代表復帰を目指す清武弘嗣 [写真]=Getty Images
昨季はルヴァンカップと天皇杯の2冠を達成したセレッソ大阪だが、今季は両タイトルの可能性が早くもなくなった。残されたタイトルはJ1のみ。とはいえ、首位サンフレッチェ広島、2位川崎フロンターレとは勝ち点10以上の差をつけられており、ACL出場圏内の3位確保が現実的なターゲットだ。そこに近づくためにも、22日の湘南ベルマーレ戦は是が非でも勝ち点3を手に入れたかった。
ところが、右足の負傷から復帰したばかりのエース、杉本健勇が開始10秒で右肩を脱臼して交代。柿谷曜一朗も前節のジュビロ磐田戦で負った打撲の影響で欠場と攻撃陣の手薄感は否めない。そんな状況下で気を吐いたのが、背番号10をつける男・清武弘嗣だった。3-4-2-1の2シャドーの一角に陣取ったファンタジスタは積極的にボールに触って攻撃のリズムを作り、針の糸を通すようなスルーパスで決定機を作る。26分に左寄りの位置から高木俊幸に出した縦パスはまさに清武の真骨頂。そういったプレーが随所に見られた。
彼自身に再三に渡る得点機も訪れた。その一つが後半立ち上がり早々、山村和也の折り返しにフリーで反応して左足を振り抜いたが、守護神・秋元陽太の真正面に飛んでしまう。80分にも丸橋祐介のクロスを右足アウトで合わせるテクニカルなシュートを放ったが、どうしてもネットを揺らせない。最後の最後にCKからソウザの同点弾が飛び出し、勝ち点1を拾ったものの、背番号10は悔しさでいっぱいだった。
「決めるところで決められないとこういうことになる。今日は僕自身の一番チャンスが多かったし、チーム全体のシュート数も相手の倍以上。80%くらいは自分たちのサッカーができていたので、勝たないといけなかった。本当にもったいなかった」と反省しきりだった。
それでも、今季2度目の長期離脱を乗り越え、8月頭に復帰してからは着実にコンディションを上げている。尹晶煥監督も「キヨはここにきてケガがすごく減ってきた。体を触ってみたら以前より筋肉が硬くなっているし、本人もすごく意識して体づくりをしている。試合の運び方、リーダーシップ、技術、メンタル、チームメイトに対する愛を含めてこんな選手は本当に数少ない」と絶賛するほどの貢献度を示していて、今のセレッソに不可欠な存在と言っていい。
ロンドン五輪代表時代からの盟友・山口蛍も「見てもらったら分かると思うけど、キヨ君がいるだけでチームの攻撃のバリエーションが増える」と強調。その言葉通り、湘南戦では攻撃のタクトを振るう背番号10が異彩を放った。彼の正確なパスをゴール前で受け、決めてくれる傑出した点取り屋がいないのが、今のチームの悩みではあるが、そこは本人のゴール数を増やすことで解決しなければならない。その自覚は日に日に強まっているはずだ。
そういった前向きなメンタリティは日本代表に対しても同様だ。2014年ブラジル大会に続く2度目のワールドカップ出場を目指してケガと向き合い続けてきたが、昨年から6度の長期離脱を強いられたことで、清武2度目の夢舞台は幻となった。同じロンドン世代の酒井高徳(ハンブルガーSV)がロシアを経て代表から一線を引く決断をするなど、彼ら20代後半の面々の4年後への考え方はさまざまだが、清武自身は「また代表に戻ってプレーしたい」という飽くなき野心を抱き続けている。
「ロシアワールドカップはいちサッカーファンとして見てました。ベルギー戦は負けたけどすごい感動した。やってる側からしたらすごい悔しい試合だったと思うけど、僕らサッカー選手、そして日本国民が勇気や感動、元気をもらえた試合だったと思います。僕もチャンスがある限り、代表を目指したいと感じた。今回ロシアに行っていたらどういう考えになってたかは分からないけど、もう1回チャレンジしたいと思います」
復調傾向に向かっていた8月、清武は偽らざる本音を吐露したことがあった。その気持ちは今も変わっていない。28歳の自分がカタール大会の2022年には32歳になることは本人も十分理解したうえで、あえて難しいハードルを超えようとしているのだ。
2回連続で世界舞台に赴いた酒井高徳らはある程度の「やり切った感」があるのかもしれないが、ブラジルで数分しかピッチに立てず、ワールドカップというものの実態を掴み切れていない彼にはまだまだ納得できない部分があるだろう。ハノーファーで10番をつけて輝きを放ち、セビージャまでステップアップした才能あるMFがワールドカップに縁遠いまま終わってしまうのは、あまりに惜しいのは確かだ。
ただ、森保一監督体制発足後は世代交代の機運が一気に高まっている。攻撃的MFのポジションはコスタリカ戦で新10番を背負った中島翔哉(ポルティモネンセ)、20歳の堂安律(フローニンゲン)ら若手が台頭。香川真司(ドルトムント)のような実績ある面々もウカウカしてはいられない。この1年半の半分近くをケガで棒に振ってきた清武がやらなければならないことは少なくないが、湘南戦のようなプレーをコンスタントに続けていれば、きっと新指揮官も注目してくれる。今はフィジカルコンディションを整えつつ、地道に結果を残すしかない。
セレッソ攻撃陣の絶対的支柱がACL出場権獲得へとチームを導いた時、彼自身の中でも何かが変わるはず。ロンドン五輪を代表する看板アタッカーの逆襲に期待したい。
文=元川悦子
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By 元川悦子