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【インタビュー】遠藤航 信念と深念で貫く我が道 ~“考えること”は目標と夢への逆算~

2019.08.16

 いつもの日常。繰り返す毎日。自分の日々にはフットボールしかないのに、輝かない。突き抜けない。上手くなっているのか下手になっているのかすら、わからない。焦る。もがく。海の向こうでは、トッププロたちが躍動している。あいつらとオレ、なにが違うんだろう。そんなに違うんだろうか。

 様々な選手の経験から、次の一歩を踏み出すためのヒントを探るインタビュー連載企画。第5回は遠藤航を迎える。

 中学生まで、遠藤は“そこそこうまいセンターバック”に過ぎなかった。しかし、たった1つの出会いが人生を変える。夢の世界に導くきっかけを作ったのは、当時、湘南ベルマーレユースの監督を務めていた曺貴裁だった。

 爆発的なスピードで相手を圧倒するわけでも、絶対的な高さを武器とするわけでもない。テクニックで魅せるプレーヤーでもない。そんな彼が、なぜ日本有数のトッププレーヤーにまで上り詰めることができたのか。その答えは、彼自身が子どもの頃から磨いてきた「考える力」にある。

 26歳になった今、現時点での目標や夢もはっきりと見えている。その実現に向かう今の思いを聞いた。

インタビュー・文=細江克弥
写真=野口岳彦

■第1回 長谷部誠 ボールを追い続けられる理由

■第2回 久保裕也 確実に、着実に前へ

■第3回 伊東純也 成長曲線を支える不動心

■第4回 鈴木優磨 反骨精神の源流

遠藤航

■考えていたのは「自分がどうするか」

―――まだ子どもだった頃、どんなことを考えながらサッカーをしていたか覚えていますか?

遠藤 小学生の頃から「サッカー選手になりたい」とは思っていたけれど、でも、それを現実的に目標とすることができたのは高校1年、湘南ベルマーレのユースに入ってからですね。練習場ではトップチームの選手とすれ違うこともよくあったので、自然と「俺もああなりたい」と思うようになりました。

―――小学生の頃は漠然とした夢に過ぎなかったかもしれないけれど、遠藤選手は横浜F・マリノスのジュニアユースのセレクションを受けていますよね。

遠藤 当時はF・マリノスが好きでよく試合を観に行っていたので、両親に「セレクションを受けたい」と話しました。父親は「3次選考まであるんだから絶対に受からない」と言っていたんですけど、まさにそのとおりでした(笑)。僕自身も落ちるだろうと思っていたけれど、でも、受けてみないとわからないじゃないですか。奇跡みたいなことがあるかもしれないし。

―――その時点でなかなかのメンタリティーですよね。

遠藤 今になって振り返れば、確かにそうかもしれません。もともと気にしない性格だし、とにかくサッカーが好きだったんです。チームの練習以外でもずっとボールを蹴っていたり、父親と一緒に朝練をしたり。純粋に好きだったから、セレクションに落ちたくらいじゃヘコまなかったんですよ。もし挫折みたいな経験があったとしても、それを挫折と思わない。目標が達成できないとわかっても、「じゃあ違う方法で試してみよう」と考えるというか。

遠藤航

―――子どもの頃からすでに、考え方が“現在の遠藤航”っぽいです。

遠藤 中学生の頃、地域のトレセンに入った時なんて、周りがめっちゃうまくて驚いたんですよ。でも、すぐに頭を切り替えて「自分は何をすれば試合に出られるか」を考える。つまり、いつも考えていたのは「自分がどうするか」で、「自分と比べて周りがどれだけうまいか」はあまり気にならなかったんです。それでも、一緒にやっていれば自分の実力はわかる。僕の場合はヘディングが得意だったくらいで、足が速いヤツに負けてしまうこともたくさんあった。でも、子どもの頃から「そういうヤツに勝つにはどうすればいいか」を考えていたんですよね。そのやり甲斐とか面白さのほうが、負けることの恥ずかしさみたいなものを上回っていました。

―――サッカーそのものの面白さをそこに感じていたのでは?

