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「4+1」のポイントで振り返る東京五輪 W杯へ繋げるために

2021.08.13

東京五輪は4位という結果に [写真]=Getty Images

 7月22日に始まって約2週間。真夏の強行スケジュールで行われる短期決戦、東京オリンピックの男子サッカー競技は8月7日に終幕を迎えた。

 初めて選手から協会まで一体となって金メダルを目標に掲げて臨んだ日本は、3戦全勝でのグループステージ突破から準々決勝でのPK勝ちを経て、準決勝のスペイン戦は120分の死闘の末に敗北。そして銅メダルを懸けて臨んだ3位決定戦では、メキシコの前に1-3と敗れて「4位」で大会を終えることとなった。

 ここでは5つのポイントに分けて、大会についてその準備段階から振り返ってみたい。

(1)「兼任監督」としての準備段階での成果

森保一

フィリップ・トルシエ氏以来のA代表との兼任で五輪を戦った森保監督 [写真]=Getty Images

 近年の五輪における最大の課題は何か。これは「そもそもメンバーがそろわない」という割りと根本的な問題だった。

 A代表と五輪代表の監督を別に置き、それぞれ違う大会をターゲットにしていて、双方の監督が自分のクビを懸けた戦いに臨んでいる。その状況で手を取り合うのは実際難しい。

 五輪代表監督は「U-23」の選手たちを自分の手元にとどめてチーム作りを進めたいし、A代表監督は力のある選手であれば自分のチームで使いたいのはもちろん、オーバーエイジ選手として自チームの主力を貸し出すのは避けたい。五輪がちょうどワールドカップ予選の最中に行われることの多いのも難しくなる理由だ。

 このため、オーバーエイジをそもそも使わない選択をすることもあれば、使ってもA代表レギュラークラスは呼べないといったパターンが多かった。DF吉田麻也がオーバーエイジとして参加した2012年ロンドン大会にしても、彼以外の有力選手は呼べず、資格のあった香川真司が参加することもなかった。リオ五輪ではハリルホジッチ監督が主力だけでなく控え選手も幅広くプロテクト。国内組の3選手を選んだが、代表経験の乏しい選手たちは切り札になり切れなかった。

 それが悪かったと一概に言えるものではないし、個々の監督を責めることでもない。自分のチームが結果を残すための最善を主張するのは、むしろ監督としては当然のことだからだ。ただ、「五輪で結果を出す」という視点で言えば、これだとまずいのも明らか。その点、今回の東京五輪はメンバー編成の部分でスムーズだっただけでなく、A代表に引き上げられた五輪世代の選手たちが、戦術的にもサッカー観の部分でも違うところのない監督の下でプレーして経験を積み上げられたのも大きかった。

 加えて大きいのは“このあと”だろう。9月2日に始まるW杯最終予選へ、今回の五輪メンバーがスムーズに入っていくことができる。兼任監督のメリットは大きかった。個人的な意見だが、「五輪にベストメンバーを組んで臨む」ということを考えるのであれば、兼任監督が最も効率的ではないかとあらためて感じた。もちろん、欧州の多くの国がそうであるように、「A代表に入っている選手は五輪に呼ばない」と割り切る選択肢もあるのだが。

(2)「最大の誤算」。指揮官の計算を狂わせたもの

上田綺世(左)と三笘薫(右) [写真]=Getty Images

 森保一監督が大会における誤算は何かと問われて答えたのが「上田綺世、三笘薫のケガ」である。

 今回のメンバーは7月5日から、AFCチャンピオンズリーグに出場する4名の選手を除いて合宿入りしているが、その時点で上田綺世はリハビリ中。その後、12日のホンジュラス戦に前後して三笘薫らACL組も合流しているが、そのACLの試合で負傷した三笘は大会まで別メニュー調整となってしまった。

 上田については大会前から徐々に出場時間を与えて様子を見ながらという起用になったが、三笘の状態はより難しかった。

「(三笘が)全く練習できずに大会に突入してしまったところで、本人も自分が100%の状況に戻ってこないと感じていたと思う。使う我々にとってもケガの再発リスクを軽減しながらという使い方をしなければいけず、難しいところがあった」(森保監督)

 難しかったのは、二人ともメンバー外にするほどの負傷ではなく、大会中に状態を含めて戻せる見込みがあったことだろう。実際、上田はほとんど交代出場とはいえ、6試合に出場しているし、三笘も最後の試合では“本来の三笘”が帰ってきていた。

「本来であれば、彼が3位決定戦でそうだったように、先発からか途中交代のジョーカー的な存在なのか、相手の脅威となるような使い方をできれば、また一つ戦い方が違っていたのかなと思う。そういった意味での直前のケガは本人にとって一番痛かったと思うし、チームにとっても痛かったところはあります」(森保監督)

