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浦和の再建、そしてカタールW杯へ…2度目の五輪を終えた酒井宏樹の新たな挑戦

2021.08.10

OAとして東京オリンピックに出場した酒井宏樹 [写真]=Getty Images

「僕がロンドン五輪を目指していた時も、オーバーエージ(OA)の選手が入ってくることを100%歓迎できていたかと言うと、正直、違っていた。今回もそういう選手たちが少なからずいると思います。そういう枠を取ってしまっているので、すごくプレッシャーを感じています。やるからには、すべての試合に勝ちたいと思っています」

 OA枠の一員として今回の東京五輪に挑むに当たり、酒井宏樹は強い覚悟を口にしていた。U-24世代の1枠を自分が奪ってしまう責任をひしひしと感じつつ、9年前につかめなかったメダルを手にすべく、大舞台に立ち続けた。

 しかしながら、悔しいことに日本は6日の3位決定戦でU-24メキシコ代表に1-3の完敗。またしても表彰台を逃すことになった。

 ピッチに倒れ込んで号泣する久保建英の傍らで、酒井も涙をこらえきれなかった。2012年ロンドン五輪、2014年ブラジルワールドカップ(W杯)、2018年ロシアW杯と大舞台に何度も参戦している彼がそこまで感情を露わにするのは珍しい。それほど東京五輪に賭けていたのだろう。

 今大会を振り返ると、彼の存在感は絶大だった。絶対的右サイドバック(SB)として、メキシコのアレクシス・ベガら相手キーマンとのマッチアップを繰り返し、ここ一番でピンチを阻止してきた。久保が「OA3人は外国人助っ人」と評した通り、酒井の1対1の強さ、屈強なフィジカルは通常の日本人レベルをはるかに越えていた。

 その分、守備負担が大きく、1次リーグ3試合で早くもイエローカードを2枚受け、7月31日の準々決勝・ニュージーランド戦(カシマ)をスタンドから見守ることになった。その一戦で仲間たちが120分間の死闘を繰り広げ、PK戦で勝利を収めてくれたことへの感謝は誰よりも強かったはず。だからこそ、8月3日の準決勝・U-24スペイン戦への意気込みは非常に強かったに違いない。

 ダニ・オルモ、マルク・ククレジャという対面のタテのラインは手強く、時には堂安律も自陣に下がって守備のサポートに入らなければならないほど押し込まれた。それでも、ドイツ、フランスでの9年間にバイエルンやパリ・サンジェルマンといった強豪相手との試合を数多く経験した男は全く動じなかった。最終的に勝敗を決したのはマルコ・アセンシオの115分の決勝弾だったが、その時も酒井のサイドは崩されていない。完璧に近い仕事をしても勝てないのがサッカーだ。そこはもう、割り切るしかなかった。

 準決勝敗戦のショックを引きずってメダルを逃したロンドンでの経験を持つ酒井は、吉田麻也とともにチームの士気を高めることに注力した。だが、6戦連続スタメン組の遠藤航や田中碧の疲労は限界を超えていて、日本は想像以上に鈍い入りを余儀なくされた。

 こうした中、酒井のタテパスも相手に狙われた。11分の1失点目は、自身からのボールを狭い右サイドでキープした久保が、堂安律に預けてリターンを受けようとした時にカットされたのが発端。いったんは久保と遠藤がベガに対応したはずだったが、真ん中を割られてPKを献上してしまった。さらに2失点目も、酒井が林大地に出そうとしたボールを奪われ、吉田がエンリ・マルティンにFKを与えた結果、リスタートから決められた。

 気持ちを切り替えて入った後半も、相手にケガ人が出た空白の時間のスキを突かれて3点目を失った。これにはさすがの吉田と酒井も呆然とするしかなかった。ここまで積み上げてきたものが「メダル」という結果につながらず、悔し涙に暮れることになった。

 挫折感や失望感は非常に強い……。それでも、吉田が語気を強めた通り、サッカー人生は続いていく。9年ぶりにJリーグ復帰を決断した酒井には浦和レッズでの新たなキャリアが待っている。そこに全身全霊をかけて向き合うことが肝要なのだ。

「W杯2大会に出させてもらったことはすごく誇りに思います。でもクラブが僕のプライオリティの一番。クラブでの充実感やモチベーションがなければ、日々がつまらないものになってしまう。僕のコンディションが落ちれば、森保(一)監督も自然に選ばなくなると思いますし、監督にもそう言ってある。『自分が無理ならもう選ばれない』くらいの覚悟でレッズに来ています。自分への期待はすごく高いと思うので、強い覚悟と責任感で臨んでいきたいです」

 6月の入団会見で、酒井はJリーグで戦いながらにして欧州5大リーグ基準のパフォーマンスを示し、1年半後の2022年カタールW杯で8強越えを目指すことを誓った。その発言通り、彼がバイエルンやPSGに立ちはだかった強度や守備力、攻撃参加のダイナミックさをもたらしてくれれば、浦和は確実に強くなる。

 すでに元デンマーク代表のアレクサンダー・ショルツも合流。9日のJリーグ再開初戦(札幌)には江坂任も出場した。酒井も早ければ14日のサガン鳥栖戦からピッチに立つと見られるだけに、日本屈指の右SBが加わったチームの化学変化が非常に興味深い。重要な札幌戦を落とした分、ギアを上げてくれるはずの男への期待は高まる一方だ。

「(田中マルクス)闘莉王さんや小野伸二さんがいた頃のレッズを見ていたので、そうなるように1つのピースとして貢献したい。タイトルを取りたいです」

 酒井の経験値と情熱が新天地でどのような形で表現されていくのか――。31歳の右SBの新たなチャレンジから目が離せない。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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