[サッカーキング No.007(2019年11月号)掲載]
“原石”の宝庫リーグ・アンで注目すべき新世代選手について、実況を担当する西達彦さんに話を聞いた。
文=関口 剛(本誌編集長)
写真=ゲッティ イメージズ
――今回は、西さんに「リーグ・アン通を名乗るならコイツを覚えておけ!」という若手を紹介していただきたいと思っています。今シーズンの話に入る前に、これまで西さんが最も衝撃を受けた若手選手について聞かせてほしいんですが……。
やっぱり、キリアン・エムバペですよね。私がDAZNで中継を始めた16-17シーズンのクープ・ドゥ・ラ・リーグで、18歳になる直前のエムバペがレンヌを相手にハットトリックを決めたんです。とにかく速くて相手をブッちぎる。もちろん速いだけじゃなくてうまいし、いてほしいところにいてくれる。衝撃でしたね。当時はまだまだ体つきは細かったんですが、最終的にモナコをリーグ制覇まで引っ張ってしまう。突然、そういう選手が出てくるのがリーグ・アンの魅力ですよね。
――確かに、“原石発掘と言えばリーグ・アン”というイメージは強いですね
エムバペはクレールフォンテーヌ国立研究所の出身なので、いわばエリート教育を受けたうえで才能を伸ばしてきた選手です。リーグ・アンを“原石発掘場”にしているのは、何より(コトヌー協定に該当する)アフリカ諸国の選手が外国人枠に該当しない、という点が大きいと思います。ナイジェリアやマリ、セネガルといった西アフリカ系の黒人選手もいれば、北アフリカ系のベルベル人などもいる。
――アフリカからは、とんでもない選手が突然ボコボコ出てきたりしますもんね。
昨年のワールドカップでは日本とセネガルが戦いましたが、リーグ・アンを見ている私からするとセネガル代表の半分くらいはおなじみの選手なんですよ。つまり、リーグ・アンを知っていると、アフリカが分かる。フランスは移民が多い国で、特にマルセイユなんかは港町なので駅前などはフランスというより中東や北アフリカのような雰囲気なんですね。サッカーにおいても、それは同じことが言えると思います。
――なるほど。今夏はニコラ・ペペが巨額の移籍金を残してアーセナルへと巣立っていきましたが、そもそもリーグの制度からして、そうしたアフリカの選手が台頭する土壌が整っている、と。
リールはペペを失ったけど“推しメン”がいるから大丈夫
――では、ここから本題に入りたいと思います。リーグ戦は今、第7節の途中(9月25日に取材を実施)ですが、西さんが「コイツはすごい!」と感じた若手選手を紹介していただけますか?
まずはパリ・サンジェルマンから、コラン・ダグバです。U-21フランス代表のDFで、メインポジションはサイドバックですが、3バック時のストッパーをすることもあります。負傷で離脱したトーマス・ムニエと入れ替わるように、昨シーズンの途中から出場機会を増やしました。スピードがあって攻撃面でも一定の活躍ができるんですが、彼のすごいところは一対一の守備の局面でまず負けないこと。170センチと小柄なんですが、彼のサイドが破られるところをあまり見たことがない。ほら、ムニエは攻めることはできるけど、守備には不安があるじゃないですか(笑)。でもダグバは21歳ながらいぶし銀の守備を見せる。実はPSGは今シーズンからリザーブチームを廃止して、その影響で若手選手をたくさん売ったんです。そのなかでトップチームに引き上げられ、かつチームに残り続ける数少ない選手がダグバです。
――今後、さらに飛躍していくことが期待されますが、今シーズンは第6節を前に負傷でチームを離脱しているのが惜しいですね。他の選手はいかがでしょう?
