初の日本代表入りを果たした北川航也 [写真]=嶋田健一
ある時は「面倒見の良い先輩」。またある時は「聞く耳を持つかわいい後輩」。
人との関わり方の中に、22歳・北川航也(清水エスパルス)の「察知力」が垣間見える。自分がどういう行動を取ったら、何を得られるのか。周りにどんな影響を与えることができるのか。相手の心情や状況を読み取りながら、行動することに長けている。
たとえば、同期や後輩たちの前ではリーダーシップを発揮する。2歳年下の立田悠悟は「何か相談事がある時は、まず(北川)航也くん。すごく頼りがいのある先輩」と絶大な信頼を寄せる。一方で、ベテランの六反勇治をよく慕い、経験談やアドバイスを聞くために公私で多くの時間をともにしている。
取材中もそうだ。一つひとつ自分の言葉を紡ぐ中で、なるべくメディアが使いやすいフレーズを選んでくれているのではないか、と思うことがある。また、ファン・サポーターに対してもスタンスは変わらない。今シーズンの前半戦は連戦が組まれたため、チームの練習はほぼ非公開で、練習場でのファン・サポーターとのふれあいが約2カ月間全くない状況もあった。すると、北川は自身のSNSを通じてファン・サポーターとのコミュニケーションを図った。理由を聞くと、「もし、自分がその(サポーターの)立場だったら、うれしいかなって思ったので」。日頃の丁寧なファンサービス然り、ファン・サポーターの心情を汲み取ろうとする姿勢を示している。
それはサッカーにも通じるものがある。「裏への飛び出し」という彼の特徴を生かすには、出し手の状況や意図を把握することが欠かせない。さらに、2トップの一角として成長を遂げた過程にもまた、「察知力」は影響している。
小林伸二前監督が指揮を執った2016、17シーズンは、守備の立て直しがチームの最優先課題で、FW陣に求められるものもまずは守備。主砲の鄭大世が前線からの守備で惜しみなく運動量を発揮し、彼のパートナーを巡って北川とポジションを争った金子翔太も献身的なプレーで評価を上げた。そんな彼らと切磋琢磨する中で北川は、「味方がプレーしやすい状況にすることが自分の役目。チームが勝ち点を得るためなら、守備をすることに関しての苦はない」と言い切るまでに変化した。
そして今シーズンは開幕からスタメンの座をつかみ、ここまで28試合に先発出場して自己最多の11得点と7アシストを記録している。ドウグラス、クリスラン、鄭大世といった強烈な個性を持ったストライカーが揃う中で、「誰とコンビを組んでも、相方の動きを見ながら自分の特徴を生かしたプレーができる」というのは北川の大きな武器となった。
味方を生かすだけでなく、自身の“生かされ方”にも試合を重ねるごとに成長が見られる。2桁得点に乗せた第29節、ジュビロ磐田との“静岡ダービー”では、2ゴール2アシストの活躍で5-1の大勝に貢献。敵将の名波浩監督に「クオリティの高い2トップにやられたゲームだった」とまで言わしめた。“誰かの相棒”という立ち位置から、誰とでも組むことができる“FWの核”としての地位を築いたのだった。
清水ユースからトップチームに昇格して今年で4年目。北川がプロ入りした2015年は、クラブがどん底を味わったシーズンだった。史上初のJ2降格。屈辱と絶望から這い上がる中で、北川は率先してクラブの“希望の光”になろうとした。
「僕が小さい頃から見てきたエスパルスは、絶対的に強いチームだった。だから、『このチームを自分が勝たせるんだ』っていう強い気持ちを出してプレーしたい。アカデミー出身の自分が率先してそういう姿を見せることが、このクラブにとって大切なことだから」
そのストレートな愛情表現に多くの人が救われ、勇気づけられた。チームを強くするために、自分が成長するために、今、何ができるのか。その答えを自分なりに考え、実践する。それが、ここまで北川がクラブと自身の未来を切り拓いてきた方法だ。
日の丸を背負っても、彼のやることは変わらない。仲間を生かし、生かされながら、チームとして結果を出すための努力を重ねる。北川航也は、寄せられる期待が増すほど、想いを力に変えられる強さを持ったストライカーだ。
文=平柳麻衣
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By サッカーキング編集部
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