[写真]=Getty Images
「今回、カタールのアル・ドゥハイルへ移籍することは自分の意思で決めました。僕が移籍する時に大切にしていることは、お金や名声、リーグのレベルやチームの知名度ではなく、自分の目で見て、チームの強さを決め、自分のプレースタイルに合っているかどうかを見極めることです」
森保一監督率いる日本代表が「AFCアジアカップUAE2019」の終盤戦を迎えていた最中、中島翔哉の“カタールリーグ移籍”というニュースが飛び込んできた。
中島については、昨年末からポルトガルの強豪・FCポルトやプレミアリーグのウルヴァーハンプトンなどへの移籍の噂が出ては消えてきた。そして、最後に本人が選んだのは、カタールという異国の地だった。
移籍先のアル・ドゥハイルには、今月1日のアジアカップ決勝で日本を叩きのめしたカタール代表のエースFWアルモエズ・アリも所属する。推定約44億円と言われる破格の移籍金も含め、日本のみならず世界中の関係者やファンを驚かせた移籍となった。
新たな環境を大きなプラスにできる要因
それでも、本人は至って冷静だった。
クラブやリーグの格やレベル、年俸、今後のステップアップのしやすさなどを重視する傾向の強いサッカー界にあって、「自分のプレースタイルに合っている」という理由だけで新天地を決めた。その判断は「自分が楽しいサッカーをしたい」と口癖のように語っている男らしい決断と言える。“生粋のサッカー小僧”は周囲に惑わされず、自分の信念に基づいて進むべき道を決め、異国の地に赴いた。そこは前向きに評価したい点である。
とはいえ、欧州思考の強い日本人にとって中東、特にカタールというのはあまり馴染みがない国だ。UAEでプレーし、森保ジャパンに追加招集された塩谷司が昨年のFIFAクラブワールドカップや今回のアジアカップで活躍したことで、多少なりとも関心は高まったものの、“中東でプレーする”ということはまだまだ低く評価されがちだ。「カタールに行ったらレベルダウンは避けられない」と危惧する声が挙がっていることも事実だ。
しかしながら、メリットは少なくない。アジアカップでも実証されたように、2022年自国開催のワールドカップに向けて、カタールのサッカーは急速にレベルアップしている。アル・ドゥハイルを率いるのはジョゼ・モウリーニョの片腕だったルイ・ファリア監督で、指導力や戦術眼には定評がある。前述のアルモエズ・アリや昨季後半をヴィッセル神戸で過ごしたアフメド・ヤセルらハイレベルなチームメイトもいる。ライバルチームのアル・サッドには元スペイン代表のシャビやカタール代表のタレントが揃う。チームがAFC・チャンピオンズリーグ(ACL)の出場権も得ているため、中東諸国の強豪とも対戦できる。
こういった環境で武器のドリブル突破とシュート力を伸ばし、守備面の課題をクリアしていくことは、中島にとって決してマイナスにはならない。常にサッカーに対して明るく前向きな彼なら、むしろ新たな環境を大きなプラスにできる。そういう意味では楽しみの方が断然多いと言えるだろう。
カタールW杯アジア予選を見据えて
加えて、中島が「中東マスター」になってくれれば、これからカタールW杯アジア予選に挑む森保ジャパンにとっても心強い。UAE開催となった今回のアジアカップにおいて、塩谷が現地の環境を熟知し、ウズベキスタン戦で地元凱旋ゴールを叩き出した。中東の地に慣れていればその分、いいプレーができる可能性が高い。今後蓄積される中島の経験値が日本代表にもたらすものは少なくないだろう。本人もそのことを頭に入れつつ、移籍を決断したのではないだろうか。
「“10番”をつけて代表で活躍する」というのは、中島本人にとっても悲願のはず。右ふくらはぎを負傷し、アジアカップは欠場となった。南野拓実や堂安律、冨安健洋ら同世代たちの奮闘を目の当たりにして、その思いはより一層強まったに違いない。中島にとって「リベンジ」とも言うべき戦いが始まろうとしている。
中島の代役としてアジアカップでプレーした乾貴士が同じタイミングでアラベスに移籍し、前任者である香川真司も出場機会を求めてベシクタシュへと赴いた。特に香川は「カタールW杯までは十分時間があると思っている」と3度目の世界舞台に向けて士気を高めているだけに、“10番争い”が激化しそうな雲行きだ。森保体制序盤の5試合で異彩を放った中島といえども、まだ公式戦での実績は皆無。3月以降の国際Aマッチでしっかりと地盤を固めていく必要がある。
さしあたって、新天地デビューには大いに注目したい。カタールリーグは12月中旬で中断期間に入っていて、2月14日から後半戦が始まる。アル・ドゥハイルの次戦は16日のアル・スィーリヤ戦。3月にはACLもスタートし、イランの強豪・エステグラルとの対戦が待っている。
未知なる異国で中島翔哉という希代のテクニシャンがどのような一挙手一投足を見せるのか。彼自身がいかにして変貌を遂げ、今後のキャリアを歩んでいくのか。同じオーナーが運営しているパリ・サンジェルマン移籍の噂も含めて、この先の動向から目が離せない。
文=元川悦子
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By 元川悦子