正確な左足で好機を演出している山田楓喜[写真]=Getty Images
近年、各種大会の総括分析でしばしば出てくるワードがある。「直接FKからそのまま決まったゴール数の減少」だ。中村俊輔氏のような名手が猛威を振るった時代が終わり、FKからのゴールは日本だけでなく世界的にも減少傾向だ。もはやFKキッカーは「絶滅危惧種」だと思われるようになって久しい。
そんな日本で、忍者の里・滋賀県甲賀市出身のキッカーが独特のスタイルを確立し、存在感を放っている。今季京都サンガF.C.から東京ヴェルディへと移籍したU-23日本代表MF山田楓喜だ。今年のJ1で早くも二つのFKからの直接ゴールを記録しており、一発のキックで試合の流れを一変させるFKキッカーの凄味を我々に思い出させてくれている。ほとんど助走を取らない独特の間合いから繰り出す弾道は、予測を超えた軌道を描きゴールネットを揺らしてきた。飄々とした雰囲気をまとう山田だが、この左足のキックに関しては、揺らがぬ絶対的自信を持つ。
「(FKからゴールを狙うチャンスが)あれば、決めるんで。誰かファウルを取ってきてくださいって感じですね」。U-23日本代表の一員として臨んでいるAFC U23アジアカップでもそんな不敵なコメントが飛び出すほど。実際、今大会も惜しいシュートは放っており、次戦へ向けても、「(セットプレーで違いを)作ります」と自信を隠さない。
FKの蹴り方はかなり個性的だ。「試合の流れとかは関係ない」と切り離して考えているというFKは、「そのときのフィーリングで自分が決めた歩数」分だけの助走を取る。まずこの助走が一般的な基準からするとかなり短い。「誰かを真似したとかはない」という独自のやり方だ。
「なるべく助走は短く。キーパーも読みづらいし、ああいう形になりましたね。他の人はあんま蹴れないと思うんですけど、あの助走の短さでああいうボールを蹴れるのが自分の特長ではあります」
ユニークなのは「直接FKの練習は特にしていない」ということ。キックの練習自体は日々積み重ねていて、その延長線上で「自分の感性で感覚のまま振り切ったら、良い感じにいっちゃう」ようになったものだと言う。ただ唯一、京都のアカデミー時代に「一時期だけずっとFKの練習をしていた時期はあった」。そこで同じ左足の名手だった美尾敦コーチ(当時)から伝授された「自分のリズムを作れ」という教えは実践し続けている。
「ファウルになって、ボールを置いて、蹴るまでの流れを自分で意識して作るようになって、そのおかげで今があるかな。自分の時間は大事にしています」
独特な間合いで繰り出すFKは、それだけで観る価値があるレベルで、本人も絶対の自負を持つ。「そろそろ分析されるのでは?」という記者の質問に対しても、「バレててもキック精度が落ちることはないんで、全然大丈夫です」と、一笑に付した。
もちろん、「FKだけ」の選手ならU-23代表のスタメンを張れるはずもない。元より技術に加えて身体的な資質も高く、181センチの長身に加え、持久的な走力のベースもあった。本人も「自分の中では走れるほうだと思ってたし、球際で負けると感じることも余りなかったんです」と言う。
ただ、昨年京都で先発出場の機会が減る中で、「『このままでええんか?』みたいに思った」と、改めて一つの決断を下す。「世界で戦っていくには、もっと走れないといかんし、もっと一人でも当たり負けせずにキープしてタメを作ったりできるようにならないといけない」と、昨年夏から食事の面を含めた自己改造を開始した。本人は「まだ伸びしろだらけ」とおどけるが、体重はそのままに体脂肪率は二桁から一桁に絞られたそうで、より筋肉質な体を手に入れている。フィジカル面の向上で、よりテクニカルな部分での特長も際立つようになり、それが自信にも繋がっているように見える。今季、山田は明らかにプレーヤーとして一皮むけた。
いわゆる“上手い系”で、左足のキックに特長を持つ選手。そんなイメージが変わったわけではないが、「『戦えるぞ』ってのを見せないといけないと思ったんで」と言えるようなプレーを見せることで、大岩剛監督の信頼もグッと増した印象がある。25日に始まる「負けたら終わり」の決勝トーナメント。準々決勝の相手は開催国のカタールという難所だが、山田のコメントはいかにも彼らしいものだった。
「なんかそっちのほうが楽しいし、ワクワクするというか、逆に燃えるかなと思っています」
この決戦、ゴール前で日本がファウルをもらったら、背番号11に注目し、ワクワクしておいてもらいたい。「あれば入れる」と宣言していた男の左足が、パリへの切符を引き寄せるかもしれない。
取材・文=川端暁彦
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By 川端暁彦