遠藤 伸び伸びと、自由に、楽しみながらやらせてもらっていたんですよね。小学校と中学校は学校の部活だったし、チームの中心に自分がいるという環境だったので。本当に、あの頃の指導者の方々に感謝しています。

■僕は、ラッキーなほうの早生まれ

遠藤航

―――ある意味、中学生までは“そこそこ”だった遠藤選手の将来性を、当時湘南ベルマーレのユースで監督を務めていた曺貴裁さんが見抜くわけですよね。

遠藤 他の選手を見に来ていた曺さんが、僕のことも目に留めてくれたんです。で、中学3年の時に湘南ユースの練習に参加することになったんですけど、いきなり練習試合に出場することになって。今でもはっきり覚えています。相手は柏レイソルU-18。僕の2つ上にすごい学年があったじゃないですか。

―――酒井宏樹、武富孝介、工藤壮人、指宿洋史をはじめ、なんと9人がプロになったという1990年度生まれのチームですよね。

遠藤 めっちゃ強かったんですよ(笑)。ただ、ヘディングだけは指宿くんが相手でも勝てることがあって、後から聞いた話では、曺さんが「遠藤の空間認識能力はすごい」と言ってくれていたみたいなんです。有名高校のセレクションを受けることも少し考えていたんですけれど、それから何度かベルマーレの練習に参加して、曺さんに誘ってもらう形でベルマーレに行くことを決めました。

―――それって、遠藤選手にとっては“いかにも本物っぽい人”に認められる初めての経験だったのではないかと思うのですが。

遠藤 本当にその通りで、だからすごく嬉しかったんです。それまでJクラブのセレクションに受かった経験はなかったので、曺さんに声をかけてもらえて、急に道がひらけた感覚がありました。めちゃくちゃ大きな転機でしたね。

遠藤航

―――ユースに入ってからは、とんとん拍子でプロまで。

遠藤 いやいや、全然です。ユースに入ったばかりの頃はヘンな感覚でした。同学年には世代別の日本代表に入っていた岡崎亮平(現FC琉球)がいて、そこで初めて、それまで県トレセンに入るのが精いっぱいだった自分が“世代別の日本代表”という存在を知ることになって(笑)。刺激だらけでしたね。だから、ただガムシャラでした。自分が試合に出るためにはどうすればいいのか。自分も代表に選ばれるためにはどうすればいいのか。ずっとそういうことを考えながらプレーしていた気がします。

―――ターニングポイントはありました?

遠藤 僕、ラッキーなことに早生まれ(93年2月9日生)なんですよ。だから、高校2年の時に1学年下の国体代表に入ることができて、そのチームでキャプテンを務めて、優勝することができたんです。その大会がきっかけでU-17日本代表に選ばれたり、その上の代表に飛び級で選ばれたりするようになって……。だから、「早生まれに感謝」です。スポーツをやる上で早生まれはアンラッキーと言われますけれど、僕は、ラッキーなほうの早生まれなんです(笑)。

■「考えること」と向き合い続けてきた

遠藤航

―――遠藤選手のようなプレースタイルの場合、その能力を人に理解してもらうことが簡単ではなかったと思うんです。

遠藤 そのことは僕自身が理解していました。派手な能力はないし、プレースタイルも地味で、ポジションもセンターバックでしたからね。でも、「見てくれている人は必ずいる」となぜかずっと思っていたんですよ。自分がいいと思うプレーをちゃんとしていれば、どこかで必ず、曺さんみたいな人が見てくれていると。ユースに入ってからも、ずっとその積み重ねでした。同学年には宇佐美貴史のように子どもの頃から注目されてきた選手もいたけれど、きっと自分も、頑張っていればいつか必ず認めてもらえると。たぶん、その考え方が自分に合っていたんです。“自分は自分”と、いつも思っていた。

―――話を聞いていると、そう考えられるところが遠藤選手の最大の強みでもある気がします。

遠藤 「考えること」については、ずっと向き合ってきました。プレースタイルや特徴を頭に入れて、足りないものは何なのか、どうしたら試合に出られるのかをずっと考えてきた。目標から逆算して、「今の自分が何をするべきか」を常に設定してきたので、そういう力はもしかしたら人より少し優れているのかもしれません。届きそうな目標と、今はまだ遠いけど叶えたい夢。それを設定するセンスがある人は、地道な努力を重ねながら、少しずつ上がっていけると思うんです。

―――それにしても、例えば中学生の頃に“叶えたい夢”として海外でプレーすることや日本代表としてワールドカップに出場することまで考えていました?

