[写真]=Getty Images
「ロシアを離れた瞬間から僕はここしか見ていなかった。それが4年半続いてきただけで、今になってワールドカップへの思いが強くなったっていうことではない。強い気持ちを4年半、つねに持ち続けられたのが全てだと思います」
こう語気を強める浅野拓磨にとって、FIFAワールドカップカタール2022に臨む日本代表メンバー入りは悲願だった。というのも、ご存じの通り、2018年のロシアW杯は開幕直前までチームに帯同しながら、本大会の23人枠に入れず、ロシアの地を離れることになったからだ。
「最後の1日前まで最終登録メンバーに入れると信じていました。実際、岡崎(慎司)さんは練習に参加できない状況だったので、可能性は高かったと思います。でもコロンビア戦の直前に『日本に帰ることになった』と言われた。正直、悔しかった。でも、自分が岡崎さんの立場だったら『絶対に大丈夫』ってドクターや監督に言い続けたと思う。それに、メンバーに入るだけじゃなく、試合で戦う姿勢を出して活躍していた。その姿を見ていたら『俺ももっともっとやらんとダメだな』と強く感じました」と浅野は以前、4年半前の屈辱の瞬間をこう述懐していた。
日本が香川真司の先制PKと大迫勇也の決勝弾でコロンビアに歴史的勝利を収めた一戦をサランスクのスタジアムで脳裏に焼き付け、快足FWは4年後を目指した。その間、ハノーファー、パルチザン、ボーフムと3クラブでプレーしたが、アーセナルからのレンタルで加入したハノーファー時代には、出場する試合数に応じた買取義務が発生するため、終盤は塩漬け状態に陥り、パルチザンではコロナ禍に直面。7人兄弟の大家族の中で育った浅野は帰国できず、寂しい思いをしたという。しかも2021年5月には給与未払いによる契約解除で退団。無所属も経験し、何とか欧州5大リーグ復帰を果たして、今を迎えるに至ったのだ。そのキャリアは本当に紆余曲折の連続だったというしかない。
そんな経験が彼を強くしたのだろう。ゆえに、今回の長期離脱もタフに乗り越えられた。
「(9月10日のシャルケ戦で)ケガをした時は『ここでか』というのを僕自身、すごく感じました。サッカーの神様はなかなか自分をいい方向に行かせてくれないなと(苦笑)。でも不幸中の幸いというのか、僕はあのタイミングでケガをしたことで『自分にできる準備をするしかない』とポジティブになれた。『人事を尽くして天命を待つ』じゃないですけど、やれることをやって、あとは森保(一)監督の判断に委ねるしかなかったです」
結局、11月1日のメンバー発表で浅野拓磨の名が呼ばれ、長い年月を経て、ついにW杯メンバーの座を手中にした。これだけの苦労と努力をしたのだから、次はピッチに立って暴れ回るしかない。その挑戦権を得るためにも、17日のカナダ戦で存在感を強烈にアピールしなければならない。
森保監督も浅野のスタメン起用を明言。千載一遇のチャンスが巡ってきたのである。
「『最後の調整』と言いますけど、僕自身はそこに全てを懸けるつもりで挑みたい。いい形でW杯に入るためにも、自分が持ってる全てをそこで出したいと思います」
久しぶりの実戦でどこまでできるかというのは、本人も手探り状態だと明かす。
「特に不安も心配もないけど、自分が今、100%の状況かというのも、ピッチでやってみないとわからない。本当に100%やるだけという気持ちとともに、ケガだけは絶対にしないようにしないと。120、130%の力を出すのはいいですけど、またケガをしてしまったら、それ以上もそれ以下もない。注意しながら、やれるだけのことをやりたいと思います」
浅野のモチベーションは最高潮に達している。2カ月もゲームから遠ざかった後の国際試合は難易度が高いが、可能な限り、長くピッチに立って、世界基準の強度で戦えることを示すしかないだろう。
W杯で優勝候補の一角と位置づけられる強豪国から勝ち点を挙げようと思うなら、最前線の1トップがハイプレスをかけ続け、パスコースを消し、ボールを高い位置で奪うスイッチ役をこなすことが必要不可欠。浅野はもともとそういったハードワークができるから、森保監督に重用されてきた。その強みを出しつつ、敵を脅威に陥れる爆発的なスピードを前面に押し出すことができれば、本番を戦えるメドが立つはずだ。
対峙するカナダは、世界的知名度を誇る選手は多くないが、セルビアでプレーする守護神のミラン・ボージャンらもいて、浅野にとっては戦いがいのある相手と言える。森保監督も「カナダの組織力は世界トップクラス」と警戒心を隠さない。3バックで来ると見られる相手のスキを突き、得点できればまさに御の字。「自分たちのストロングを出すことが優先」と浅野も虎視眈々とチャンスを窺っていくつもりだ。
今回の日本FW陣は、代表ゴール1の前田大然、ゼロの上田綺世、町野修斗と国際的な実績の乏しい面々が揃う。通算7ゴールの浅野は豊富な国際経験を生かして、より数字に強くこだわらなければならない。
来るべき大舞台で、最前線の主軸としてチームをけん引すること。それが28歳になった点取屋の使命である。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子