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「『悔しい』の連続だったけど」…“黄金世代”は最後までライバルであり仲間だった

2018.12.31

引退を決意した瞬間まで小笠原の脳裏には“黄金世代”の仲間たちがいた [写真]=Jリーグ

 日本代表が「AFC アジアカップUAE2019」に向けた合宿を行っていた27日夜、メンバーに衝撃を与えるビッグニュースが飛び込んできた。鹿島アントラーズで17冠獲得に貢献し、JリーグチャンピオンシップとナビスコカップMVP各2回、2009年にはJリーグMVPに輝くなど、個人タイトルも多く獲得してきた小笠原満男が現役引退を表明したのである。

「知らなかったので驚きはもちろんありますし。元チームメートとしても、同じ東北人としても、満男さんがした決断に対しては、お疲れ様と言いたいと思います」(柴崎岳)

 冷静な口調で森保ジャパンの背番号7はこう話したが、内心は少なからず動揺があっただろう。日本サッカー界全体に絶大な影響を及ぼしてきた39歳の男がユニフォームを脱ぐことは、それだけ大きな出来事だった。

 小笠原の存在が日本で知られるようになったのは、1995年U-17世界選手権の頃。15歳から日の丸を背負った彼は「東北の星」と言われ、将来を嘱望されていた。しかし、小野伸二稲本潤一ら同級生の実力者の壁は厚く、本大会は予備登録に留まった。当時のチームを率いた松田保監督が「15歳の小笠原はボール技術は抜群なのに、人見知りが激しく、一言も喋らない少年だった」と述懐するように、コミュニケーションの乏しさも1つの壁になっていた。

 その状況はU-20に昇格してからも続いた。小野、稲本、中田浩二、本山雅志ら1979年生まれの“黄金世代”は、18歳で98年フランスワールドカップに出場した小野と傑出した存在を中心に、チームワーク抜群だった。ところが、彼らとは対照的に小笠原は群れることを好まなかった。「あまり人とつるみたくない」と発言したこともある。今にして思えば、それは彼なりの激しいライバル意識の表れだったのかもしれない。人一倍負けず嫌いな男は、同期のスターたちとハイレベルな競争を繰り広げ、自らの技術を磨き続けた。

キャリアを力強く支えた世界で繰り広げた激闘

1999年のワールドユースで日本は準優勝。当時のメンバーは“黄金世代”と呼ばれた [写真]=Getty Images

 努力の成果が発揮されたのが、1999年のワールドユースだった。稲本がケガで離脱し、中田浩二が左DF、本山が左アウトサイドで起用された。小笠原は小野、遠藤保仁と中盤でトライアングルを形成し、準優勝の原動力となった。

 それまでは控え組で悔しそうにしていた彼が嬉々として躍動する姿は、強烈な印象として残っている。黄金世代が奏でるハーモニーは絶妙で、ドリームチームと言えるほどの輝きを放った。小笠原自身も「あの時は『日本の方が強い』『俺たちは強い』って本心から思えた」と語るほどの強さだった。引退会見でも「代表で一番思い入れがあるのはワールドユースで準優勝した時」と話した。20年近くが経過した今でも当時の記憶は小笠原の脳裏に鮮明に残っている。チームメイトであり、ライバルたちと世界で繰り広げた激闘は、その後20年のキャリアを力強く支えたに違いない。

 ワールドユースの戦いを経て、鹿島では不動のレギュラーへと飛躍を果たした。2002年3月のウクライナ戦では日本代表デビューを飾り、2カ月後の日韓ワールドカップではメンバーに滑り込んだ。本山や中村俊輔が落選する中、小笠原はフィリップ・トルシエ監督を納得させるパフォーマンスを披露した。本大会はチュニジア戦のラスト6分間に出場するだけだったが、世界を本格的に意識する絶好の機会となった。

 ジーコが日本代表の指揮官に就任すると、コンスタントに招集された。2004年はアジアカップ優勝を経験し、2006年のドイツW杯では2試合に出場した。同年のフィンランド戦では、約60メートルのロングシュートを決めてみせた。それでも、最もインパクトが強いゴールは、やはり2005年のアジア最終予選、バーレーン戦で決めた一撃だろう。あの1点で勝利した日本は、本大会出場へ王手をかけた。しかし、小笠原が思い起こしたのは、またしても同級生の存在だった。

「あの時も小野伸二が直前にケガをして突然の出場で、自分も複雑な思いがあった。あのゴールも本来であれば伸二が取るはずだった。小野伸二の魂が取らせてくれたゴールだったのかもしれない。伸二にはいつか追いつきたいと思っていたし、『悔しい悔しい』の連続だったけど、最後まで追いつけなかったですね」

 苦笑いしながらそう話した。ライバルであり、仲間である同世代たちとの絆はどこまでも深かった。

小笠原だからこそ、日本サッカー強化に向けたアクションを

 小野はコンサドーレ札幌と契約を延長し、来季は40歳の大台を現役で迎えようとしている。小野だけでなく、黄金世代の仲間は稲本も遠藤も本山も曽ヶ端準も播戸竜二も現役にこだわり続けている。クラブ代表、指導者、選手と“三足の草鞋”を履く高原直泰のような選手もいる。サッカーに邁進し続ける仲間に囲まれたからこそ、小笠原のキャリアは充実したものになったはずだ。今後は「鹿島への恩返し」を第一に活動していくつもりだという。しかしながら、育成年代から日の丸をつけ、海外を駆け回り、世界との差を体感し続けてきた経験値は、日本代表や日本サッカー界全体に還元してほしい。

 本人は「引退試合もやりたくない」と15歳の頃と同じように人見知りで、人前に出ることを嫌っていた。が、それは同時に自分の意見をしっかり口にできる芯の強さを備えているということでもある。その強みを今こそ生かすべきだ。実際、東日本大震災の復興支援に立ち上がり、自ら意欲的に発信し、被災地の厳しい現実を伝えた姿からは、かつての「コミュニケーション下手」という印象など一切感じさせなかった。1人の人間として、サッカー人として成熟した大人になった小笠原満男。そんな彼だからこそ、日本サッカー強化に向けたアクションも積極的に起こしていってほしいものである。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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