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WE新規参入のセレッソ大阪ヤンマーレディースを徹底展望。1年目から“桜旋風”を巻き起こせるか

2023.11.02

WEリーグカップ第4節でホーム初勝利を飾り記念撮影[写真]=セレッソ大阪

WEリーグカップでつかんだ手応え

 2023-24シーズンからWEリーグに新規参入するセレッソ大阪ヤンマーレディース。クラブとして踏み出す新たな一歩を前に、森島寛晃社長は「男子トップチームとの相乗効果の最大化にチャレンジし、WEリーグ、女子サッカー界を盛り上げていきたい。男女ともにタイトルを目指し、セレッソ大阪全体としてサポーターに応援してもらえるような、大阪のシンボルとなれるようなクラブになりたい」と話すなど、クラブ全体としてもレディースチームに寄せられる期待は大きい。そうした中、11月に開幕するリーグ戦に先駆けて行われたWEリーグカップでは、グループステージを3勝1分1敗で2位。惜しくもファイナル進出こそ逃したが、堂々の成績を残した。

プロ初戦となったWEリーグカップ第1節・N相模原戦で初勝利[写真]=セレッソ大阪

 セレッソ大阪ヤンマーレディースにとって初の公式戦となったグループステージ第1節。ノジマステラ神奈川相模原のホームに乗り込んでの一戦は2-0で勝利した。前半に高和芹夏が“歴史的”初ゴールを決めると、後半にも宮本光梨が追加点。GK山下莉奈、センターバック筒井梨香を中心とした守備陣も無失点で抑え、最高の船出を飾った。ホーム開幕戦となった第2節こそサンフレッチェ広島レジーナに1-2で惜敗するも、続く第3節のジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦に2-0で勝利すると、迎えた第4節のマイナビ仙台レディース戦は、「今節こそホーム初勝利を」と意気込んで臨んだ中、昨シーズンまで2シーズン、マイ仙台でプレーしていた矢形海優が2得点。脇阪麗奈のCKに筒井が頭で合わせて3点目も奪い、3-1で勝利。待望のWEリーグ参入後ホーム初勝利を挙げた。

 内容的にも第1節、第2節こそ若干の硬さも見られたが、試合を重ねるごとに成長。技術と運動量が融合した、最後まで全員がアグレッシブに戦うサッカーを演じてみせた。グループステージ最終節では、昨シーズンのリーグ、カップ二冠の三菱重工浦和レッズレディース相手に押し込まれながらも粘り強く戦い、スコアレスドロー。この5試合を振り返って鳥居塚伸人監督も、「正直、ここまでの結果になるとは思っていなかった。カップ戦をとおして選手たちが感じた課題は改善し、通用したことは自信を持って継続していく」と一定の手応えも覗かせるなど、リーグ戦へ向けて期待を抱かせるリーグカップとなった。

チームの根幹を担う主軸選手たち

 チームを引っ張る主将は脇阪。なでしこリーグ時代は林穂之香(ウェストハム・ユナイテッドFCウィメン)と不動のダブルボランチを形成するなど、チームに不可欠な存在として中盤に君臨。WEリーグ発足後はN相模原、INAC神戸レオネッサでプレーし、一足早くWEリーグを経験した。そのプレースタイルは、パワフルかつ大胆。力強い寄せ、ボール奪取に特長があり、奪ったボールは恐れず縦パスを出す。チーム全体を前に押し上げていく推進力が最大の魅力だ。先の第19回アジア競技大会でも、フル出場した決勝戦を含む全6試合に先発。日本女子代表の優勝に大きく貢献した。若いチームにあって、精神的支柱でもあり、苦しい時に声を出して引っ張れる選手でもある。

プロの経験を携えてチームに帰還した脇阪が主将を担う[写真]=セレッソ大阪

 WEリーグカップではグループステージ全5試合で2トップを組んだ矢形と田中智子もチームを牽引する“エンジン”だ。矢形はチーム最多の3得点、田中もチーム最多の3アシストと、数字の面でも結果を残すと同時に、前線からの守備でも大きく貢献。相手DFへのプレスでボールを奪い、そのままゴールにつなげる形を何度も作るなど、“攻守にアグレッシブ”なチームスタイルを体現する2トップでもある。明るいキャラクターも魅力であり、得点後のパフォーマンスや笑顔にも注目してほしい。

