「決まらないんかい!」
そんなツッコミを心の中で森保一監督も入れていたかもしれない。私は入れた。東京オリンピックの男子サッカー競技において、南アフリカ、メキシコを連破するスタートを切った日本だが、先だって行われた試合でフランスが南アフリカを劇的な勝ち越しゴールで破ったため、グループステージ突破はフランスとの最終節に持ち越しとなっている。
男子は各グループの上位2チームが決勝トーナメントに進むルールで他グループの戦績は関係ない。このため状況はシンプルだが、森保監督が考えなければいけないことは複雑である。今回はそんなグループステージ最終節・フランス戦のチェックポイントを3つにまとめてみた。
(1)微妙な可能性も残った星勘定
2試合で勝ち点6を得た日本は、引き分け以上で1位通過が確定する状況である。まずこれは大前提で、シンプルな状況と言える。一方、負けた場合であっても、裏カードで勝点3のメキシコが引き分け以下であれば、日本に届かないので突破は可能だ。
ややこしいのは日本が負けてメキシコが勝ったケースで、この場合は勝ち点6で3チームが並ぶ計算になる。こうなると得失点差で優位に立っているメキシコの勝ち抜けは決定的だが、日本も1点差負けであればフランスを得失点差で上回れる。逆に2点差負けとなった場合、フランスは日本を順位で逆転するため、日本は2勝しながら3位で敗退という無念の結末を迎えることとなる。
フランスはここまで4得点を挙げている35歳のベテランFWアンドレ・ピエール・ジニャックを中心に爆発力のあるチームだけに、ある種の怖さが残る状況となったと言える。
(2)温存すべきか否か。迫られる難しい決断
第2戦を前に、MF田中碧はこんなことを言っていた。
「決まるかどうかは他の試合の結果にもよりますけど、勝ってしっかり(突破を)決められれば、またいろいろな選手が第3戦に出られるようになる。そうなればチームとしてもよりいい方向にいける。個人個人もそうだし、チームとしてもいろいろな経験ができる」
第3戦を良い意味での“消化試合”にできれば、これまで出番のなかった選手たちを出場させて主力を休ませることができる。そうなれば試合機会を得た選手たちの士気は上がるし、休んだ主力は回復できる。準々決勝を前に、最高のシナリオを描けるところだった。
イエローカードをもらっている選手たちが多いのも気掛かりだ。DF酒井宏樹、中山雄太、MF遠藤航、堂安律、そして田中の5人の主力選手が“出場停止リーチ”の状態にある。こうした選手が準々決勝で使えなくなる事態は避けたいので、できれば休ませたいところである。
ただ、フランスはそんな簡単な相手でもないだろう。主力を温存するとなると、結構な博打になる印象は否めない。休ませるか、突っ切らせるか。森保監督は、かなり悩ましい決断を迫られていることになる。
(3)今度こそ試合を“終わらせる”
第2戦のチェックポイントにも挙げさせてもらった要素だが、試合の締め方は持ち越しの課題となった。大きなプレッシャーがかかり、感情も高ぶる試合において、言うほど簡単ではないのは確かだが、この先を見据えても改めてやり切っておきたい課題である。
メキシコ戦では交代で出場した選手が、負傷明けであったこともあり、意欲的に過ぎてしまった面もあった。逆に言えば、一回試合に出たことによってクールになれる部分もあるだろう。中央に切れ込んでボールを失ったMF三笘薫は「その瞬間の判断としては、ゴールに迫れると思った」としつつも、「あとから振り返って見ると、そういう判断をすべきではなかった。今はそう捉えられると思っています」と冷静に振り返っている。
途中交代で投入される攻撃的な選手がゴールを取りたいと切望するのは選手心理としては無理からぬところでもあり、田中がFW上田綺世に付けた攻めのパスを悔やんでいたように、周りの選手がコントロールすることで、時間帯とスコア、相手の戦い方に応じたイメージを共有する必要がある。
いずれにしても、日本が有利な状況であることは変わらない。森保監督はメダル奪取を見据えてある程度の温存策をするのではないかと予想しているが、捨て身で来るであろうフランスのパワフルなアタッカー陣に対し、日本側の踏ん張りが問われる一戦となる。
とはいえ、遠藤が「そんなに守りに入りすぎずに、しっかり自分たちも点をとっていく姿勢を見せていく」と語ったように、立ち上がりから後ろ向きの戦いになり過ぎるのは厳に避けたいところ。相手がリスクを取って攻めてくるのは確実なので、守る一辺倒にならずにカウンターで先制パンチを入れ、心理面で一気に優位に立つのが理想的な流れとなる。
取材・文=川端暁彦
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By 川端暁彦