今シーズン序盤、カップ戦での2ゴールでアピールに成功するもブンデスリーガ前半戦でのフル出場はわずか1試合にとどまった。浮き沈みの激しい香川真司のパフォーマンスは、果たして現地記者の目にはどう映っているのだろうか。
文=ディルク・クランペ/ルール・ナハリヒテン Text by Dirk KRAMPE / Ruhrnachrichten
翻訳=円賀貴子 Translation by Takako MARUGA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
[ワールドサッカーキング3月号「BORUSSIA DORTMUND プライドと狂気のフットボール」]
絶対的エースの後方で激化するポジション争い
ウインターブレイクに帰国し、友人たちとのツーショットや、クールな車の前でポーズを決める写真をインスタグラムに投稿していた香川真司は、とても満足そうな、リラックスした表情をしていた。しかし、ドルトムントでの日常についても同じことが言えるかどうかは定かではない。マンチェスターからドルトムントに戻って3シーズン目を迎えた今も、香川がドイツのメディアの前に登場することはほとんどない。ドイツ語をあまり話さないからだ。
今シーズン、香川は浮き沈みの激しい前半戦を過ごした。昨シーズンはリーグ戦29試合に出場し、攻撃の潤滑油としてインサイドハーフとトップ下の定位置を確かなものにしていた。9ゴール9アシストと、チーム内ではピエール・エメリク・オーバメヤン(25得点6アシスト)とヘンリク・ムヒタリアン(11得点20アシスト)に次いでゴールに絡む活躍を見せていた。しかしそれでも、トーマス・トゥヘル監督は手放しで満足してはいなかった。
2016年の夏、オフを過ごしていた香川は、その夏にチームを去ったムヒタリアンの代わりに、チームが2人のブラジル・ワールドカップの優勝メンバーを獲得したことを知った。アンドレ・シュールレとマリオ・ゲッツェだ。
さらにチームにはウスマン・デンベレやエムレ・モルといった若くてハングリーな選手たちが加入し、絶対的エースのオーバメヤンの後方で繰り広げられるポジション争いは一気に激化した。香川のポジションも例外ではない。というのも、バイエルンでプレーしていた時とは違い、ドルトムントの首脳陣は復帰したゲッツェのポジションをサイドと見ていなかったからだ。彼が生きるのは、香川が主戦場とするセンターの位置だ、と。
スポーツディレクターのミヒャエル・ツォルクは「選手個々のクオリティーの高さは、いろいろなポジションで激しい競争を生む。それを我々は望んでいる」と言う。「チャンピオンズリーグ(CL)でローテーションするのは、ヨーロッパリーグでローテーションするのとはまた違う」。再びCLに参加するため、ドルトムントは意識的に一つひとつのポジションを強化したのだ。
しかし、ブラジルW杯のファイナルで決勝点を決めたゲッツェが、攻撃的MFのポジションでレギュラーに定着するだろうという一般的な予想に反し、シーズン序盤戦でピッチに立っていたのは香川だった。とりわけ印象的だったのは、トリアーとのDFBポカール1回戦だ。彼は2ゴールを挙げ、まるで「俺はまだここにいる!」とでも言わんばかりに存在をアピールした。
今や戦う相手は自分自身になっていた
しかし、好調は長くは続かなかった。香川には足首のケガの問題がついてまわり、負傷で数試合を欠場すると、次第にリズムと自信を失っていった。90分間ベンチだったことも6回。ハンブルガーSV戦やレアル・マドリード戦(いずれもアウェー)では、メンバーにすら入らなかった。
ケガの問題だけでなく、日本代表戦のための長距離移動も負担になっているようだ。いくらファーストクラスの快適な旅だとはいえ、長時間の移動による負担は軽視できるものではない。トゥヘルはこれまで何度も「代表戦をパスしたほうがいい」という考えをチラつかせていた。
ドルトムントに復帰して約2年半、クラブがマンチェスター・ユナイテッドから連れ戻した時に掛けた期待に、彼はまだ部分的にしか応えられていない。イングランドで実戦と信頼から遠ざかり、自分の力を疑い始めてすらいた香川は、ブンデスリーガ復帰後も感覚を取り戻すのに苦戦した。復帰1年目は不安定なチーム状態に比例して、パフォーマンスも浮き沈みが激しかった。彼がマンチェスターへ渡るまでの2年間で、クラブ最高の功績を残したことを知らない者はいない。しかし、今や戦う相手は相手チームではなく自分自身になっていた。
昨シーズン、ユルゲン・クロップからトゥヘルへの監督交代で吹いた追い風に、香川はうまく乗ることができたかに思われた。しかし、試合の中でスペクタクルなシーンを作っていたのは、別の選手だった。ムヒタリアンはリーグ戦31試合で11ゴールを挙げてチームの主役となり、香川を影に追いやった。また、香川のパフォーマンス低下はスタッツを見ても明らかだった。マンチェスターへ渡る前は49試合で33得点に絡んでいた(21得点、12アシスト)のが、ドルトムント復帰後はそれより16試合多く出場しながら、30にとどまっているのだ。
香川選手は後半戦でどれだけ存在感を発揮できるか? ワールドサッカーキング2017年3月号「BORUSSIA DORTMUND プライドと狂気のフットボール」では、現地記者が香川選手の後半戦を展望します!