得点源の矢形。WEリーグカップでは古巣のマイ仙台戦で2ゴールを挙げた[写真]=セレッソ大阪

 最終ラインの軸はセンターバックの筒井。屈強なフィジカルを生かした競り合い、ハードなマークで相手FWを封じ込める守備に加え、1本のロングフィードからチャンスを演出する攻撃力も兼ね備えている。今年に入り、2月1日から6月30日までI神戸へ期限付き移籍。“WEリーグ基準”を肌で感じて帰ってきたことも大きい。性格的にも大らかな姉御肌であり、自身以外は10代が並ぶことが多いディフェンスラインを統率すべく、常に前向きな言葉をかけ、リーダーシップを発揮している。

最終ラインを束ねる筒井は、セットプレーからの得点力も兼備する[写真]=セレッソ大阪

 脇阪、矢形、筒井らWEリーグ経験者に対しては鳥居塚監督も、「厳しいことをグラウンドの中で言える選手たちが帰ってきてくれたことで、選手同士が求め合うようになった。プロの一つの基準を植えつけてくれた」と信頼を寄せる。WEリーグを戦う過程において、彼女たちのプロとして高め合う姿勢に後輩の選手たちも感化されることで、チーム全体のレベルも自ずと上がっていくだろう。

運動量で相手を圧倒し、主体的なサッカーを目指す

 目指すサッカーは、全員がボールにかかわり、ピッチで躍動感を表現すること。1試合における目標の走行距離は「1人13km」(鳥居塚監督)。絵空事ではなく、全員が走り、アグレッシブに戦い、攻守で相手を圧倒するスタイルを目指す。

 攻撃ではGKやディフェンスラインからでもボールをつなぎ、最初の選択肢は縦。臆することなく中央にパスを送り、中を割って最短距離でゴールを目指す。もっとも、相手の出方を見ながら中と外を使い分ける柔軟さもあり、ボールを持てる左サイドバック・小山史乃観を起点に前進していくこと、さらには百濃実結香や栗本悠加といったドリブラーを生かしたサイド攻撃の威力も鋭い。また、前述したように矢形と田中の2トップから始まる前からのプレスもチームの武器。高い位置で奪ってからのショートカウンターは、WEリーグカップでも猛威を振るった。もっとも、相手の逆を突きながらパスをつなぎ、ゴールまで迫る遅攻の形は発展途上。リーグ開幕までにさらに高めていきたいポイントだ。

背番号10を背負う小山。左サイドバックだが、攻撃面で大きな役割を担う[写真]=セレッソ大阪

 守備では前線からの連動したプレスに伴い、最終ラインも高く押し上げ、全体をコンパクトにした状態で囲み込み、ボール奪取を目指す。その分、守護神の山下莉奈は、「守備範囲の広いGKになっていかないといけない」と広大なエリアをカバーする必要性を話す。もっとも、グループステージ最終節の浦和戦では、相手にボールを握られ、自陣に押し込まれる時間も長かった。そうした耐える展開でも焦れずに守れることも、セレッソの強み。筒井だけではなく、センターバックには荻久保優里や米田博美といった若手成長株も台頭しており、最後の局面で体を張れる泥臭さも持ち合わせている。

 多くの収穫を手にしたWEリーグカップだが、「もうワンランクレベルを上げないと、リーグ戦では通用しない可能性がある」と指揮官は高みを見据える。運動量に関しては、「選手たちはハードワークしてくれた」と合格点も出しながら、「個人戦術の徹底」を指揮官は課題に挙げる。「サッカーの理解度は、まだまだ低い。運動量でカバーしている部分が多くある。個人戦術として、攻守で何が必要なのかを理解することが重要。ウチのストロングである前線からの守備にしても、相手のミスに乗じて奪えているが、意図した形で奪えているシーンは少ない。攻撃でパスを受ける準備やつなぐクオリティーもさらに高める必要がある」(鳥居塚監督)とシビアに現実を見つめる。リーグ開幕へ向け、さらにはシーズンをとおして、質を追求する意識は持ち続けていきたい。

「究極の育成型クラブ」の伸びシロに期待

 セレッソ大阪ヤンマーレディースの大きな特長の一つは、登録選手の平均年齢が21.3歳という圧倒的な若さだ。WEリーグカップの5試合を振り返っても、どの試合でも交代選手を含めて運動量を落とさず、試合終盤に攻勢をかけることができている。

