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S広島Rを引っ張るキャプテンの涙…DF近賀ゆかり、3年目の初タイトルに「嬉しさと安堵が入り混じった」

2023.10.15

WEリーグカップを掲げる近賀ゆかり [写真]=須田康暉

 優勝が決まった瞬間、ベンチ前にいた広島のキャプテンは手で顔を覆った。そこに周りの選手やコーチらが集まって喜び合う。「いろんな思いが込み上げました」。DF近賀ゆかりサンフレッチェ広島レジーナでの初タイトル獲得に涙した。

 S広島Rは14日、2023-24 WEリーグカップ決勝でアルビレックス新潟レディースと対戦。0-0のままPK戦にもつれ込んだ激闘を4-2で制し、初優勝を果たした。近賀は右サイドバックで先発出場し、64分に交代するまでハードワークで闘った。交代時はバックスタンド側からピッチを後にし、広島サポーターが陣取るスタンドの前でしっかり煽ってベンチに戻る。交代後も座っている時間は少なく、ベンチ前に立ってチームメイトの闘いを見守った。「頼もしいチームになったなと思ったし、これまで経験してきた優勝とは全然違う味がしました」

 PK戦を制した歓喜の瞬間、近賀は泣いているようだった。本人は「見間違いじゃないですかね?(笑)」と試合後にとぼけつつ、「本当にこのチームでタイトルを取りたかったし、今季はこのカップ戦がチャンスだと思っていた。それが本当に実現できて嬉しさと安堵が入り混じりました」と優勝を決めた瞬間の心境を明かした。

写真提供:WE リーグ

 2021年の設立時からキャプテンとしてチームをけん引してきた。ゼロからスタートしたチームの先頭に立ち、練習では積極的に声を上げ、試合では誰よりも気持ちの入ったプレーを見せて引っ張ってきた。ほぼプロ経験がない選手たちが集まった若いチームの中で、いかに成長を支えていくか。その責任を背負い、苦悩の日々も過ごしてきた。

「まず成長しなきゃいけない、土台を作らないといけないっていうところから始まって、ただ成長するだけでは意味がないなって思っていた。やっぱりプロリーグ、プロチーム、プロ選手になって、必ず結果が伴わないといけないっていうことを、このチームにもたらさなければいけないっていう責任は感じていた。それをどう伝えたらいいのかっていうのは……すごく悩んだところだった」。目に涙を浮かべ、ときおり声を振るわせながらこれまでを振り返り、最後は力強くこう続けた。

「ただ、今日の試合を見てもらったらわかると思うけど、本当に勝負に対して誰一人手を抜くことなく最後まで走り続けて、勝ちへの欲が今シーズンは見違えるほど大きくなった。その中でこうして結果が出たので成長のステップを踏めたと思っています」

 頼もしいキャプテンの存在があったからこそ周りの選手たちも必死についてきた。試合後、近賀がメインスタンド前でインタビューを待っているときだった。今季から副キャプテンを務めるMF柳瀬楓菜が近づいてきて、自身がつけていたキャプテンマークを近賀の腕に返していた。「このチームがここまで来られたのはキンさん(近賀)の存在が大きいし、このチームのキャプテンは近賀選手なので」と21歳は感謝を込める。チームメイトがいかにキャプテンのことを思っているか。それを象徴するようなシーンだった。

 S広島Rが始動して3年目。初めてタイトルがかかった試合で優勝を成し遂げた。近賀は、「このタイトルをこのチームが取れたら、成長が止まるんじゃなくて、加速するなって感じていた。だからここで取りたかったし、取れてよかった。ここが勝負所だと思っていた」と強調する。初タイトルはさらなる成長のステップ。カップ戦で三菱重工浦和レッズレディース、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、INAC神戸レオネッサのWEリーグ3強の牙城を崩した形となったが、S広島Rは挑戦者であることを止めない。むしろエンジンを燃やす。

「3強と比べると、個人のクオリティはまだ追いついてないのが実感。ただ、個人のクオリティを上げながら、チームで勝っていけるっていうところがサッカーの良さ、どちらかというと女子サッカーの良さだと思っている。うちはそういう強さを見せて、今回優勝できたと思う。リーグはまた違う戦いになるので、ここ(カップ戦優勝)が成長のステップだっていうところをもう1回チームの中で意識してやっていきたい。優勝の味をしめちゃったので、みんなまた加速していくと思う」

 初タイトルを手にした紫の女王がWEリーグを盛り上げていく。近賀は、「今日の雰囲気が(WEリーグの)スタンダードになって欲しい。今日の(両チームの)応援を聞けば、これまでの女子サッカーとはちょっと違うと感じると思う。うちのファミリーのみなさんはアウェイでもいつも熱い応援をしてくれるので、他のチームにいいなって思ってほしいといつも思っています(笑)」と応援の力について話し、「結果やそれ以外のところでも、レジーナっていうチームがWEリーグを引っ張っていけるようなクラブになっていきたい」と意気込んだ。

写真提供:WE リーグ

By 湊昂大

Kota Minato イギリス大学留学後、『サッカーキング』での勤務を経てドイツに移住して取材活動を行う。2021年に帰国し、地元の広島でスポーツの取材を中心に活動中。

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