遠藤 そう言えばこの間、中学2年の時にやった「10年後の自分への手紙」が出てきたんです。そこには「結婚していますか?」とか、いかにも中学生みたいなことも書かれていたんですけど、「今の僕は日本代表としてワールドカップに出場するという夢を持っています。それは達成できましたか?」みたいなことも書かれていて。

―――それはすごい(笑)。

遠藤 それを見て思い出したんですけど、やっぱり、ただ漠然とではなく、かなりはっきりとした夢としてそういうことを思っていたんですよね。

遠藤航

―――となると、現在26歳の遠藤航が描く「届きそうな目標」と「今はまだ遠いけど叶えたい夢」は?

遠藤 僕はやっと、ボランチとして所属チームでも日本代表でも試合に出させてもらうようになって、“ボランチ・遠藤航”のイメージが少しずつ定着しつつあると思うんです。もちろん理想像はまだまだ遠いけれど、まずは、ボランチとしての自分をより高めたい。それと同時にワールドカップにレギュラーとして出場して、ベスト8を狙うという「届きそうな目標」を目指したいし、個人としてはブンデスリーガやプレミアリーグでプレーしたいという思いを強く持っています。あとはもう、時間との勝負。今26歳ということは、1年たりともムダにできないですよね。

―――あまり表に出さないけれど、自分自身に負けないことへの強い思い、というかむしろ“執念”はかなり強いほうですよね。

遠藤 間違いなく。どうしてかわからないけれど、見返してやりたいという反骨心は結構強くて(笑)。

―――今の遠藤選手が、中高生に声を掛けるとしたら。

遠藤 もし壁に当たっていると感じているのなら、サッカーがどれだけ好きなのか、それを改めて自問自答するところから始めたらいいんじゃないかなと思います。好きだったら続ければいい。そうではないなら、やめてもいい。だって、また別の夢を見つけられるかもしれないから。ただ、誰かと比べて「アイツのほうがうまいから」と落ち込む必要はまったくないと思うんです。“上”なんて、世界を見れば、果てしなくいますからね。

―――“自分は自分”という考え方。

遠藤 それが一番大事だと思います。そうやって自分と向き合うことで必要な答えを導き出せる気がするし、目標や夢に近づくためには、一歩一歩、コツコツと進むしかない気がしますから。

遠藤航は、プーマとともに成長する。

遠藤航

―――今年4月にプーマとサプライヤー契約を結びました。『FUTURE 19.1』を着用していますね。

遠藤 このスパイクの好きなところは、まずシューレースを通す穴を変えることで締め付けの程度を調節できることです。これ、みんな気づいていますか?(笑) 実はあまり知られていない気がするので、強調しておきます。プレーヤーとしては、とても優れた機能だと思うので。

―――それによって、フィット感が高まる?

遠藤 着用していると少しずつ革が伸びていくんですが、それに合わせて自分にとってベストなフィット感を探せますからね。やっぱり、最初に履いた瞬間にどれだけ足に合っていると感じるスパイクでも、履いているうちに少しずつズレが生じてくると思うんです。それを自分で調節できるのはかなり大きい。ちなみに、ハイカットなのでシューレースを通さなくてもプレーできるくらいのフィット感は最初からあるんですよ。

―――デザインはいかがですか?

遠藤 “野生感”があって気に入っています。プレースタイル的に、相手からボールを奪うところなどに“野生感”を感じてもらうことも多い気がするので、そういうところも合っているかなと。プーマって、野生感が強い人が多いですよね? (ロメル)ルカクとか、(ルイス)スアレスとか(笑)。それと比べたら、僕の野生感なんてたいしたことないと思いますけど。

―――日本人選手もプーマを選ぶ選手が増えています。“ファミリー”の一員として、どんな存在感を示したいですか?

遠藤 日本代表に選ばれる選手も多く契約しているので、僕も彼らに負けないように、日本代表で中心となれる存在感を示さなければいけないと思います。その過程をプーマとともに過ごせることを光栄に思っているし、間違いなく僕自身の成長を手助けしてくれると思います。

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By 細江克弥

1979年生まれ。神奈川県出身。サッカー専門誌編集部を経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動する。近年はセリエAの試合解説などでもおなじみ。

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