 中でも昨年のU-20ワールドカップで活躍し、先のアジア大会でも日本女子代表の優勝に貢献した小山は弱冠18歳で背番号10を背負うチームの象徴的存在。14歳でなでしこリーグ1部デビューを飾ると、21年にはなでしこリーグ1部のベストイレブンを史上最年少で受賞(16歳8カ月27日)。22年10月にはなでしこジャパン(A代表)デビューも果たすなど、若くして経験豊富であり、紛れもなくチームを支える主力の一人だ。

 育成TOP可登録選手にも逸材が目白押し。U-19日本女子代表にも選出されている高校3年生の白垣うの、中谷莉奈、高校2年生の栗本の3選手はWEリーグカップでも戦力として奮闘。ダイナミックな攻撃参加を武器に右サイドを駆け上がる白垣は、第3節の千葉L戦では途中出場からゴール。得点後にベンチと喜び合う姿も印象的で、チームに活力を与えた。チーム最年少、2006年生まれの栗本も全5試合に途中出場。推進力のあるドリブルを武器に、流れを変える、または引き寄せるプレーで存在感を示した。栗本は昨シーズン、なでしこリーグデビュー戦となった、なでしこリーグ1部開幕戦で後半アディショナルタイムに劇的な決勝点。大きなインパクトを残した。同様にWEリーグデビュー戦でも得点を挙げることができれば、その名は一気に広まるだろう。「年齢に関係なく、自信を持って、思い切って自分のプレーを出したい。WEリーグカップではいい経験ができた。これを糧にもっと成長して、リーグ戦では得点を取りたい」。そう抱負を述べる背番号36のプレーは大いに注目であり、その成長曲線から目が離せない。

攻撃の切り札として存在感を示す16歳の栗本[写真]=セレッソ大阪

 新加入のインドネシア代表、ザーラ・ムズダリファを除く全選手が育成出身。チーム編成を担当した佐伯真道レディース事業部長は、「究極の育成型クラブ」と述べ、今後の伸びシロにも太鼓判を押す。WEリーグを戦う中で、ポテンシャルを秘めた若き選手たちがどのような成長を遂げるか。チームを見ていく上で、非常に楽しみなポイントになる。

WEリーグに革命を起こす戦いに挑む

WEリーグカップのS広島R戦では、同大会史上最多となる2989人を動員[写真]=セレッソ大阪

 7月7日に行われた新体制発表記者会見での席上、佐伯事業部長は今後の目標について、「1年目は5位以内、3年後には優勝を目指す」と語った。もっとも、「5位以内は絶対として、一つでも上を目指す」と話す脇阪キャプテンを筆頭に、選手は1年目からの躍進を心に期す。今シーズンで3期目を迎える現在のWEリーグは、浦和、I神戸、日テレ・東京ヴェルディベレーザが“3強”を構成しているが、WEリーグ初参入となるセレッソが1試合ごとに成長を遂げた暁には、その牙城を崩す可能性も大いにある。初年度からの“桜旋風”に期待したい。

 チームの1期生、古澤留衣と玉櫻ことのは、WEリーグ開幕を迎えるにあたり、万感の思いも込めて、次のように述べる。
「女子のプロサッカーリーグができてから、選手はみんな、そこでプレーしたいと思っていました。念願のWEリーグ参入です。チームがプロ化されたことで、練習ではより細かな質を追求し、互いに要求し合うなど意識の面でも変わりつつあります。カップ戦では自分たちもやれる手応えを得たので、リーグ戦でも勝ち切る試合を増やして、5位以内を達成したいです」(古澤)
「和気あいあいとしたいい部分も残しつつ、プロのチームになったことで、練習から意識を高く持って取り組めています。カップ戦では対戦していないチームもありますし、年間をとおして自分たちがWEリーグでどれだけ戦えるか楽しみです。チームの方針として、世界基準、世界でも戦える選手になることを目指しているので、まずは目の前の相手に負けないように戦いたいです」(玉櫻)。

 観客動員数でも目指すはトップ。セレッソ大阪ヤンマーレディースが、WEの舞台に革命を起こす戦いに挑む。

文=小田尚史

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