頂点へのキーマンとなる三笘薫 [写真]=Getty Images
AFCアジアカップカタール2023で5度目の戴冠を目指す日本代表にとって、最大の難局と目されるのが、準々決勝のイラン戦だ。彼らはFIFAランキング21位。17位の日本とアジア1、2位の地位を築いている。
FIFAワールドカップカタール2022ではイングランド、アメリカと同組でグループ突破はならなかったものの、ウェールズに勝利しており、底力のあるチームなのは間違いない。攻撃のキーマンであるメフディ・タレミが不在で、決勝トーナメント1回戦シリア戦からの試合間隔が日本より短いなど、マイナス要素はあるが、意地とプライドを懸けて凄まじい迫力で挑んでくるのは間違いない。
そのイランに対し、日本もバトルの部分で負けていたら話にならない。ただ、相手の土俵に持ち込まれると劣勢を強いられる可能性が大。やはり日本らしい、いい守備からいい攻撃を実践し、連動性溢れる攻めでフィニッシュまで持っていくこと。それが勝利への近道だと言っていい。
旗手怜央の負傷、伊東純也の離脱など、アクシデントが続いている日本にとって1つの朗報は、1月31日のバーレーン戦で実戦復帰した三笘薫の存在だ。
12月下旬のクリスタル・パレス戦で左足首を負傷してから1カ月余り。日本代表入りしてからもリハビリに専念し、外から仲間たちの戦いを見守り続けてきた。
当初はグループステージ第3節のインドネシア戦での復帰を目指していたが、リバウンドが出たのか、21日、22日に全体練習を欠席。復帰が遠のいた。それでも本人は「もともと決勝トーナメントからというシナリオもあった。順調です」と強調。その言葉通り、バーレーン戦の68分から中村敬斗に代わって登場。持ち前のスピードと突破力、高度なドリブルスキルを前面に押し出し、数多くのチャンスを演出した。
3人のDFを絶妙な間合いでかわし、長い距離を持ち運んで浅野拓磨にラストパスを供給した85分の決定機はビッグチャンスだった。三笘にアシストはつかなかったが、試運転としては上々だったと言えるのではないか。
「一発目から止められているんで(苦笑)。そういう少ないチャンスの中で、一つひとつのプレーが大事なってきますし、少ないチャンスでやり切らないといけない中で、まだまだ物足りないなと思いました」と、本人はどこまでも貪欲に高みを目指し続けているが、決して満足しないのが三笘の強み。頭抜けた向上心があったから、短期間でプレミアリーグのトップ選手にのし上がり、日本代表のエース級に上り詰めたのだ。その底力を示すのはまさにここからだ。
「動き自体はまだまだ全然ですね。まだ上げないといけないですし、今日はリードした展開だからこそ、できたプレーもあった。次はもっと厳しくなると思います。僕はもうここからプレーで見せないといけないですし、ボールを持った時に時間を作ったり、違いを見せて突破することが求められるので。次の相手はもう少しボールポゼッションできないと思いますし、1人でやり切ることが求められている。それを準備したいと思います」と三笘は明確に自分の仕事を描いていた。
確かにイランの右SBラミン・レザイアンは非常に走力が高く、粘り強い守備が自慢のタフガイ。経験も抱負で、三笘にとって難敵かもしれない。もちろんレザイアン1人ではなく、サマン・ゴドスらボランチ陣もカバーに入って、徹底的に三笘をつぶしにくるはずだ。
そういった環境はプレミアリーグでも慣れているはず。自分に2人、3人のマークが来るのであれば、その分、周りが空く。緩急をつけながら周りを生かす術に彼は長けている。今回、三笘が出るであろう時間帯はイラン守備陣が疲労の溜まってきた後半以降と見る。であれば、そういったプレーはよりやりやすくなる。
三笘が味方を生かし、自分も生きることができれば、本当に救世主になれる。今こそ絶対的違いを見せてほしいのだ。
「(イラン戦で大事なのは)まずいい守備をすることです。先制点を与えないことが大事ですし、日替わりヒーローというのはもちろん、途中交代の勢いも必要。チーム全体で勝って行く必要があります。延長も含めて、我慢強く戦っていく。失点しても焦らず、得点しても普段通り進める冷静さは必要になるかなと思います」
どんな状況でも落ち着いて自分自身のやるべきことを追求していく覚悟を見せた三笘。この男が躍動すれば、日本がイランに負けるはずがない。あらゆる意味でスカッとした勝利を演出すべく、“左の槍”には久しぶりの代表ゴールを期待したい。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子