アジアカップのグループステージでは初出場だった1988年大会以来となる黒星という歴史的敗戦を喫した19日のイラク戦から中4日。日本代表にとって、24日のインドネシア戦は再起に向けた重要な一戦となる。
とりわけ、直視しなければいけないのが失点の多さ。14日のベトナム戦でリスタートから2失点したのに加え、イラク戦では右サイドを崩され、長身FWアイマン・フサインにクロスから2つのゴールを献上した。
「どのチームと対戦しても、やることがハッキリしていると感じます」と2戦先発した板倉滉が語るように、アジアのチームは日本相手にロングボール主体の戦術を多用する傾向が強い。それが日本の弱点だとわかっているからこそ、イラクなどはあえてそれを徹底。その通り、屈する格好になってしまったと言える。
となれば、いかにして蹴ってきたボールを跳ね返し、いい攻撃につなげていくかは大きなポイント。遠藤航らを中心に、チーム全体で話し合ったという。
「浅野(拓磨)選手と僕が2枚でプレスをかけるのなら、競るのはボランチじゃなくてセンターバック(CB)だという話は出ているので、そこはもう問題ないと思います」と久保建英が強調したが、本当にその通りにできるかどうかは最終ラインの統率力による部分も大。次戦で満を持して先発復帰すると目される冨安健洋に託されるものは大きい。
12月2日のウルヴァーハンプトン戦で左足ふくらはぎを負傷し、年末31日のフルアム戦で復帰したものの、そこで今度は「削られて」足首を痛めた冨安。カタール入り後は別メニューを強いられたが、入念に調整を進めてきた。
森保一監督のシナリオでは、グループ2戦は谷口彰悟と板倉で戦い、3戦目のインドネシア戦で冨安を送り出して実戦に慣れさせて、勝負の決勝トーナメントに挑む形を考えていただろうが、思わぬ苦戦で復帰が早まった印象だ。
冨安が戻ってきたイラク戦後半の守備は少しずつ安定感が高まり、相手につけ入るスキを与える場面が減った。2点リードのイラクが守備への比重を高め、スピード系のアタッカーを前線に並べたこともあって、ハイボールを蹴り込んでくる回数も減り、守りやすくなったのは確かだろう。
それでも、逆転への機運はなかなか高まらない、結局のところ、終了間際の遠藤航のリスタート弾を返すにとどまり、冨安投入が勝利にはつながらなかった。
「相手にリスペクトされているし、1回勢いに乗らせたら、スタジアムの雰囲気も含め、相手が乗ってしまう。そういう意味では、先制されて相手の流れにさせてしまったところと2点目が痛かったです。0-1であれば、まだチャンスはあったと思うので。本当に簡単じゃなかった」と最高峰リーグで戦っている男も反省しきりだった。
そこで、冨安に今、思い出してほしいのが、前回の2019年大会だ。20歳になったばかりの彼は長友佑都、吉田麻也、酒井宏樹といった実績ある先輩たちと主力の一員としてフル稼働。手堅い守備を構築し、ファイナルまで勝ち進んでいる。あの大会の安定感は見る者を驚かせたし、代表最多キャップ数を誇る遠藤保仁にも「自分の記録を超えるとしたら冨安くん」とさえ言わしめた。
あの時、長友や吉田はなぜアジア相手に安定感ある守備を構築でき、高度なリーダーシップを発揮できたのか。この5年間でシント・トロイデン、ボローニャ、アーセナルとステップアップし、FIFAワールドカップカタール2022も経験した冨安には自ずと答えが出せるはず。それだけの経験値があるのは今のDF陣では彼しかいない。インドネシア戦では周りを動かす統率力を発揮してもらいたい。
「間違いなく簡単な試合にならないことはわかっています。インドネシアも次のステージに進む可能性を残している。相手の勢いに飲まれずに、僕らから仕掛けて叩きのめす気持ちでやりたい。あとは個人的にDFなので、ここ2試合クリーンシートできていない。しっかりとそこに貢献できればいいと思っています」
森保監督とともに前日会見に出席し、こう力を込めたが、インドネシアを封じて確実に勝ち点3をゲットできれば、チームを取り巻く雰囲気はガラリと変わる。A代表として初の大舞台の鈴木彩艶ら若手も自信を持って決勝トーナメントに向かえるだろう。
そのためにも失点0はマスト。インドネシアも最前線に185センチの長身FWラファエル・ストルックがいて、彼のヘディング力を生かした攻撃を仕掛けてくる。しかも両サイドは速さと打開力を兼ね備えている。加えて言うと、指揮を執るのは韓国人のシン・テヨン監督。韓国の年代別代表を率いていた頃から日本に対して凄まじいライバル意識をむき出しにしてきた指揮官は、あらゆる手段を講じて勝ちに来るだろう。それをしっかりと止めてこそ、日本は立ち直る。冨安にはその担い手になることが求められる。
中澤佑二、吉田が背負ってきた背番号22を引き継ぎ、不甲斐ない試合はできない。新背番号でのデビュー戦となったイラク戦はほろ苦いものとなってしまったが、ここから成功ロードを歩むべく、このゲームで会心のパフォーマンスを見せ、完封勝利を手にしてほしい。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子