準々決勝での敗退に肩を落とす細谷 [写真]=Getty Images
「オリンピックで自分の良さは出せたと思いますし、いつも通りできたというところは次に繋がるのかなとは思います」
パリオリンピック2024準々決勝のスペイン戦を0-3で落とし、2年半の活動に終止符が打たれた大岩ジャパン。4日に帰国し、取材対応したFW細谷真大は自分たちのパフォーマンスに改めて胸を張った。
グループステージは3戦全勝の無失点という好結果を残した日本。だが、そこに立ちはだかったのがスペインだった。
フェルミン・ロペスに瞬く間に先制点を許し、迎えた40分、藤田譲瑠チマからのスルーパスを受けた背番号11が背後にいたパウ・クバルシを背中で確実に抑えてタメを作り、反転して右足を一閃。ゴールネットを揺らしたのである。
ここまで見事な形で1点が入ることはそうそうない。ピッチ上の選手たちはもちろんのこと、深夜の日本中が歓喜に湧き返った。
ところが、判定はオフサイドに。元国際主審の家本政明氏も自身のXで「要するに、いわゆる『戻りオフサイド』」と説明しているが、細谷自身は、「背負った時に大股になってしまったので、そこが出ちゃったのかな」と、後から動画を見返して、改めて残念に感じたという。
「ああいうゴールはなかなかリーグ戦もなかったですし、練習の中で繰り返した形ではあったので、すごく理想に近いゴールだと思います」としみじみ言うが、この出来事は時間が経っても脳裏に焼き付いているはずだ。
それでも、細谷はすぐに前を向き、前半アディショナルタイムの山田楓喜の右CKに反応。ファーサイドから絶妙のヘディングシュートお見舞いする。これもドンピシャリのタイミングだったが、まさかのポスト。衝撃は大きかった。
“今日は自分の日ではない”と落胆してもおかしくなかったが、どこまでも前だけを見続けた。
「FWでいる以上、そういう日は必ずある。2つ外した後も、後半にもう1個チャンスがあったので、それを決めていたら、また流れても変わっていた。やっぱり大事なところで決めきる力はもっと必要なのかなと思います」
細谷の積極的なチャレンジは最後まで報われることはなかった。逆に日本はさらに2ゴールを献上し、メダルへの挑戦は幕を閉じた。だが、前線で起点になる動き、ハードワーク、献身的な守備を含め、存在感は圧倒的だったと言っていい。
だからこそ、日本代表のレジェンドである本田圭佑も「ほそやさん?どこのチーム?めちゃいいやん」とXに投稿したのだろう。
1月のAFCアジアカップ2024にA代表の一員として参戦した選手のことはせめて記憶しておいてほしかったが、非凡な選手だと認めたのは確か。強敵相手に底力を示した細谷真大の名前は間違いなく世界に轟いたのである。
半年ほど前のアジアカップではベトナム相手に自分らしさを全く出せず、前半だけで交代を強いられた細谷。上田綺世ら先輩FWとシュート練習を繰り返し、少しでも成長しようともがき続けたが、結果を出せず、2月の今季Jリーグ開幕後も得点が奪えなかった。当時の彼には明らかに迷いが見て取れた。
しかしながら、4~5月のAFC U-23アジアカップの準々決勝、準決勝での連続ゴールを機に、エースは自分らしさを取り戻していった。そこからはアグレッシブにゴールに突き進むようになり、オリンピックの大舞台でも自分のプレーを堂々と貫いた。
そうやって苦い経験を糧にブレイクした点取り屋を大岩剛監督も高く評価。「お前はもっとできる」という頼もしい言葉を細谷はスペイン戦後に与えられたという。
「自分がなかなか点を取れない時も使ってくれた大岩監督にはすごく感謝しています。その感謝の意味でも優勝したかった。これからもっと上にいかないといけないと思っているので、恩返ししたいです」とさらなる飛躍を誓った。
さしあたって、目を向けるべきなのは、7日に再開されるJ1。所属する柏レイソルは現時点で13位と、J2降格圏までわずか勝ち点5差。ここから確実に勝ち点を積み上げていかなければならない状況にいる。浦和レッズ、ガンバ大阪と難敵が続くため、井原正巳監督もできるだけ早く細谷を使いたいはず。疲労困憊の状況ではあるが、ここでもう1回ギアを上げ、柏に貢献することが肝心なのだ。
その先には9月から始まるFIFAワールドカップ26アジア最終予選も控えている。細谷は大岩監督への恩返しを果たすためにも、絶対にその舞台に立つ必要がある。A代表に定着し、上田綺世や小川航基ら先輩FW以上の信頼を森保一監督から得られるように努力すること。それが使命になる。
「今の悔しさはワールドカップの舞台でしっかり晴らしたい」と語気を強めた細谷。ワールドカップで4ゴールという偉大な記録を残した本田をより一層、驚かせるような爆発的成長を強く期待したい。
パリ世代を代表するFWのここからの歩みを慎重に見守りたいものである。
取材・文=元川悦子
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