■決意の海外挑戦
「自分は海外に行きたいですし、行かないとパリ(五輪代表)やA代表には入っていけない。海外への意識は今年、さらに強くなりました」
12月5日のJリーグアウォーズでベストヤングプレーヤー賞を受賞した際、アルビレックス新潟の三戸舜介は海外移籍への強いこだわりを口にした。
それから2週間あまりが経過した22日、三戸のオランダ1部・スパルタ・ロッテルダムへの完全移籍が正式発表された。
「彼なりに、どこに向かっていくかという目標から逆算して、様々なことに取り組んで結果も出て、アウォーズで賞もいただいた。彼自身が成長しているのは素晴らしいこと」と、新潟で2年間指導した松橋力蔵監督も三戸の自主性や自己判断力を高く評価していた。
そういうタレントであれば、海外へ赴いても自分で考えて最善の道を歩めるはず。チームメートに1つ上で同じパリ五輪世代の斉藤光毅がいることも心強いだろう。
斉藤は10月以降、右太もも裏の負傷で長期離脱しているが、年明け早々には復帰できる見通し。三戸にとっては新天地での適応の助けになってくれるに違いない。そこは非常に大きなアドバンテージと言っていい。
■新天地でのライバルと求められるモノ
今季のスパルタは前半戦16試合終了時点で勝ち点22の7位。46歳のイェルン・ライスダイク監督率いる若いチームだが、勢いと推進力は凄まじい。基本布陣は「4−2−3−1」、もしくは「4−3−3」で、ウイングに求められるのは大胆なドリブル突破と仕掛け、チャンスメーク、そしてフィニッシュだ。
2022年夏からプレーする斉藤は、そういったストロングを最大限発揮し、昨季は7ゴールをゲット。9月にケガをするまでは完全に左ウイングのファーストチョイスとなっていた。三戸は新潟やU-22日本代表同様に右で起用されると見られるため、斉藤と左右のワイドで敵陣を切り裂くようなプレーが見られるかもしれない。
ライバルになりそうなのは、同じパリ五輪世代で22歳のアタッカー、カミエル・ネグリ。164センチという小柄な三戸とは対照的で、179センチと比較的大柄な選手だ。今季15試合に出場し、最近9試合は全て先発している。得点こそ2ゴールと少ないが、チーム内で重要な役割を果たしていると見られており、三戸はこのアルジェリア人MFからポジションを奪うことが求められそうだ。
新潟やU-22日本代表で見せているようなタテへの勢いや切れ味鋭いドリブルを遺憾なく発揮すれば、必ず出番は訪れるだろうが、絶対的な地位を築くためには、やはりゴールという結果が必要不可欠。それは斉藤も強調していた点だ。
三戸は「(今季新潟で)4点しか取っていない。まだまだだと思うので悔しい」と2023年シーズンを振り返っていたが、確かに数字的な上乗せは必須だろう。
■恩師は“左足”に期待
それでも、松橋監督が「三戸はもともと点を取れる選手」と太鼓判を押す。
「多くの方は三戸の右足に期待している思いますけど、僕は左だと。練習でも左足の方が点を取れるんですよ。だから右サイドで使うことを躊躇しなかった。本人はあまり右ではプレーしたくなかったかもしれないけど、右も左もできますし、真ん中もできますし、どこでもできる。試合で使えば伸びる素材なのは間違いないと思います」
「シュートの部分に関しても、技術的なところは田中(達也)コーチとずっと取り組んでいたので、成果出せるようになってきましたが、本人は満足してないし、まだまだ足りないと感じているでしょうが、それを乗り越えていける選手だと思います」
新潟で三戸の飛躍を目の当たりにしてきた指揮官は、大きな期待を寄せているが、田中達也という日本代表でも活躍した小柄な点取屋から得たものは、オランダの地でも必ず生かせる。むしろそう仕向けていくことが、田中コーチや松橋監督への恩返しになるに違いない。
スパルタで斉藤と左右のウイングで脅威になり、見る者を驚かせることができれば、揃ってパリ五輪で躍動し、そのままA代表入りという理想的なシナリオも見えてくるかもしれない。欧州移籍を選んだことで、4月の五輪最終予選を兼ねたAFC・U-23アジアカップ(カタール)参戦は微妙になったが、とにかく今はオランダという異国に適応し、自分のストロングを出すことに集中することが肝要だ。
164センチの小さな巨人が大男たちをキリキリ舞いする姿を、楽しみに待ちたいものである。
取材・文=元川悦子
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