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“稀代のドリブラー”三笘薫の軌跡を辿る…来季は新生ブライトン&日本代表のエースへ

2024.06.25

[写真]=Getty Images

「東京五輪に出て、海外へ行って、プレミアリーグに行って、いい時期にワールドカップもあって、自分はすごく運がいいなと感じています。ただ、次(2026年北中米W杯まで)の3年半はより難しくなる。代表は移動や連戦もあるので、メンタルのところだったり、チームがうまくいかない中で打開する力が求められてくる。クラブ以上に負荷が高くなると思いますし、過酷な環境の中でクラブと両立させられるタフさが必要になる。それを身に着けたいですね」

 2002年のカタールW杯を経て、第2次森保ジャパンが始動した2023年3月。三笘薫は日本の主軸として新チームをけん引していく強い覚悟を口にした。その時点ではまだプレミアリーグ参戦1年目だったが、世界を震撼させるほどの突出した存在感を見せ、一世を風靡していた。本人も自らの立ち位置を自覚していたはず。その後も順調に右肩上がりの成長曲線を辿っていくと思われていた。だが、そこからの1年3カ月は予期せぬケガの連鎖に苦しみ、長期間ピッチを離れることになった。23-24シーズンはプレミア19試合出場3ゴールにとどまり、代表も1年間で4試合に出場しただけ。長い足踏み状態には本人も悔しさと焦燥感を覚えたはずだ。


 それでも、27歳の稀代のドリブラーの本領発揮はここからが本番。三笘には多少の困難に直面しても乗り越えられるだけのインテリジェンスと粘り強さがある。彼はその能力をこれまでのサッカーキャリアの中でじっくりと養ってきたのである。

髙﨑康嗣と小井戸正亮、2人の恩師が語る三笘薫

[写真]=Getty Images

 日本屈指のアタッカーにとって、最初の飛躍の場となったのが、川崎フロンターレのアカデミー。特に1つ上に板倉滉三好康児、1つ下に田中碧といったタレントがひしめく中、常に「世界基準」や「自分のストロング」と向き合い続けてきたのだ。U-12時代に指導した髙﨑康嗣監督は「いつでも・どこでも・誰とでも・自分の力を出せるのがいい選手」と常日頃から口を酸っぱくして言い続け、意識向上を促していたという。

「自分が指導した川崎ジュニアの中で、薫のポテンシャルは頭抜けていました。でも彼は成長が遅くて、小6の時点で150センチくらいしかなく、中学まではかなり小さかった。フィジカルコンタクトの部分では苦労したと思いますが、『間合いゼロ』『敵とぶつかって痛いと思わなかったら守備じゃない』『パスばっかりじゃダメ』と本当にいろんなことを要求し、視座を引き上げていきました」

 周囲のアプローチが奏功し、選手として順調な成長を見せていったが、ユース年代でメンタル的な課題にぶつかった。当時の三笘にはやや人見知りな一面があり、自分に自信が持てない部分も散見されたという。クラブ側からはトップ昇格を打診されたが、本人は固辞。「じっくり時間をかけて心身両面を鍛え上げた方が自分にとってはいい」と慎重なスタンスを貫き、筑波大学進学を決断した。恩師である小井戸正亮監督は大学4年間の三笘をこう語る。

「本人は『フィジカル的に通用しない』と考えて大学に来たようですが、『同時に勉強もしっかりやったうえで、サッカーに取り組みたい』という意思を示していました。同期の推薦入学の選手は山川哲史(現ヴィッセル神戸)ら5〜6人がいましたが、みんな総じて学習意欲が高く、それに触発されたところはあったと思います。『人生の選択肢を広げておこう』と教員免許取得にも乗り出し、単位は取り終えましたね。卒業論文は『サッカーの1対1場面における攻撃側の情報処理に関する研究』。ドリブルを仕掛ける選手の視線の位置や角度などが人によってどう違うかを分析するため、20人の選手の頭に小型カメラをつけ、データを蓄積。自分なりに突き詰めたと思います。その研究と並行して三笘は自らの1対1の練習を徹底的に繰り返し、スキルを習得しようとしていた。研究と実践の両方があって、世界をキリキリ舞いする高度なドリブル技術が身に着いたんだと思います」

 こういった地道な積み重ねが2020年に加わった川崎Fで一気に出る。プロ入り当初は「自分は体力面や守備に不安があるので、早くそこを克服してコンスタンに試合に出られるようになりたい」と謙虚な口ぶりを見せていたが、新型コロナによる中断明けから急激にブレイク。主にスーパーサブとして勝負を決定づける大仕事を繰り返し、川崎FのJ1・天皇杯の2冠達成の原動力になったのだ。

