香港戦で3点目を決めた郷家
2021年に開催予定だったFIFA U-20ワールドカップが新型コロナウイルスの影響で中止となり、国際経験を積む場が失われた2001年生まれ以降のパリ・オリンピック世代。彼らにとって、Jヴィレッジで開催されたAFC U-23アジアカップ予選は久しぶりの国際大会だった。
日本は26日にカンボジア、28日に香港と対戦。初戦は先週末に開催されていたJリーグを考慮して大学生と高校生主体のチームで挑み、4-0で勝利。幸先のいい一歩を踏み出した。第2戦はパリ五輪の主力と目される松岡大起や鈴木唯人、藤田譲瑠チマらが先発。藤尾翔太の2発などで4-0と勝ち切った。
第2戦で背番号10を背負い、キャプテンマークを巻いてチームをけん引したのが、1999年生まれの郷家友太だ。パリ五輪世代ではないものの、冨樫剛一監督から直々に招集を受け、参戦することになった。
「正直、最初に呼ばれた時は『なぜこのタイミングに、この年代の自分が呼ばれた』と考えさせられました。候補合宿に来て、メンバーを見た時、『U-20W杯を経験しているのは自分しかいない、それを還元しないといけない』と感じた。冨樫さんもオーバーエイジ(OA)のメンバーを呼んで、一人ひとりに意味を伝えてくれました。試合もそうだし、私生活、会話やコミュニケーションを含めてみんなに伝えていかないといけないことがある。それを意識してやりました」と、郷家は神妙な面持ちでコメントしていた。
本人が言うように、2018年のAFC U-19選手権と2019年のU-20W杯の両方を経験した貴重な存在。アジアでは準決勝でサウジアラビアに0-2と敗れ、W杯もラウンド16で宿敵の韓国に0-1の苦杯を喫した。アジアで勝つことの難しさを誰よりもよくわかっているからこそ、今回の香港戦も「簡単な戦いにはならない」と覚悟を持って挑んだ。
日本が格下と戦う時は毎度のことだが、自陣に引いて5-4-1でブロックを作る香港を攻略するのは想像以上の苦労と困難を要した。前半を1-0で折り返した時、郷家は「正直、焦る気持ちもあった」と本音を吐露したが、そこでブレることなくチームを鼓舞。後半開始早々の藤尾の2点目に続き、自らの右足で3点目のダメ押しゴールを叩き込んだ。右サイドにいた佐藤恵允のパスに反応し、ペナルティエリアに侵入。やや角度のないところから放ったシュートは左ポストを強襲し、そのままネットを揺らす形になった。
「恵允から(ボールを)もらう時、ちょっと左を見て、スルーして翔太に渡してそのままもう1回、ゴール前へ3人目(の動き)で入ろうかと思ったんですけど、相手が思ったより左の中に絞っていたので、トラップしてシュートというイメージで決めました」
とっさに判断を変えられるあたりは、さすがヴィッセル神戸で今季リーグ28試合に出場している選手。カンボジア戦で先制弾を決めた青森山田の4つ後輩の松木玖生らにも先輩らしいところを見せられたのではないか。OAの存在感と決定力を遺憾なく発揮した郷家だが、この大会は「東京五輪落選からA代表」への重要な第一歩。ここからが本当の戦いになる。
東京五輪は、2020年12月の国内組合宿に呼ばれていたが、本大会のメンバー入りはならなかった。とはいえ、五輪出場がA代表への道を保証してくれるものではない。神戸でのチームメイトとなった大迫勇也も2012年のロンドン五輪で落選の憂き目に遭いながら、ブラジル、ロシアの両W杯出場を果たしている。大迫と同世代の原口元気、武藤嘉紀、柴崎岳といった選手たちも同じ軌跡を辿って世界の大舞台をつかんだ。郷家にできないはずがないのだ。
壮大な夢を現実にするためにも、神戸での地位を確立させ、より勝利に直結するプレーを見せなければならない。アンドレス・イニエスタを筆頭に、セルジ・サンペール、山口蛍ら豪華タレントのひしめく中盤だけに、郷家はボランチのみならず、サイドアタッカーやFWなど多彩な役割で起用されている。ただ、今回の香港戦のゴールという結果を見る限り、インサイドハーフなど攻撃的色合いの強い中盤の方が持ち味を出しやすそうだ。このポジションで絶対的存在を勝ち得るのはなかなかハードルが高いものの、それを越えてこそ、A代表が見えてくる。
同世代の橋岡大樹や齊藤未月のように海外移籍に踏み切る道もある。まだ22歳の彼には欧州の扉を叩くチャンスも皆無ではない。ただ、それをモノにするにしても、やはり神戸でコンスタントに実績を残し続けることが最重要命題と言っていい。
昨季はシーズン5得点を挙げたが、今季は負傷離脱もあってまだ2得点。数字はどうしても物足りなく映る。残されたJ1ラスト5試合で得点を積み重ねると同時に、チームをアジアチャンピオンズリーグ出場権の3位以内へと導けば、明るい未来が開けてくるはずだ。
「下の世代の選手たちのやる気をすごく感じたので、負けずに頑張りたいと思います」
目を輝かせながら、語気を強めた郷家。冨樫監督ら協会スタッフもポテンシャルには大いに期待している。その能力を開花させるべく、今大会を1つのきっかけにして、成長曲線を一気に引き上げてほしいものだ。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子