先発したタジキスタン戦では先制点を決めた松木 [写真]=AFC
屈辱的な経験だったことは想像に難くなかった。
AFC U-23アジアカップウズベキスタン2022準決勝。開催国ウズベキスタンとの試合において、MF松木玖生はウォーミングアップエリアで、出番を待ち続けていた。
「自分が入ったときにいかにチームを助けられるか。ずっと考えながらアップしていた」
ただ、試合の流れもあって、大岩剛監督から「玖生」の声が聞かれるまでは長い時間を要した。「なかなか交代がなくて時間が迫ってきた」中で、松木がアップゾーンからベンチ脇に呼ばれたのは90分が経過する直前のことだ。
それでも、「投入されるからにはまず同点、あわよくば勝利というのを求めていた」と、ワンチャンスに懸ける気持ちで、タッチライン手前で交代を待った。ところが、そのとき、日本は2失点目を喫し、試合の行方はほぼ決まってしまった。松木がピッチに入って何かが起きるということもなく、敗戦のホイッスルを聴くこととなった。
これは「つらいどころじゃない」経験だったが、松木はあくまで矢印を自分に向ける。苦しい試合展開の中で「もし自分が出ていれば」という自負は持ちつつも、「それでも出られないのが自分の実力ということ」。指揮官の信頼を得られていない現状について自分自身の問題だと結論づけてもいる。
だからこそ、最後に残された3位決定戦に懸ける思いは特別だ。ここで自分の力を示し、勝つために必要な選手だと認めさせたい、「見返すしかないという気持ちでいる」からだ。
「自分はこの5試合で、ほとんど出場機会を得られていない選手たちの一人。試合に出られたら、自分の長所であるボックス・トゥ・ボックスのプレーであったり、得点に関わるところを出していきながらチームに貢献できればと思っている」

[写真]=AFC
オーストラリアの映像もチェックし、イメージは膨らませている。
「ここまで来る力があるチームだなと思いましたし、一人ひとりのフィジカルがあるし、チームとして縦への推進力というのを出せるチームだなと思った。一発のカウンターだったり、一つのチャンスだったり、決め切るべきところで決め切れないと難しい相手だと思っています」
相手のフィジカル的な優位性を発揮させないように、「体を当てられないポジショニングを取っていく」ことを意識しつつ、最後のフィニッシュに自分が顔を出していくイメージも持っている。
「相手の2CBがかなり人に食い付いてくる傾向があるので、そこで(生まれるスペースに)2列目から飛び出していったり、FWとの関係性で崩していければと思っている」

[写真]=AFC
大岩剛監督が松木を評価していないということでは全くない。むしろことあるごとに名前を挙げてきた選手である。そもそもU-19年代から招集している選手は松木とチェイス・アンリの二人だけなのだ。ただ、いまこの時点では松木より高い評価の選手たちがいることも確かではある。
代表チームに選ばれる選手は、その時点で相応の精鋭だ。そもそも監督は評価していない選手を、自分のクビも懸かっている大会に呼ぶはずがない。しかし、大会となれば、たとえ実力者であっても、出られる選手と出られない選手に分かれていくもの。これもまた避けられない。
そして、その境界線というのは固定されたものではなく、いつでも、1試合であっても踏み越えられていく差である。そもそも代表に呼ばれている選手は、指揮官から一定の評価を得てそこにいるのだから当然だ。
その競い合いの中に、大会を通じた個人の成長もチームとしての発展もある。AFC U23アジアカップの最終戦となった3位決定戦は、そうした意味付けを帯びた試合という見方もできるだろう。そして「自分は決め切るだけ」と言い切った松木は、そのことを誰より分かっている。
取材・文=川端暁彦
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By 川端暁彦