 続く2021年も「三笘のドリブルは手が付けられない」「誰も止められない」などと特別視され、どこから見てもJリーグ最高峰プレーヤー以外の何物でもなかった。ご存じの通り、同年夏に彼はブライトンに完全移籍し、そこからベルギー1部のユニオン・サン・ジロワーズにレンタルされたが、「半年しかプレーしていない三笘がMVPでいいのではないか」という声も関係者から聞かれたほどだった。

ケガを乗り越え、日本で“新生ブライトン”初陣へ

[写真]=Getty Images

 そんな圧巻パフォーマンスを見せつけても、本人は「まだまだ」「もっとやれる」と決して満足することはなかった。高い領域を渇望する姿勢は川崎ジュニア時代から全く変わらない。三笘薫という選手はまさに「向上心の塊」なのである。24歳での海外移籍は、一般的に見れば遅い部類だったが、一切、関係なかった。21-22シーズンにユニオンで27試合出場7ゴールという数字を残すと、森保一監督から満を持してA代表に招集される。初キャップは2022年11月のオマーン戦。後半からピッチに送り出されたが、卓越した局面打開力で試合の流れをガラリと変え、伊東純也の決勝弾をアシスト。日本を窮地から救う大仕事を果たしてみせたのだ。

 さらに、翌2022年3月のオーストラリアとの最終決戦では、スコアレスの状況で終盤出てきた三笘が自ら2発を叩き出し、日本にカタールW杯切符をもたらした。この頃から森保監督も「戦術・三笘」という言葉を公の場で使い始めたが、まさに三笘が出てくるだけで試合の流れが一変するようになった。それだけ彼の個人能力が頭抜けていたということ。同年夏にレンタル元のブライトンに復帰してからは、瞬く間に左ウイングの定位置を奪取。プレミアで見る者を釘付けにし、11月5日のウルヴァーハンプトン戦でプレミア初ゴールをゲット。カタールW杯に弾みをつけた。

 そして、長年、夢に描き続けていた初めてのW杯の大舞台で、彼はジョーカーとして全4試合に出場。スペイン戦では田中碧の逆転弾につながる奇跡的な折り返しを披露。これが「三笘の1ミリ」と命名されるなど、献身的かつアグレッシブなパフォーマンスが高く評価された。それでも、クロアチア戦でのPK失敗後には人目をはばからずに号泣。「チームを勝たせる存在にならないといけない。4年間もう1回、そこを目指そうと思います」と毅然と発言。その挑戦は今もなお続いている。

 冒頭の通り、23-24シーズンはケガに泣かされたが、今夏開幕する新シーズンは頭からフル稼働してもらう必要がある。ブライトンも三笘が加入したタイミングで指揮官となったロベルト・デ・ゼルビ監督が昨季限りで退任し、31歳のファビアン・ヒュルツェラー監督が就任。新体制で再出発することになる。三笘とわずか4歳違いの若き指揮官がどんなチーム作りを進めていくのか。そこは未知数の部分が大だが、まずは7月末の日本ツアーが大いに注目される。彼らは7月24日に鹿島アントラーズ、28日に東京ヴェルディと2試合を消化する予定で、三笘にとってもケガからの復帰シリーズとなる。ここで力強いドリブル突破を見せてくれれば、日本中のファンが安堵するはず。未来への希望を持てるようなパフォーマンスを強く期待したいところだ。

 そのうえで、8月に24-25シーズンが開幕。9月からは2026年W杯最終予選も始まる。前回は途中参戦だった三笘にしてみれば、クラブと代表を毎月のように行き来しながら、エースとしての働きを見せるというのは、非常に高いハードルになる。それでも、カタールW杯で誓った通り、彼は日本を勝たせ、ブライトンでも勝たせる存在にならなければいけない。

「大学時代の彼は無双していたわけではありません。でも目指すべき場所に辿り着くべく、ブレることなく自分のやるべきことをやり続けたのは確かです。今の環境で何をすべきかを考え、取り組んでいく『自己解決能力』は本当に際立っていた。そこが最大の強みだと思います」。恩師・小井戸監督も太鼓判を押すように、彼には傑出した賢さと解決力を駆使して、困難をくぐり抜けることが肝要だ。

 ここから先は、よりパワーアップした三笘薫の一挙手一投足が見られるはず——。多くの人々が熱望するような理想的な軌跡を彼には着実に歩み続けてほしいものである。

取材・文=元川悦子

ブライトン&ホーヴ・アルビオン・ジャパンツアー2024


対戦カード:鹿島アントラーズ vs ブライトン
試合会場:国立競技場
開催日時:2024年7月24日(水)19時試合開始
放送予定:Amazonプライム・ビデオ


対戦カード:東京ヴェルディ vs ブライトン
試合会場:国立競技場
開催日時:2024年7月28日(日)18時30分試合開始
放送予定:Amazonプライム・ビデオ

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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