンスと受け止め、柴崎には持てる力の全てを出し切り、日本代表をリードする大仕事を強く求めたい。
文=元川悦子
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By 元川悦子