エクアドル戦ではPKストップの活躍などがあったシュミット・ダニエル [写真]=Getty Images
FIFAワールドカップカタール2022前最後の国際Aマッチデーが終わり、最終登録メンバー発表は11月1日に正式決定。日本代表候補選手たちはここから各国リーグで最後のアピールを続けることになる。
9月27日のエクアドル戦で見事なPKセーブを見せ、日本を窮地から救った197センチの大型守護神、シュミット・ダニエルもその1人だ。目下、所属するシント・トロイデンでのプレーに全神経を注いでいる。
代表明け初戦となった10月2日のホームでのオイペン戦ももちろん先発。相手の鋭いカウンターに何度も立ちはだかり、最後の砦となってチームを守っていた。この日のシント・トロイデンはシュート22本を放つ猛攻を見せ、圧倒的に支配していたが、橋岡大樹が2度の決定機を逃すなど、どうしてもゴールが遠い。
そんな最中の76分、一瞬のスキを突く相手の速攻からゴールを決められ、まさかの展開に。このまま巻き返せず、彼らは0-1の敗戦。フル出場した岡崎慎司も「自分たちが上に行くためにも勝たないといけない大事な試合だった」と残念そうに語っていた。
失点したシュミットの悔しさは人一倍だったはず。ここで完封していれば、首位のアントワープと並んで総失点8と最少タイに並んだからだ。
「今季からGKコーチが変わって『俺たちはベルギーで一番のGKグループになろう』という話をしている。今はそこに向かって進んでいます」と本人も目を輝かせていた。だからこそ、オイペン戦の反省を今後に生かさなければならないだろう。
そもそもシュミットは数々の苦難を乗り越えてここまで来た選手だ。東北学院中学校時代まではボランチだったが、走力の課題を抱え、当時の指導者からGKを勧められ、本格的に守護神の道を歩み始めたという。
高校卒業後は中央大学へ進み、2014年に地元のクラブであるベガルタ仙台入りしたものの、出番を得られず、ロアッソ熊本や松本山雅FCへのレンタルを強いられる。2016年の松本時代にはようやくフルシーズンの出場が叶い、2017年に仙台復帰が実現した。
頭角を現すまで時間がかかった遅咲きの男は2018年ロシアW杯後、森保一監督の目に留まり、日本代表入り。同年11月のベネズエラ戦で初キャップを飾る。だが、そこからの代表キャリアも華々しいものではなかった。
とりわけ、最終予選は権田修一(清水エスパルス)が全10試合中9試合に先発。最終節のベトナム戦も川島永嗣(ストラスブール)が出場したため、出番なしに終わっている。特筆すべきなのは、2021年9、10、11月シリーズの6試合で招集外だったこと。この時は東京五輪で活躍した谷晃生(湘南ベルマーレ)が抜擢されていたが、シント・トロイデンでコンスタントに出場していたシュミットにとってはショックだったに違いない。
それでも、本人は「とにかくチームのことに集中する」と割り切り、自己研鑽に励んだところ、最終予選以降の2022年6月シリーズからは徐々に出番が増えていく。
「6月はパラグアイ戦とチュニジア戦に出してもらったけど、『お前、どれだけできるかやってみろ』と試されたんだと思います。パラグアイ戦はまずまずだったけど、チュニジア戦は自分のせいで負けた。特に2失点目は自分に非があったと痛感しています」
そのミスを迅速にフィードバックし、「出るところ」「出ないところ」を明確にするなど自主的に改善を図ったうえで新シーズンに挑んだところ、開幕10試合は1試合平均1失点以下をキープしている。
そういった仕事ぶりを森保監督も認めたからこそ、9月シリーズで再びチャンスを与えたのだろう。権田のアクシデントもあったが、シュミットは2試合に出場。冒頭の通り、エクアドル戦で異彩を放ち、マン・オブ・ザ・マッチに輝くまでの「赤丸急上昇」ぶりを見せたのだ。
「あのPKセーブは反響ありましたね(笑)。でも自分としては予想外。というのも、今まで公式戦でPKを止めたことが一度もなかったんですよ。いい感じで相手にプレッシャーを与えられたとは思いますけど、初めて大きな仕事を達成できたのはよかったですね」
本人は柔らかな笑みを浮かべたが、際立ったのはそのシーンだけではない。リスタート時に相手の長身選手が2人フリーになっていた場面で危機一髪のパンチングを披露。複数回のシュートストップ含め、本当に大きな存在感を示したと言っていい。
「自分としては、ハイボールを弾く時はもっと大きく弾き飛ばさないといけないと感じていました。W杯のことはまだ考えられないけど、その大舞台につなげることができたかなという思いはあります」
どこまでも慎重な物言いを貫くシュミット。その無欲が彼の最大の強みかもしれない。森保ジャパン発足から4年が経過したが、地道にコツコツと自身の序列を引き上げ、ここまで辿り着いたのだから、自然体のまま、彼らしい歩みを続ければいい。
実際、本人も「今はチーム内での競争で精一杯。代表のことは考えられない」と話している。そうやって目の前のことを1つ1つ着実にこなした先にカタールでのブレイクがある。今が旬の30歳の守護神なら何か大仕事をやってのけそうな気がする。
本番がとにかく楽しみだ。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子