現役引退後はドイツに留学し、サッカーの指導を学んだ曺貴裁監督。2012年から湘南で指揮を執っている [写真]=Getty Images
ワールドカップ開幕の2カ月前に監督に就任した西野朗氏は、短期間でチームを作り上げ、ベスト16という結果を残した。続投の可能性もささやかれたが、日本代表ととにも帰国した日本サッカー協会会長の田嶋幸三氏は西野監督を慰留しないと明言。次期監督候補としてユルゲン・クリンスマン氏やロベルト・ドナドーニ氏、そして五輪代表との兼任で森保一監督の名前が挙がっている。
4年後のカタール大会だけでなく、日本サッカーを未来を考えた時に、日本代表監督に最も適しているのは誰なのか。識者3名がそれぞれの視点から「推薦したい監督」を挙げた。
◆推薦者:土屋雅史(株式会社ジェイ・スポーツ制作部第3制作チームプロデューサー)
次期日本代表監督候補を推薦する上で、個人的な基準としての条件は『名前でスタイルがわかる監督』。今回のワールドカップにおいて、日本代表の躍進には大いに興奮させられた。しかし、2カ月前に監督交代のあった状態でのベスト16進出であり、時間を掛けたチームの成熟度が必ずしも結果に比例する訳ではないことは、ある意味で証明された感がある。ならばワールドカップをゴールとしない、長い目で見たフル代表の強化を期待する中で重要になるのは、指揮を託された監督の確固たる“プレーモデル”の有無だと考えた。以下で推薦する2人の指導者は、いずれも明確なスタイルを持ちつつ、そのフレームの中で選手が躍動しているイメージがある。最後の1人は「妄想全開の人選を期待しております」という編集の方の意見をそのまま反映し、前述の基準も考慮しない人選とした。
■曺貴裁(チョウ・キジェ/現・湘南ベルマーレ監督)
前任の反町康治監督から引き継いだアグレッシブなサッカーをより進化させ、『湘南スタイル』を確固たるものにした手腕は誰もが認めるところ。11人が攻守に渡って能動的に動き、常に後方の選手が前方の選手を追い越していく、ロジャー・シュミット政権下のザルツブルクや、近年のライプツィヒのようなイメージのサッカーを体現できるのは、明確なプレーモデルの落とし込みと、一人ひとりをやる気にさせるモチベーションコントロールを、高い次元で結び付かせているからに他ならない。
彼をテーマにした本や手帳が世に出ているように、数々の効果的な言葉で選手の内面を掴んでいるのは知られているが、サッカー面のアップデートにも余念がない。2015年にはライプツィヒにラルフ・ラングニックを、2017年にはアタランタにジャン・ピエロ・ガスペリーニを訪ねて交流を持つなど、時々のトレンドを踏まえつつ、常にチームのマイナーチェンジを図っていく姿勢も、国内の指導者の中ではトップクラスだと感じる。タイプとしては日々のトレーニングやふとした日常を観察しながら、的確なタイミングで成長を促す仕掛けを施す典型的な“クラブの監督”ではあるものの、その仕掛けを得た代表選手たちが、どう変化していくのかも是非見てみたいところではある。
■大木武(現・FC岐阜監督)
育成年代からスタートさせた長い指導者キャリアの中で、『日本が世界と戦うためにはどうすればいいか』を常に念頭に置きながら現場に立ち続けてきた、まさに“フットボールジャンキー”。あえて密集させたパスワークで片方のサイドを潜り抜け、相手の背中を取ってフィニッシュに完結させていくスタイルは、覚悟を持って貫けるならば、日本サッカー界にとって究極のロールモデルになり得るだろう。
印象深いのは昨シーズンのJ2開幕戦、始動から1カ月強の岐阜が前年とは全く違う、“大木色”の強いショートパス主体のスタイルを90分間体現し続けた。岐阜サポーターのみならず、J2フリークの度肝を抜いたように、プレーモデルがはっきりしており、活動期間の短い代表でもスタイルの浸透に大きな不安はない。その上、2010年のワールドカップでは世界16強をコーチとして経験している強みもある。また、各種映像のインタビューでは寡黙なイメージがあるかもしれないが、3-3の打ち合いとなった昨シーズンの湘南戦後の会見で、「選手たちに話したんですけど、『3-3にされたのが問題じゃない』と。『3-3にされたのなら、なぜ4-3にしねえんだ』というところですね」と言い切るなど、実際は話好きで“名フレーズメーカー”でもあるだけに、代表監督に求められるキャッチーな発信力にも期待したい。
■戸田和幸(現・慶應義塾体育会ソッカー部コーチ)
解説者として、その瞬間や局面で「サッカーを解いて説く」能力は実証されており、卓越したサッカー理論と、あるいはそれをも凌駕する情熱は他の追随を許さない。本人は指導経験を積んでからのステップアップを希望しているものの、あえてここで推薦したい人材である。継続したチーム指導の実績は慶應義塾大学ソッカー部のCチームしかないが、誰しも監督キャリアはゼロからのスタートであり、それがフル代表であっても、確かな指導力と周囲のサポートがあれば、十分に成功する要素はあると個人的に考える。
例えば現役時代の古巣でもあるイングランドのトッテナムや、オランダのVVVフェンロ、スペインのレバンテやビルバオの育成組織など、積極的に取り組んできた海外研修で得た知識に加え、現地でのネットワークも指導実践やコーチ組閣に生かせるはず。「いかにそのチーム特有のプレーモデルを探し出せるか」を指導のベースにしていると聞く。実際に4-3-3を好きなオーガナイズに挙げつつ、今の慶應Cチームでは4-4-2を導入するなど、フレキシブルにチームを動かすことにも躊躇はない様子。新世代の指導者たちに希望を与える意味でも、あえてフル代表から監督キャリアをスタートさせ、自らの信じる日本代表のプレーモデルを類まれな発信力を駆使して国内に浸透させるトライは、常にチャレンジしてきた彼の人生においても実現可能な選択肢なのではないか。
文=土屋雅史
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