[写真]=J.LEAGUE
「大然くんはとにかく速いんで、スピードに乗せないようにしたい。スペースを与えないように、しっかりついていければいいと思います」
シーズン開幕前のJリーグキックオフカンファレンス。杉岡大暉(湘南ベルマーレ)は同じ東京五輪世代の韋駄天・前田大然(松本山雅FC)とのマッチアップに闘志を燃やしていた。2人は昨年アジア大会やAFC・U-23選手権予選を共に戦ってきた同志で、「杉岡からは全然ボールが来ない(笑)」(前田)と、冗談交じりにいじり合う仲だ。15日、2人が所属する湘南ベルマーレと松本山雅がリーグ戦で相まみえた。
「FWの外国人選手(レアンドロ・ペレイラ)を起点にこぼれ球を大然くんが拾う形だったのでそこをつぶそうと思いました」
杉岡は前田の動きを注視しながら、スペースを確実に消していった。対する前田は左サイドに流れる動きが多くなり、シュートを打てないまま後半途中にピッチを後にした。試合後、反町康治監督は「大然は悪くなかった」と一定の評価を下したが、仕事をさせなかったのは杉岡ら湘南守備陣だ。「そこはしっかりとマネージメントできたと思う」と杉岡自身も前田封じに安堵していた。
試合は後半立ち上がりに武富孝介の得点で湘南が先制。しかし、83分にレアンドロ・ペレイラの同点弾で試合は振り出しに。その後、両チームとも勝ち越し点は奪えず、1-1でタイムアップ。杉岡は「あそこでスペースを空けてしまったらJ1では決められてしまう。もっと体を張らないといけなかった。まだまだ勝ち切る力がないなと感じました」とチームの甘さを認めていた。
停滞感を払拭して、浮上のきっかけを
それだけではない。自身のレベルアップの必要性も強く感じている。
「今季ここまで7試合を戦いましたけど、『まだまだ一皮剥けてないな』と感じます。チームが上に行くためにも自分がもう一段階レベルアップしないといけないと強く思います。攻撃面でもっと相手の脅威を与えられるようになりたいし、守備面でも『やられない左サイド』になりたい。昨年1年間ある程度やれた分、どうしても相手に警戒されるところがある。そこで攻撃も行ききれなかったり、失点に絡んでしまったりしている。やることはたくさんありますね」(杉岡)
“2年目のジンクス”はしばしば見られる傾向だ。昨シーズンのJリーグベストヤングプレーヤー賞に輝いた安部裕葵(鹿島アントラーズ)は、新10番として飛躍が期待されたが、ここ数試合はスタメン落ちが続いている。同じく、天皇杯優勝に貢献した橋岡大樹(浦和レッズ)も、レギュラーに定着できていない状況だ。
杉岡は身長182cmとサイドバックとしては大柄で、攻守両面で堅実なプレーを続けながら、ここぞの場面では得点力も発揮できる。J1初挑戦となった昨シーズンは、リーグ戦30試合に出場。ルヴァンカップ決勝では、強烈なミドルシュートで決勝点をマークした。この1点でチームは初タイトルを獲得し、自身はMVPに輝いた。ところが今シーズン、チームは波に乗り切れず、杉岡のパフォーマンスもインパクトに欠ける印象が否めない。3月の日本代表戦ではA代表初招集が噂さされただけに、今の停滞感を払拭して、チームとともに浮上のきっかけをつかみたいところだろう。
『後継者問題』解消の切り札に
実際、日本代表の『後継者問題』は重視しなければならない問題だ。最近は大迫勇也の代役不在ばかりがクローズアップされているものの、両サイドバックも同じ状況にある。森保一監督は常々“世代交代”を掲げてチーム作りをしてきたが、長友佑都、酒井宏樹の後を引き継ぐ若手が現れていないのは紛れもない事実だ。
それを解消する切り札として杉岡にかかる期待は大きい。本人も少なからずその自覚を持っている様子だった。
「佐々木(翔=サンフレッチェ広島)選手とか山中(亮輔=浦和)選手とか、いい選手はたくさんいる。そういう選手のいいところを見ながら吸収して、自分のやるべきことをやることがまず第一。その上でA代表に選んでいただけるように頑張りたいです」
彼は開幕前にこう語っていたが、序列を上げるも下げるも自分次第。自分に課した課題を克服し、これまで以上にアグレッシブにゴールに迫っていく杉岡大暉をぜひ見てみたい。
文=元川悦子
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By 元川悦子