ベトナム戦では後半途中から出場した毎熊(右) [写真]=AFC
一時はリードを許すというまさかの展開を乗り越え、ベトナムを4-2で撃破。AFCアジアカップカタール2023を白星発進させた日本代表。だが、オーストラリアがインドから得点するまでに時間がかかったり、韓国がバーレーン攻略に苦労するなど、アジア全体の実力差が小さくなっている印象は否めない。
それだけに、19日の次戦で対峙するイラクも警戒しなければならない相手。1993年のアメリカ・ワールドカップ最終予選で起きた“ドーハの悲劇”を筆頭に、日本はイラクにたびたび苦しめられている。
直近のワールドカップ最終予選を見ても、2014年大会はホーム、アウェーともに1-0で辛勝。2018年大会では、2016年10月のホームゲームを山口蛍の劇的ロスタイム弾で2-1とギリギリの白星。中立地テヘランでの2017年6月のアウェー戦はドローに持ち込まれている。これら全ての試合が拮抗した展開で、楽観視できるものではなかったのは確かだ。
今大会に挑んでいるイラクもタフさとアグレッシブさを併せ持ったチーム。15日にインドネシアを3-1で下した試合を見ても、球際の強さ、個の打開力、推進力などが大いに目についた。頭から強度の高い入りをしないと、前半苦戦したベトナム戦のような試合展開にならないとも限らないのだ。
とりわけ、要注意なのが、イラクの左サイド。19歳の左ウイング、アリ・ジャシムはスピードと突破力があり、後方に位置する左サイドバックのメルカス・ドスキも攻撃参加に秀でている。そこにトップのモハナド・アリらが絡んで分厚い攻めを仕掛けてくるため、日本の右サイドはしっかりとした守備から入る必要があるだろう。
そこでキーマン候補に浮上するのが、右サイドバックの毎熊晟矢。ベトナム戦で菅原由勢がイエローカードをもらったこともあり、次は彼が先発する可能性が高いと見る。
2023年9月のトルコ戦で代表初キャップを飾った彼はここまで5試合(うち先発4試合)に出場。短期間で代表定着し、アジアカップ初参戦を果たした。非常にクレバーなポジショニングと攻撃センスを前面に押し出し、伊東純也や堂安律らと縦関係を形成。「周囲を生かし、自分も生きる」という良好な関係性を作り上げてきた。
ここまでの急成長ぶりは目を見張るものがあるが、国際経験が少ないのは事実。相手が猛然とぶつかってくるアジア特有の入りも経験したことがない。そこは毎熊の懸念材料でもある。これまでの落ち着きと冷静さをイラク戦でも持続できるのか。その部分はイラク戦の注目点の1つと言っていい。
そのうえで、対面に位置するアリ・ジャシムを完封しなければならない。
「(推進力のあるアタッカーに対しては)できるだけ距離を詰めたい。ただ、詰めすぎても背後をやられるので、そこは注意しないといけない。日本代表にもスピードや推進力のある選手はたくさんいますし、練習からずっとやっているので、それを本番からそのまま出せたらいいと思います」
彼は約4カ月間の代表経験を糧にして、目前の敵にぶつかっていく覚悟だ。
特に世界的ドリブラーである三笘薫とマッチアップを繰り返した経験は大きな自信になっているという。
「9月に初めて代表に来た時はあのドリブルに驚いたけど、その感覚は全然違うなと思います。最初は『自分の1対1』という感じでやっていましたけど、今は『前の選手を動かしながら自分が詰めやすいように』と考えることができてきている。戦術の中で前を詰めることを意識しています」と本人は変化を実感している様子。それだけ縦関係にいる伊東や堂安、横にいるセンターバック陣と“阿吽の呼吸”が生まれつつあるということだろう。
そうやって組織で守れば、イラクの勢いを封じ、迫力を削ぐことができる。そのうえで、日本は日本のペースで戦えばいい。相手はロングスローも駆使したリスタートも得意としているが、それもベトナム戦の反省を踏まえながら、しっかりとマークを徹底させていけば問題ないだろう。
「ベトナムもあまり高い選手がいない中で2点やられてしまいましたし、単純に高さだけではない部分もある。ただ、ヘディングには自分も自信を持っているので、集中してやらせないようにしたいと思います。ロングスローに関しても、J1では少ないけど、J2では投げてくるチームが多かったですし、そこはJ2時代からチーム戦術や立ち位置としてもやっていた。注意はしないといけないですけど、そこまで深く考えなくてもいいと思っています」
V・ファーレン長崎時代も含め、これまでのプロキャリアで積み上げてきたものを凝縮して発揮すれば、毎熊は十分に仕事ができるはず。ここで攻守両面に安定感のあるパフォーマンスを示せれば、定位置争いを少しリードしている菅原からポジションを奪える可能性も高まるし、海外移籍の道も開けてくるかもしれない。
今回のアジアカップはある意味、毎熊のサッカー人生の懸かる大舞台。千載一遇のチャンスをモノにすべく、イラク戦で最高のプレーを見せ、日本の勝利に貢献してほしい。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子