リールから2人挙げたいと思います。まずはジョナタン・イコネ。リールは昨シーズン2位と躍進しましたが、それはアーセナルに去ったペペと、ジョナタン・バンバ、そしてこのイコネの攻撃陣が脅威になっていたからだと思います。彼はもともとPSGの下部組織にいて、そこからモンペリエを経由してリールでブレイクしました。僕にはこのイコネの忘れられないプレーがあって……当時PSGにいた18歳のイコネが、2016年のICCレアル・マドリード戦で5人抜きしてゴールを決めたんですよ。「なにこの子!」っていう感じでした(笑)。相手をはがすプレーはもちろん、出し手としても優秀なので、トップ下で輝く選手ですね。
――9月にフランス代表に初招集。デビュー戦となったW杯予選のアルバニア戦でゴールを決めていますね。
今後が楽しみな選手ですね。リールのもう1人はヴィクター・オシムヘン。メディアによって表記が変わりますが、私は「オシメン」と言っています。……いや、“推しメン”なので(笑)。彼はこれぞアフリカンといったタイプで、身体能力の高さで勝負するストライカーです。開幕戦では2ゴールを挙げていますが、その試合のタッチ数は90分間でわずかに24回。少ないタッチ数で、ボックス内で仕事をするタイプですね。ペペは去りましたが、イコネとオシメンの2人がいるリールは、けっこうやれるんじゃないかと思っています。
――リールは今シーズン、チャンピオンズリーグに出場していますし、ビッグクラブも注視しているでしょうね。
ナイジェリア代表でもありますから、当然注目は集まると思います。続いてリヨンから。フセム・アワールです。下部組織出身の生え抜きで、現代の司令塔然とした、動き回りながらラストパスを出せる選手です。
――一昨シーズンはリーグ戦に32試合出場して6ゴール、昨シーズンは37試合7ゴール。すでにチームの主力となっている選手なんですね。
今シーズンで最も印象的だったのは、第2節のアンジェ戦です。6-0でリヨンが勝ったんですが、その試合でアワールは1ゴール2アシストを記録しました。特に相手選手の頭上を越すやわらかい浮き玉のパスで4点目をアシストしたシーンが印象的で。テクニックだけじゃなく運動量もあって、攻撃的な中盤の選手に求められる能力をすべて備えている。すでにリヨンで2シーズンをフルで戦った経験値もあるので、近い将来、どこかに高値で移籍するんじゃないかなと。リヨンの中盤はこのアワールが攻撃面を担って、1歳上のリュカ・トゥザールが守備面を担っている。若いこの2人はリヨンの宝ですね。
――リヨンで言えば、個人的に元アーセナルのジェフ・レーヌ・アデレードが気になっています……。
第6節のPSG戦は0-1で負けてしまったんですが、リヨンで一番存在感があったのはアデレードでした。フィジカルがあって当たり負けしないし、狭い局面を運べる。このPSG戦やCLのゼニト戦は、リヨンがなかなか中に入り込めなくて苦労したんですけど、アデレードだけは評価が高かった。ポジション的にアワールと重なる部分があるので、この2人の争いもおもしろいですね。
――アーセナルでは花開きませんでしたが、頑張ってるんですね。良かった(笑)。
16歳のカマヴィンガはリーグ・アンきっての大物
――では続いていきましょう。西さんがお好きなマルセイユはいかがですか?
2人います。まずは19歳のブバカル・カマラです。5歳からマルセイユのアカデミーにいて、17歳でトップチームデビュー。当時はボランチで起用されていたんですが、今はDF登録です。元中盤の選手ということもあって足元もあるし、くさびのパスを縦にバシッと通せるタイプのセンターバックですね。マルセイユは昨シーズンまでロランド・フォンセカ(34歳)とアディル・ラミ(33歳)というベテランセンターバックコンビだったんですが、いまいち守備が安定しなかった……というか崩壊したんです。その後、カマラとクロアチアのドゥイェ・チャレタ・ツァルが組むようになって、ずいぶん安定したんですよ。チャレタ・ツァルはその後ポジションを失ってしまいましたが、カマラは軸になっている。正直、ミスのないタイプではないんですが、それを引きずらない。ひょうひょうとした感じで、センターバックとしてはとてもいい素質を持っていると思います。
――もう1人は?
