[写真]=Getty Images
アジア大会男子サッカー決勝、日韓戦。
試合終了のホイッスルが鳴ったとき、スコアボードに刻まれた数字は1-2。僅差での惜敗にも見えるが、内実に大きな差があったことは他ならぬ選手たちが強く認識していたところだろう。
元より、A代表に準ずるようなメンバーを揃えてきた韓国と、大会の年齢制限より2歳若いチーム。しかも、9月半ばのAFC U23アジアカップ予選に参加したメンバーを除外する陣容で参戦している日本の間に戦力的な差があることは明らかだった。ただ、だから勝てないというスポーツではない。個人的には、序盤に先制されるようだと大差の負けもあり得るものの、逆に機先を制することができれば勝機も出てくると観ていた。その意味で、立ち上がりから勇敢に試合へ入り、左ウイングの佐藤恵允(ブレーメン)の突破から、FW内野航太郎(筑波大)のゴールに繋がった2分の先制場面は理想的な流れに思えた。
だが、GK藤田和輝が「1点取ってから、逆に『もう1点取りに行くぞ』とならず、チーム全体のパワー感が落ちてしまった」と振り返ったとおり、明らかに動揺も観られた韓国に対し、この時間帯に畳み掛けることができず。逆にゲームを落ち着かせることで、個々の力量の総和で上回る相手に試合の主導権を譲り渡してしまう流れとなった。
「勢いのままに点を取ってから、もっと行きたかったというのが正直な感想」とは佐藤の言葉だが、特にタフな相手とのマッチアップを強いられていたDFの選手たちにとっては共有しにくい感覚だったのかもしれない。「まずは勇気を持って仕掛けるぞ」という意思統一を明確にした上で試合に入って早々に最高の成果を得たことで、逆にその後の戦い方にブレが出てしまう皮肉な流れとなった。このあたりの試合運びはチームとしての経験不足だったと言えばそこまでだが、そもそもこのアジア大会に臨んだチームが、本当に力のある相手とぶつかるのが初めてだったというのもあるだろう。
また決勝会場の雰囲気や相手の気迫に対し、知らず知らずのうちに呑まれてしまった部分もあるのだろう。
例えば、左SBで先発した奥田勇斗(桃山学院大)は今大会が日本代表のユニフォームを着て初めて臨む国際舞台だった選手である。前半、攻撃の組み立てが思うようにいかない中で試行錯誤を繰り返し、「前半の途中くらいから、『これはヤバい』、『まったく何もできへん』と思ってしまっていた」と振り返る。だが同時に、「今にして思えば、自分の所から何とかしようとし過ぎていた。もっとシンプルで良かった」とも言う。冷静になれてなかった自分に後から気付いたという話で、これはおそらく複数の選手に共通する部分。やはり力量不足という以上に経験不足が出た部分だったように思う。
その後、韓国に逆転を許す。リードを奪って守りに入った韓国に対し、日本は3バックへのシステム変更で戦術的なマッチアップを変えて攻め込んだが、韓国守備陣を切り崩すには至らず。チャンスの手前までの場面は作ったが、シュートは打てない時間帯が続き、そのままタイムアップを迎えることとなった。
「韓国の圧力、個人個人の力が相当にあった中で、それを倒していけるだけの技術もそうだし……、そして余り言いたくないけれど、やはりメンタルのところに課題が出た。90分間の中でどう自分自身をコントロールしていくかという部分でも成長していけるかだと思う」(大岩監督)
戦術的な部分でも「やるべきことは(選手に)提示したが、やっぱり圧力だったのか……」と指揮官は肩を落とす。一方で、守って勝つのではなく、自分たちのスタイルで殴り勝つことを本気で目指した様子だったからこそ得られたものがあったことも強調する。
「選手たちは、ここでできたこともできなかったことも明確にあったと思う。こちらもしっかり評価するし、要求もしていきたい。その上で、本人たちがこの危険をどう繋げていけるかが大事になる」(大岩監督)
代表経験の少ない、あるいはまったくない選手も多くいた今回の日本代表チーム。当初は不安視する声も少なくなかったが、カタールを初戦で破って勢いに乗ると、「勝ち上がるたびに良いチームになっていった」(大岩監督)。最後は経験不足と力の差を感じさせる敗戦となったが、大会全体で得られた成果を否定する必要はないだろう。
五輪予選に参加した選手が不参加となる中だったが、そのことで逆に日本サッカーの裾野の広さと底高さ、世代としてのポテンシャルを証明する場にもなった。悔しい経験も含め、大会に参加した選手は新たなモチベーションを得たことだろうし、それは予選に参加したメンバーの危機感を煽る効果も生んだはず。それは必ず、日本サッカーの未来に繋がっていく要素だ。
最も注目された決勝戦で思うような試合ができずに敗戦となったことで、戦った彼らについて悲観する声もあるのかもしれない。ただ、初戦からこのチームを見続けた身としては、銀メダルというエンディングも含め、彼らの成長を加速させる要素になる予感しかしていない。
22人の代表選手たちには、今後それぞれのステージでのリターンマッチに期待しておきたい。
取材・文=川端暁彦
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By 川端暁彦