東京五輪に出場した中山雄太 [写真]=Getty Images
2022年カタールワールドカップ(W杯)開幕まで1年3カ月。いよいよアジア最終予選がスタートする。ご存じの通り、最初の重要なシリーズは9月2日のオマーン戦(大阪・吹田)と7日の中国戦(ドーハ)だ。
当初予定では東アジアの2連戦で、移動距離も短く時差もないため、選手たちのコンディション調整は容易だと見られていた。
しかしながら、中国側がコロナ禍でのホームゲーム実施を断念。中立地・ドーハ開催となったため、日本にとって困難な材料が増えた。海外組は8月28日、29日の各国リーグ戦を消化してから30日、31日に代表に合流。大阪で試合を行ったその足で灼熱のドーハに飛び、暑熱対策を強いられることになる。
とりわけ過酷なのが、東京五輪に参戦した吉田麻也や遠藤航らだ。彼らは中2日ペースの6試合をこなした後、所属クラブに合流。わずか2週間程度で日本に戻ってくるという強行日程の中、絶対に負けられない戦いに挑まなければいけないのだ。
大舞台で左サイドバック(SB)を務めた中山雄太もその1人。8月28日のヴィレムⅡ戦にボランチとしてフル出場した直後に帰国の途に着いた。これまでA代表では「左SBかボランチの控え」という位置づけだったが、今回は状況が大きく違う。というのも、長友佑都が無所属のまま招集されたため、中山の出場可能性が一気に高まっているからだ。
左SBに関しては、ベテランの佐々木翔という候補者がいて、室屋成も左右のSBをこなせる。森保一監督も彼らのうちの誰を起用すべきか、思いを巡らせているだろう。ただ、東京五輪からそう時間が経っておらず、高度な国際経験をダイレクトに還元できることを踏まえると、中山がファーストチョイスに浮上することが十分に考えられるのだ。
「僕自身、左SBはキャリアの中でそんなにやったこともないポジションだった。でも世界的に見るとSBとボランチを両立する選手は増えている。サッカー界の流行じゃないですけど、サッカーの進化に対して挑戦できる部分もあるので楽しさを感じます。『目に見えてよくなっている』と言われるのは嬉しいことではありますけど、自分が見ている先というのはまだまだ上にある。(酒井)宏樹君にも『ああいう時にはどうしたらいいですか』と聞けるし、少しずつ積み上げられている部分もあるので、いい方向に向かっています」
東京五輪前にこう語っていたように、本人は徐々に好感触をつかみつつあった。そして実際に5試合に先発し、1試合に途中出場したことで、守備面では問題なくやれるところを確実にアピールした。
課題と見られた攻撃面は、タテ関係にある相馬勇紀や三好康児、旗手怜央、三笘薫らの個の打開力を生かす意識が高く、自らが積極的なオーバーラップに打って出るようなシーンはなかったものの、A代表でもそのスタンスでやれば問題ないはずだ。
加えて言うと、中山は長友と佐々木、室屋とは違う左利きで、左足で精度の高いクロスを入れられる。その強みを生かして、短期間で南野拓実や原口元気といった左サイドを主戦場とするアタッカー陣との連携を深めていけば、長友とそん色ない働きを見せられるのではないか。
日本代表における「左SBの後継者問題」は前々からの問題だが、今回はいよいよ明確な解決策を見出さなければならないタイミングと言っていい。第一人者の長友が最後に実戦をこなしたのは、6月11日のセルビア戦(神戸)。この時はマルセイユでのいい感覚をそのままゲームに持ち込んでいたが、あれから3カ月以上が経っている。百戦錬磨のベテランといえども、長期間にわたって強度の高い試合から離れているのはさすがに厳しい。過去の実績を重んじる森保監督も、ここは別の人間を抜擢した方がベターかもしれない。
ただ、佐々木は間もなく32歳で、本職の左SBではない。室屋も右を主戦場としている。先々を見据えるなら、24歳の中山を起用し、最終予選経験を蓄積させた方が日本サッカー界のためになる。もちろんA代表は若手育成の場ではないが、修羅場をくぐった経験こそ、今後の大きな成長の糧になる。東京五輪世代のリーダーである中山が大舞台に立つ意味は大きいのだ。
2019年1月からオランダでプレーし、2019年コパ・アメリカのチリ戦(サンパウロ)で国際Aマッチデビューを飾った彼は「すでにA代表の常連」というイメージだが、実際のキャップ数はわずかに5。歴代2位の125という偉大な数字を残す長友に挑んでいくのは容易なことではない。しかし、それを誰かがやらなければ、世代交代の道は開けてこない。今回の追い風を力にして、彼はこのチャンスをガッチリとつかみ、日本のカタール行きに貢献することが強く求められる。
3日後のオマーン戦。果たして中山雄太はスタメンにリストアップされるのか――。熾烈なサバイバルの行方が気になる。
文=元川悦子
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By 元川悦子