活躍に期待がかかる荒木遼太郎 [写真]=AFC
まだ4月ではあるのだが、2024年は荒木遼太郎にとって特別なシーズンとして記憶されるだろう。そういう予感を通り越した確信は、おそらく多くの人が共有できるはずだ。FC東京へと期限付き移籍になった今季、荒木はクラモフスキー監督の信頼を掴み取り、試合出場を重ね、ゴールをも積み重ねてきた。鹿島で決して短くない雌伏の時間を過ごした22歳の若武者は、すっかり青赤軍団の主軸選手になっている。
「今が旬」のこの男を、大岩剛監督がパリ五輪を目指すU-23日本代表へ呼び戻したのは必然だった。チーム結成当初のメンバーリストに「荒木」の名前を入れていた大岩監督の、この異才への評価は決して低くない。鹿島で沈む中でメンバーから外れている時期も、荒木についての言及があったほどだ。他の選手がマネできないプレーをする。この特別な選手を指揮官はラストピースとして決戦へ向かうチームにハメ込んだ。比較的ソリッドな、選手にとっては「窮屈」とも感じるゲームモデルを持つ大岩監督のチームにあって、奔放さを持つ荒木の存在はイレギュラーだ。ただ、3月に行われた国際親善試合の時点で、しっかりハマってはいた。
「味方のプレーを見て、どういう時がやりやすそうで、どういう時がやりにくそうかは、すぐ自分の頭の中にいれるようにしている。その人の持ち味を出すように自分もプレーしているし、苦手そうなところは自分が補いながらやればいいかなと思いながらやっている」
周りに誰がいるかでプレー選択を変えつつ、利き足のような分かりやすい要素だけでなく、間合いのような感覚的な部分も頭に入ってるかのようにプレーするので、不思議なフィット感が最初からあった。
勝負どころの切り札として投入された準々決勝・カタール戦では、「自分でもこういう感覚になったのは初めて」というほどのプレッシャーを感じ、投入当初は“らしくない”プレーを頻発したが、ボールと親しむ内に本来のプレーを取り戻して存在感を増すと、延長前半の決勝点をアシスト。大岩監督も絶賛したスルーパスでFW細谷真大の決勝点を演出してみせた。
「あそこの場面で仕事するときは神経を通してますし、パスもつける足だったり、相手から届かない位置だったりを計算してやっている。あそこはミスしてはいけない場所で、神経使いながらやっています」
間で受けて、前を向いて、パスやシュートに繋いでいく。自然にやっているように見えるプレーだが、荒木なりのこだわりや独特の感覚がある。
「もらう前のところからイメージは作っていますし、味方の位置も相手の位置もわかった上でプレー選択しているので、感覚も少しありつつ、その中で相手を見て判断しています」
荒木は試合になると「自分はあまりボールを見ずに相手を見ています」とも言う。相手選手の間(あいだ)でボールを受けられるのも、そうした観察のなせる技なのだろう。特異な技能だが、別に超能力というわけではない。見事なアシストの次はゴールを。そんな期待も高まるが、荒木は「まずはチームが勝つためのことを最優先にやりたい」と強調する。FC東京でもそうだったように、その優先順位を間違えるつもりはない。
また、準々決勝終了後には「緊張よりプレッシャーがある」とも言っていた。「試合中にベンチに座っていても感じました」と言う独特の感覚について、言語化はしづらそうだったが、こう形容する。
「歴代の先輩たちが何十年と続けてきたモノだし、オリンピックには(7大会連続で)出ている。その重圧を少し感じていましたし、その中で得点も入らないという状況で、さらに感じるものは大きかった」
ちょっと前までは代表について素っ気ない発言もしていた荒木だが、いまの心境は明確に違うようだ。「(代表を背負うのは)そういうことなんだなって思いました」。そんな言葉も残している。
途中出場で流れを変える切り札にもなれるが、大一番での先発もあり得るだろう。29日、準決勝・イラク戦。堅固な守備を誇る相手を、今季開花した異能のファンタジスタ、荒木遼太郎の“合理的ひらめき”がこじ開ける。
取材・文=川端暁彦
AFC U23アジアカップ2024 試合日程
準決勝 vsU-23イラク代表
4月29日(月) 26時30分キックオフ
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By 川端暁彦