 三笘は準決勝・スペイン戦でベンチ外になったあと、何かが吹っ切れたようにトレーニングではランニングの先頭を走る姿も見せ、三度起用された3位決定戦では見事なパフォーマンスを披露。この大会に限れば少し遅い復調だったが、1年半後のカタール、そして欧州の舞台でのブレイクスルーに繋がるような未来の断片は見せた。

(3)「18+4の戦略」。二つの意味で足りなかった“もう1枚”

遠藤航(左)と田中碧(右) [写真]=Getty Images

 もともと東京五輪の選手登録枠は「18」である。それに対し、大会直前になってスペインサッカー連盟を中心とするグループから「異議」申し立てがなされ、日本もこれに同調。負傷者などによる入れ替えは可能だが、入れ替えた選手を戻すことができなかったルールから、戻すことも可能なルールとなった。このため、ベンチ入りは18名のままではあるものの、実質的にチーム登録が「22」に拡充される形の運用となった。

 メンバー発表の「2日ほど前」(反町康治技術委員長)から日本サッカー協会もこの可能性は把握していた。ただ、この時点で決定はしていない。このため、「+4」の人選を見直すかは直前でも再度議論にはなった。ただ、元よりバックアップ扱いのメンバーには拘束する権利のない海外組の選手は選べないことを前提に進めていたため、選択肢がそれほどあったわけではなく、最終的には「そのまま」の選択となった。

 ただ、反町技術委員長が「もうちょっと早く、我々にインフォメーションが来ていたとしたら、もしかしたらもう少し、例えばボランチにもう一人置けたのかもしれない」と回想したように、この点が結果としてネガティブに作用していたのは否めない。

 たとえばボランチの二人、MF遠藤航と田中碧をうまく“回す”ことができなかったことで彼らが肉体的に消耗し過ぎてしまった一面はある。これはそもそも大会前日に冨安健洋が負傷し、ボランチの控えだったDF板倉滉がその穴を埋めた結果として、「冨安の穴は板倉が埋めたが、板倉の穴は空いたままになった」という状態が生じたためである。

 この「+4」問題を考える上で、あらためて18人枠での運用として今大会を振り返ってみると、見えてくるものがある。

 まず出場機会がまったくなかったのはGK大迫敬介と鈴木彩艶、DF瀬古歩夢の三人。DF町田浩樹も5分間の出場にとどまった。元よりアクシデント以外での起用が考えづらい第2GKの大迫は除いて考えると、鈴木と瀬古、そして町田という旧バックアップメンバーに出場機会がなかった形だ。唯一多くの出場機会を得たのがFW林大地だが、これも上田の負傷、前田大然の脳しんとうによる出遅れという副産物としての面が強い。

 上田が完調であれば、彼を先発のメインFWに据えながら交代で前田を使う形で大会に入っただろうから、結果として林が使われた分だけ前田の出場時間が短くなったと解釈できる。仮に18人枠のままだったとしたら、上田と林の入れ替えが行われただろうが、結果として起きる現象に大差はない。上田の出場時間を前田が引き継ぐような形で大会は終わっていたはずだ。

 そう考えていくと当初構想の18人枠は、6試合を実際に戦うイメージを持ったよく練り込まれたものだったことも分かるが、同時に新しく生まれた「+4枠」を生かし切れなかったものであることも分かる。これだけを敗因として挙げるのは乱暴だが、センターバックのサブの1番手がボランチ兼任のDF板倉滉であった点も含めて考えれば、純粋なボランチの選手か、センターバックを兼任できるボランチ(例えば、北海道コンサドーレ札幌のMF田中駿汰)といった選手の選出は“あり”と言えば、“あり”だった。

 とはいえ、一度発表したメンバーから“入れ替える”というのはかなり非情な話で、クラブからの反発も容易に予想できる。これについては「22日に発表していなければ……」という話でもあるのだが、「海外組の選手たちに関する調整を考えるとその日がデッドラインだった」と反町技術委員長が語ったとおり、あちらを立てればこちらが立たない中での選択ではあった。

(4)「育成」としての成果。隠れた手応えと未熟な課題

ニュージーランドの大型FWウッドと競り合う冨安 [写真]=Getty Images

 最後は2連敗での終幕となってしまったことで後味は悪いが、日本サッカー界としての積み上げが感じられた大会であったことも確かだろう。

「球際ではどうせ勝てない」「フィジカルでは歯が立たない」「高さでは負けることを前提にサッカーするしかない」といった世界大会における“常識”を覆すべく、各年代で高さのある選手の発掘と育成、フィジカルトレーニングに関する意識改革に取り組んだ成果は確実に見られた。

