[写真]=Getty Images
これぞ千載一遇の好機――。果たして、モノにできるかどうか。
今後のキャリアをかけた大勝負になるかもしれない。オーストリアの強豪ザルツブルクの門をくぐって6年目。ついにチャンピオンズリーグ(CL)の本選に挑む南野拓実のことだ。
定位置確保と強豪たちとの戦い
ようやく巡ってきた初挑戦には二重の意味で追い風が吹いている。
何よりもまず、南野自身がチーム内で確たる地位を築きつつあるのは大きい。アメリカ人のジェシー・マーシュ新監督の信頼を得て、開幕から定位置をつかんだ。国内リーグでは3得点2アシスト(第6節終了時点)の結果を残してもいる。ピッチに立つ公算が大きいわけだ。
もう1つはグループステージの組分け。何しろ、連覇を狙うイングランドの名門リヴァプールとイタリアの強豪ナポリが同じ組にいるのだ。名前を売るには格好の相手だろう。まさに「舞台は整った」と言ってもいい。
俺がやらねば誰がやる。
ここでやらねばどこでやる。
ひとたびピッチに立てば、トグロを巻くような主役意識と強い使命感に駆り立てられる人だろう。ポジションがどこであれ、脳内の矢印が常にゴールへ向かっている。その貪欲な姿勢こそ、大仕事の引き金だ。
思えば昨シーズンのヨーロッパリーグ(EL)でノルウェーの名門ローゼンボリを相手に日本人初のハットトリックを演じている。ゴール前で獲物を仕留める見事な手際はストライカーのそれと変わらない。優れた決定力は大きな舞台で爪痕を残すのにもってこいだろう。
今シーズンは2列目のサイドで使われる機会が多い。そのぶん、上下動を含め、守備の負担は増えたが、得点に絡むという持ち味を戦術眼と運動量で生かし切っている。そもそも攻撃に必要な道具は何でもそろっている人だ。右足でも左足でもゴールを射抜き、ヘッドでも点が取れる。またボールを持って斬り込むこともあれば、狭い空間に潜り込んでラストパスも引き出す万能ぶり。用途に応じて七つ道具を使い分ける汎用性の高さは特筆ものだろう。
ただ、対峙する敵を圧倒するほどのスペシャルな武器はない。そこで際立つのが足を止めずに動き回る機動力だ。攻守を問わず、とにかく相手に息つく暇を与えない。あらゆる局面に顔を出しながら、鋭い動きの連続で小さな時差をつくり出し、先手を取っていく。守る側にとっては実にとらえどころがないわけだ。
試合の流れをガラっと変えるよりもむしろ、流れを止めないことに大きな値打ちのある選手だろう。本人の資質はもとより、攻守の切り換えから最後の仕上げに至るまで常に強度の高いプレーが求められるザルツブルクで研鑽を積んだ成果とも言えるのではないか。
日本代表の中核に成長
事実、ここから巣立った選手の多くが機動力に卓越し、攻守の切れ目なく、よく走り、よく闘う。中でも最高峰へと上り詰めた出世頭がリヴァプールで躍動するサディオ・マネだ。ほかにもドイツの強豪ライプツィヒで主軸の一角を担うマルセル・ザビツァーやケビン・カンプルらがいる。彼らのあとを追ってキャリアの階段を駆け上がれるかどうか。
現在、24歳。南野を取り巻く環境はここにきて大きく変わりつつある。1年前はロシア・ワールドカップのメンバーにも選ばれていなかった。それがいまや日本代表の中核を担い、重要な決め手になっている。
クラブにおける立場もそうだ。昨シーズンは途中出場の時期がしばらく続くなど国内リーグで6ゴールに留まった。そう考えると、いまが飛躍の扉を押し開く格好のタイミングなのかもしれない。天の時を味方につけ、強豪を相手に大きなことをやってのける――そうした期待がふくらむ一方だ。
なお、ザルツブルクには南野より1歳年下の奥川雅也も虎視眈々とチャンスをうかがっている。開幕戦で途中出場からゴールを決め、次節では先発に抜擢され、南野とともに2戦連発と気を吐いた。京都サンガのアカデミー育ちで、トップでも5試合に出場したが、2015年6月にザルツブルクへ。すぐに期限付き移籍で国内外のクラブを渡り歩き、実績を積んで今夏復帰を果たした。左利き特有のクセ球と鋭いドリブルを持っており、出場機会が巡ってくれば、面白い存在となるかもしれない。
もちろん、見る側にとってはベルギー王者ヘンクとの対戦も見逃せないところ。日本代表の“韋駄天”こと伊東純也がいるからだ。仮に南野、または奥川が2列目の左サイドに入れば、自ずと伊東とマッチアップの機会も増える。サイドの主導権をめぐる綱引きは白熱するはずだ。そういうわけで、どこを切り取っても興味が尽きない。あとは南野たちが大舞台で手柄を立てる瞬間を待つだけだ。
文=北條聡