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4年前を彷彿させるキラーパス復活 柴崎岳、カタールで攻撃の切り札へ

2022.11.20

[写真]=Getty Images

 FIFAワールドカップカタール2022本番前、最後のテストマッチとなった17日のカナダ戦。最終的に1-2で逆転負けし、不完全燃焼感の強い結果となったが、先発でキャプテンマークを巻いた柴崎岳は異彩を放った。

 最初の大仕事は開始8分。相馬勇紀への芸術的な縦パスだった。谷口彰悟からいったんボールを受け、南野拓実に展開。リターンを受けた瞬間、ディフェンスラインギリギリの位置にいた背番号24を見逃さず、鋭いボールを供給。待望の先制弾を演出したのだ。

「ショートカウンター気味の攻撃は武器になる。勇紀がうまく抜け出してくれたし、パスをうまく引き出すいい動きだったと思います。難しいボールだったけど、よく決めてくれた。自分が出たらそれ(縦へのスイッチを入れる仕事)ができないといけないし、それが求められていることだと思います」

 謙虚な物言いを見せる柴崎だが、残したインパクトはこのアシストだけではかった。その後も左右への鋭いサイドチェンジやロングパスで攻撃の起点となり、相手を揺さぶり続ける。59分の南野拓実の決定機も、上田綺世にクサビを入れて力強いポストプレーを引き出し、そこから作られたもの。これが入っていたら、まさに理想的な展開だった。

 こうした一連の流れを含め、カナダ戦は柴崎のパスセンスと戦術眼の広さを多くの人々が再認識する好機になったのは間違いない。

 思い起こせば、ロシアW杯ラウンド16のベルギー戦で原口元気の先制弾をお膳立てしたのも、背番号7の縦パスだった。長短のパス1本で局面をガラリと変えられる能力を森保一監督は高く評価しているからこそ、今回もあえて26人枠に抜擢した。

「森保監督の息子」「ベテラン枠」などといった心ない批判にもさらされたが、やはり彼はカタールW杯を戦う上で必要な戦力。それを実証したことは極めて大きな意味を持つ。

 加えて言うと、強烈なアピールを本番直前の重要なゲームでやってのけるところが実に彼らしい。4年前も大会前最後のパラグアイ戦でスタメンに抜擢され、今回のように中盤で異彩を放ち、長谷部誠のパートナー役を射止めているからだ。

「あの時はその前まで結果も内容もついてこない中、パラグアイ戦でメンバーが変わって、出た選手が結果を残して本大会に臨んだ経緯がある。でも今は違って、スタートで出ている選手たちが非常にいいプレーをしていますし、それにプラスして、ベンチで見ている選手たちがチームの総合力を高めるようなプレーができればいい。状況は違います」

 本人はあくまで冷静に状況を客観視する。が、初戦となるドイツ戦の先発を左右するかもしれないカナダ戦で存在価値を証明してしまうところは、実に勝負強い。そういう意味でも柴崎の存在は心強いと言える。

 ただし、今回はドイツ戦でスタートから出る可能性はやや低い。というのも、ジョシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、イルカイ・ギュンドアンら豪華な中盤を封じようと思うなら、どうしても球際や1vs1に強いタイプのボランチを配置しなければならないからだ。

「スタメンで出ても途中から出ても、攻撃のスタイルで得点を生み出すところは自分自身、最も求めていくところだと思います」と自身は時間帯に関係なく自らの役割を全うする覚悟を持っている。

 実際、相手の運動量が落ちてくれば、中盤にスペースが生まれ、柴崎の球出しのチャンスも広がる。今回の相馬の先制弾のように、最前線に陣取る前田大然や浅野拓磨らが一瞬の動きで背後を取れば、そこにピタリと合わせるボールをつけられる。針の穴を通すようなパスの正確性と鋭さは遠藤航、守田英正、田中碧にはない部分。さらに言えば、鎌田大地ともタイプが微妙に異なる。

 類まれなサッカーセンスを発揮する場面はグループステージ3試合の中で必ずやってくる。とりわけ、支配率で日本が上回るであろうコスタリカ戦はより彼の力が必要になりそうだ。そこでチームを勝たせる仕事をしてくれれば、2大会連続W杯代表としての重責も果たせるに違いない。

「今は早く攻めて、相手が整っていないうちに攻め切ってゴールで終わるという絵を描いている部分もありますけど、そういったプレーが多くなりすぎるとどうしても単調になってしまうこともある。僕はボランチというポジションでやっていますけど、ボランチだけじゃなくて、センターバック、サイドバック、前の選手と連携しながら、プレー選択の部分でその場限りのシーンだけじゃなくて、チームが長い目で絵を描けるような声掛けをしたいと思っています」

 こういった視野の広さや先を読む力、リーダーシップは若い選手たちに不足しがちな部分。今回の攻撃陣はW杯初出場が揃うだけに、どうしても急ぎ過ぎる傾向が強くなる。そこに柴崎が入ることで緩急がつき、攻めのリズムも多様化するはずだ。

 彼がピッチに立った際には、あらゆる形で敵をかく乱し、混乱に陥れ、泥臭く勝ち点を奪う…。そんな戦いを演出できれば、日本はサプライズを起こせるのではないか。カナダ戦で期待感を抱かせてくれた背番号7の一挙手一投足にさらなる活躍を待ちたいところだ。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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