マキシム・ロペスです。マルセイユ出身の下部組織育ちなので、非常にファン人気が高い。アルジェリア系フランス人というルーツの部分も含めて、サミル・ナスリに例えられることも多い選手ですね。パスセンスがあって、周りの選手とうまく絡みながら打開していくプレーがうまい。持ちすぎることもなくて、シンプルに回しながらリズムを作ってくれる感じです。167センチと小柄で、守備が課題でしたが、食らいついていくプレーが増えて改善の兆しがあります。今夏、マルセイユがルイス・グスタヴォを放出したのは、ロペスが計算できるようになったからだと思います。
――プレースタイルを聞く限り、確かにナスリと似ていますね。
キャラクターは違いますけどね(笑)。続いてレンヌのエドゥアルド・カマヴィンガを挙げます。2002年生まれ、現在16歳。昨シーズン終盤に16歳4カ月27日でトップチームデビュー。その後、徐々に出場機会を増やし、今シーズンはここまでリーグ全試合に先発している。今回の企画でこの選手を挙げなかったら誰を挙げる、というような選手です。特に注目を集めたのは今シーズンの第2節です。レンヌがPSGを2-1で下したんですが、決勝点をアシストしたのがカマヴィンガでした。
――どんなプレースタイルなんでしょう? 守備的MFというポジションから、エンゴロ・カンテと比較する声もありますが。
よりパス能力、相手をはがす能力が高いですね。まだ細いんですが、身長は182センチありますし、体つきも今後ガッチリしていくはずです。そして上背はあるけどすごくしなやかで、中盤の狭い局面を自分で運んでいけるし、視野も広い。年齢的にチームとしてはプレー時間を考えながら使いたいと思っているはずなんですが、すでに外せないくらいの存在になっている。両親がコンゴ民主共和国出身、自身はアンゴラ生まれでフランスに長く住んでいるので、3カ国の代表を選べる立場にあります。本人はフランス代表を希望しているみたいですが。
――16歳というのは驚きですね……。
あ、そうそう。「16歳」で思い出しました。ナントのアルバン・ラフォンというGKもすごいんです。今は20歳でU-21フランス代表に入っているんですが、トゥールーズで16歳10カ月のときにトップチームデビューして、リーグ・アンのGK最年少出場記録を樹立しました。デビュー戦はリーグ中盤の第15節だったんですが、そのまま正守護神の座を射止めてしまった。
――トゥールーズの後にフィオレンティーナに移籍して、今シーズンはレンタルという形でナントでプレーしてるんですね。
フィオレンティーナでも正守護神としてプレーしていましたから、イタリアの守備も学んでいるわけです。何より、彼のセービングは美しいんです。伸びやか。20歳にしてトップリーグで140試合の経験を積んでいますから、冷静さも備えている。足元の技術も水準以上ですし、課題だったフィードも向上の気配があります。将来のフランス代表守護神の座に一番近い選手じゃないかなと。
――ここまででいろいろなクラブから計10人の名前を挙げていただきました。
ほかにもニースのDFユーセフ・アタルとか、ニームのGKポール・ベルナルドニとか、紹介したい選手はたくさんいるんですけど、キリがないので、ここら辺でやめておきます(笑)。
――ありがとうございます(笑)。今回挙げていただいた選手が、近い将来、全員ビッグクラブに移籍する、というのもあり得ない話ではありませんよね?
あると思います。そういう選手を早くからチェックできることこそ、リーグ・アンの醍醐味ですから。あとはリーグ・アン……というかフランスという国の特徴かもしれませんが、他の国、リーグと比べてメディアの力が強いというのはおもしろいところだと思います。ハーフタイム中にまだ息が上がっている選手を捕まえてインタビューをしたり、ベンチに元選手のリポーターが入り込んでコーチに話を聞いたり。記者会見も突っ込んだ質問が多いですし、そういったところも魅力ですね。
――他国のリーグではあまり見られない光景ですね(笑)。
ほかにもサッカー番組にクラブの現役の会長を呼んで、「この移籍市場であの選手はどうなるんだ?」と突っ込んでいったり。そういったピッチ外のおもしろさもあるので、皆さんぜひ、リーグ・アンに注目してください!
※この記事はサッカーキング No.007(2019年11月号)に掲載された記事を再編集したものです。
By サッカーキング編集部
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