 冨安健洋が準々決勝のニュージーランド戦を前にして、高さは別に気にしていない旨の発言をしていたように、サイドバックを含めて“高さ負け”することを前提とするような考え方は元より排除されていたし、過去の日本代表の世界大会で見られるような、「日本相手にだけハイボールを多用してくる」といった現象も見られなかった。2017年のU-20W杯を率い、今大会も裏でチームを支えた内山篤氏は、2016年のAFC U-19選手権を前に「アジア相手に高さで負ける時代はもう終わり。むしろ高さで上回った上で勝つよ。そのくらいじゃないと世界では戦えないから」と発言。その上で見事に初優勝を飾っているが、そうした積み上げの成果は確実に見られた。

 惜しむらくは、高さで“勝てる”選手を揃えながら、大会を通じてPKを除くセットプレーから1点も取れなかったことで、この点は目前に控える最終予選はもちろん、1年半後のW杯に向けても強化する必要のある課題となった。世界中のチームがそうなっているように、日本もスタッフの人員自体を増やし、より細かな指導ができる体制を作りつつあるが、ここで「セットプレー」は一つのキーファクターかもしれない。

 一方、再び内山氏の当時の言葉を借りれば、チームというより日本サッカーの課題として挙げつつ頭を悩ませていたのが、「すぐに『勝てば良かろう!』になってしまう」メンタリティのところだった。ゲームの流れを読む、戦況やスコア(場合によっては勝ち点や得失点差などの数字まで)を考えた上でのプレー選択が苦手で、「難しいこと言うけど、要するに勝てばいいんでしょ」とか「でも決めればいいじゃん」となってしまうことだった。

 しばしば言われる、そして今大会でも言われた「チームとしてのゲームコントロールが苦手」という日本サッカーの弱みはこうした点に由来している部分も少なくない。個々の選手は一所懸命にやっている結果なのだが、極端に言えば、リードを奪ったらある程度流してしまってもよくて、そのほうが相手も嫌だったりするのがサッカーである。

 2017年のU-20W杯を戦ったチームは、徐々に選手個々も成熟する中で、内山監督の意を汲んだプレー自体は増えていたが、根っこのところでの理解を代表チームだけで得るのはやはり難しいとも感じた。積極的に仕掛けてシュートを打ち込む意識が高く、なおかつそれを実践できる選手が増えたのは育成の成果とも言えるのだが、それだけでは勝てない世界でもある。

 もちろんこれは個々の意識の問題だけではない。こうした形でコントロールするための要は、現代サッカーではボランチよりもさらに後ろ、センターバックやGKのところだが、特にGKを使ったプレーで今大会はうまく繋がらないことが多く、技術的にも戦術的にも課題が大いに残った。贅沢な話ではあるが、世界大会を戦う上で欠かせない対空迎撃能力は維持しつつ、後ろで時間の貯金を作れるような個人と仕組みを作っていけるかは、今回の五輪が残した宿題の一つだろう。

(+1)戦い、勝ち取るために

メキシコ戦での先発メンバー [写真]=Getty Images

 一字一句を覚えているわけではないが、大会後にある番組で「東京五輪、面白かったですか?」とか聞かれて、思わず「面白くなかったです」と答えてしまった。最後が“連敗エンド”なんだから、それは当然「面白くない」のである。ファン・サポーターも、日本サッカーに関わる多くの人もそれはそうだろう。

 ただ、付け加えて言ったことも紛れもない本心である。「最後まで懸命に戦う選手たちを追い掛けられて幸せでした」。今大会を通じて、選手やスタッフの勝利に向けての意欲をずっと感じ続けていたし、試合に出られない選手を含めて、腐った空気を出すことなく戦い抜いたことに関して偽りはない。気持ちをコントロールする、最適化するといった意味でプロ選手として向上の余地がある選手たちはいたと思うが、チームのために戦う気のないような選手はいなかった。

 メダルを狙って4位で終わった結果について批判が出るのはプロとして当然で、避けられないところではある。ただ誹謗中傷はいただけないし、大会中から選手たちには大量のネガティブなメッセージが届けられてしまっていたが、あれらの声が勝利に貢献する可能性はゼロである。1年半後のW杯に向けて、どうやって選手の心を守るのかという点も最後に重要な課題として挙げておきたい。

 五輪終幕から1カ月もない9月2日にはアジアの最終予選が始まる。五輪代表の選手たちもA代表に戻り、あるいは引き上げられてこの試合に臨むことになるだろう。試合の48時間前を期限に集まってくる選手たちが全員でまともに練習できるのは恐らく1日だけなのだが、「1チーム2カテゴリー」で戦ってきたメリットがここでまた生きるはず。

 五輪から来る選手たちとA代表にいる選手たちによる相乗効果を新たなブレイクスルーへ繋げられるか。「W杯予選を戦いながらW杯で勝てるチームを作っていく」という新たなオペレーションが始まろうとしている。

取材・文=川端暁彦

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By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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