酷暑のバーレーンで唯一の3戦フル出場！　パリ世代の“守護神”鈴木彩艶、ベルギー移籍でさらに逞しく

　パリ五輪1次予選を兼ねるAFC U23アジアカップ予選が6日から12日にかけて、中東のバーレーンにて開催された。大岩剛監督率いるU-22日本代表は夜になっても気温35度前後を記録し、70パーセント前後の高い湿度も伴う現地の厳しい気候に苦戦しつつも、2勝1分の戦績で首位通過を決めた。

　選手を大きく入れ替えながら3試合を戦ったU-22日本代表にあって、唯一3試合連続先発フル出場となったのが、GKの鈴木彩艶（シントトロイデン）だ。シントトロイデンでは大会を前にして2試合の先発出場も経験。「試合に出ているので、やっぱり違う」と本人が笑顔で語るように、実際にピッチに立って課題を出し、トレーニングに励んでから合流する代表の風景はこれまでと違っていたようで、トレーニングから自信に充ち満ちたプレーを披露。「ミスを恐れるのではなく、ミスをミスにしないようなプレーをする」というアグレッシブな姿勢で大会に臨んでいた。

　昨年のAFC U23アジアカップでは正GKとしてプレーしていた鈴木彩艶だが、今年に入ってからはGK小久保玲央ブライアン（ベンフィカ）にポジションを譲る試合も多く、やや序列を下げていた。その最大の理由は、所属する浦和レッズでの出場機会が限定的だったこと。こうした状況はベルギーのシントトロイデンへの移籍を今夏決断した理由の一つでもある。ベルギー移籍早々の試合では「ここまで色々と変わるのは初めて」の状況と試合勘の不足から反省材料の多い試合となったが、その「反省」自体を楽しそうに語っていたのも印象的。自分の力と技を公式戦という舞台でぶつけられる喜びを感じているようだった。

　そうした姿勢はバーレーンで行われたパリ五輪予選でも変わらない。大会を通じて日本が圧倒的にボールを支配する時間が長く、GKの出番は非常に限定的だったが、本人が「逆に難しい」と振り返ったように、酷暑の中で集中力を保ちつつ戦う困難さも痛感。たまにくるボールへ冷静に対処してはいたが、「上から観ている以上に荒れていて、グラウンダーのボールが揺れて難しい」という芝にも神経を使って落ち着いた対応を続けた。

　そしてグループ最終戦となった12日の地元バーレーンとの一戦は、この予選を象徴するようなゲームとなった。

　引き分け以上で突破が決まるというシチュエーションで迎えた試合。得失点差より直接対決が優先されるAFCのレギュレーションにより、負ければ敗退になるリスクを抱えての対戦は、これまで以上に神経を使う戦いに。5バックで固める相手に日本がボールを持ち続け、そして点を取れずに苦しむ流れは、まさに“アジア予選あるある”。

　W杯予選を含め、こうした展開から“一発”を喰らって敗退に追い込まれるのは決してレアケースではない。終盤、引き分けでは敗退となるバーレーンが攻勢を開始すると、暑さで消耗していた日本のDF陣は対応が後手に回るシーンが目立ち、FK・CKを続けて与えてしまう苦しい展開となった。鈴木彩艶が「後半特にファウルを取られるシーンが多くなって、特に試合終了間際のようにゴール前でのシーンが続くようだと、本当に何が起こるかわからない」と振り返ったとおり、間違いなく危険な流れだった。

　ただ、守護神は冷静だった。バーレーンのFKが直接ゴールネットを揺らすも、主審のホイッスル前だったということで幻のゴールになる場面もあったが、「もちろん審判が笛で止めたのはわかっていて、壁を作っていたので慌てることもなかった」と堂々とした対応を見せた。最後のプレーでは最初にキャッチしきれず、セカンドボールを押さえる形となったが、そこも「パンチングの判断したほうが良かったのかもしれない」とはしつつも、素早い反応で「ミスをミスにしなかったプレーだと思う」と前向きに解釈。「あそこで下がるのは簡単ですけど、そこで出て行くのが自分の強み」とも語った。

　その上で、チームの戦いについてこう総括する。

「勝って当然の予選と思われているのかもしれないですけど、アジアならではのこういう戦いをここで経験できたのは大きかったのかなと思います。こういうゲームをこれからに生かしていきたいですね」

　そしてこのあと、ベルギーへ帰ってからはもう一つの戦いが待っている。「非常にレベルの高いGK陣がいますので、そこにしっかりと勝って試合に出て結果を出したい」。まず目指すのは日本代表GKシュミット・ダニエルを筆頭とするライバルたちに競り勝ち、ゴールを守り続けること。パリ五輪本大会、そしてA代表への道は、その先に見えてくる。

取材・文＝川端暁彦