上位争いを繰り広げるレアル・ソシエダ。7年ぶりのCL出場権獲得も現実味を帯びている[写真]=Getty Images
[サッカーキング No.007(2019年11月号)掲載]
02-03シーズン以降、タイトルとは無縁だったレアル・ソシエダが、再び熱狂するかもしれない。この夏、新しいスタジアムを手にして、進化を遂げた“バスクの雄”はどのような姿を披露してくれるのだろうか。
文=北川紳也
写真=ゲッティ イメージズ
実に17年ぶりの好発進──。
ラ・リーガは第5節を終えた時点で、アスレティック・ビルバオが首位に立った。そして彼らと1ポイント差の4位につけたのが“もう一つのバスクの雄”レアル・ソシエダだ。
開幕5試合を終了した時点で3勝1分け1敗の勝ち点10という記録は、13ポイントを挙げた02-03シーズン以来の好成績だ。当時は最終節までレアル・マドリードと熾烈な優勝争いを繰り広げ、2ポイント差の2位でフィニッシュした。戴冠こそ逃したが、選手としてピークを迎えていたジネディーヌ・ジダンのほか、ラウール・ゴンサレスやルイス・フィーゴ、ロナウドらが在籍した“銀河系軍団”を相手に大健闘を見せた。
しかし、翌年から調子を落とし、06-07シーズンに降格が決定。3年間を2部で過ごした。その後は1部復帰を遂げ、13-14シーズンにはチャンピオンズリーグに出場したもののグループステージで敗退。以降は16-17シーズンのリーグ6位とコパ・デル・レイでのベスト8が最高成績だ。だが、9月7日にクラブ創設110周年を迎えた今シーズン、物足りないシーズンを送ってきたソシエダに再び熱狂の瞬間が訪れようとしている。
チームを支えるのは生え抜きの国産選手
躍進の原動力になっているのは、若くフレッシュな選手たちだ。ここまでの5試合に先発した選手の平均年齢は25.2歳。ラ・リーガではセルタ(平均24.9歳)に次ぐ2位、欧州4大リーグの中でも11番目に若いチームとなっている。
特に目立つのは、“ノルウェーの神童”として知られるマルティン・ウーデゴーア(20歳)や“イブラヒモヴィッチ2世”と称されるアレクサンデル・イサク(20歳)など、この夏に加わった国外出身の有望株だろう。とりわけ前者は中盤でゲームメークするだけでなく、開幕5試合で2得点を挙げる活躍を披露し、真のブレイクを迎えつつある。
ただし、チームの屋台骨を支えるのは生え抜きの国産選手たちだ。トップチームに在籍する25人のうち12人が下部組織出身のスペイン人。フランス出身のカンテラーノ、ロビン・ル・ノルマン(22歳)を含めれば、過半数は自前で育てたプレーヤーになる。
1989年、ビルバオと同じようにチーム創設以降貫いてきた“バスク純血主義”を廃止したが、バルセロナやレアル・マドリードに劣らないと評判の育成組織からは優秀な選手が次々に誕生している。今夏もアイヘン・ムニョス(22歳)やアンデル・バレネチェア(17歳)ら5人がトップチームに昇格を果たした。
そんな“ラ・レアル”(レアル・ソシエダの愛称)を象徴する選手が、10番を背負うミケル・オヤルサバル(22歳)だ。14歳から下部組織で育ったオヤルサバルは18歳でトップデビューすると、翌年にはA代表デビューを飾り、今年6月に開催されたU-21欧州選手権でも主力として活躍した。スピードと精度の高いボールコントロール力を武器に17-18シーズンから2年連続で2ケタ得点をマークするなど、今やクラブのエースとして認められる存在になった。順調にキャリアを積む彼には、来年のオリンピック出場も期待されている。
同じく22歳のイゴル・スベルディアもレギュラーとして活躍するカンテラーノの一人だ。今シーズンは第3節までセンターバックの一角として先発出場していたが、キャプテンのアシエル・イジャラメンディが足を骨折して戦線離脱を余儀なくされると、本職であるボランチへ“異動”した。第4節では、ともにU-21欧州選手権優勝を味わったミケル・メリーノ(23歳)と抜群のコンビネーションを見せ、アトレティコ・マドリード撃破に貢献してみせた。
チームを率いるイマノル・アルグアシル監督もまた、48歳という若さだ。地元バスク州出身のクラブOBは、2011年からソシエダのユースやBチームで指導にあたっている。昨年末にBチームから内部昇格を果たした彼がトップチームを指揮するのは、今回が2度目のこと(17-18シーズン終盤、チームの低迷を理由に解雇されたエウセビオ・サクリスタン監督の後任を務め、シーズン終了まで指揮を執った)。選手の大半がかつての教え子とあって、すでに彼が理想とするサッカーを表現できる環境が整っているのも躍進の理由の一つだろう。
課題の安定感は“経験値”でカバー
ソシエダは伝統的なパスサッカーを志向し、現在のチームもGKからの丁寧なビルドアップを心掛けているが、遅攻だけでなく速攻も活用している。前線に広大なスペースがあれば、ウーデゴーアやオヤルサバルらのスピードを生かすために縦に速い攻撃を仕掛けてゴールを狙う。守備時にはハイプレスを敢行して全員が90分間ハードワークし続けるのも、このチームの特徴だ。
もっとも、若いチームは安定感に欠ける。昨シーズン後半戦はそれが課題となり、監督交代を機にV字回復を果たしたものの、残留が濃厚になるや否や失速した。ヨーロッパリーグ出場権獲得の可能性もあっただけに、9位フィニッシュは惜しまれる結果だった。
しかし今夏は、スペイン代表歴を持つ33歳のベテランDFナチョ・モンレアルがアーセナルから加入。さらにジローナで評価を高めた27歳のFWポルトゥを獲得し、若手主体のチームに“経験値”をプラスした。
チームは才能のあるヤングタレントと、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた即戦力とを掛け合わせることで進化を遂げた。アルグアシルが重視する“継続性”を高めることができれば、CL出場権争いも夢ではないだろう。
それまで「アノエタ」と呼ばれたホームスタジアムは大規模な改修工事を完了し、9月12日付けで『レアレ・アレーナ』へと改称した。金星を挙げたアトレティコ・マドリード戦は、そのこけら落としとなる試合だった。新たなステージへと突入した彼らは今シーズン、あと何回好ゲームを演じてくれるだろうか。
※この記事はサッカーキング No.007(2019年11月号)に掲載された記事を再編集したものです。
By サッカーキング編集部
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