CL準々決勝のパリSG戦はデ・ブライネのゴールでクラブ史上初のベスト4入りを果たした [写真]=Getty Images
マンチェスター・シティにとって、「欧州王座」は永遠の憧れであり、屈辱の象徴でもある。なぜなら、そこにはいつだってコンプレックスを抱き続けてきた隣人の影がつきまとうからだ。
古くは1968-69シーズン。シティは31年ぶりに国内リーグを制したが、そのわずか2週間後にマンチェスター・ユナイテッドがクラブ史上初の欧州チャンピオンズカップ優勝を成し遂げると、「ミュンヘンの悲劇」からちょうど10年後の戴冠だったこともあって英国中の話題が真っ赤に塗り替えられた。
ユナイテッドが伝説のトレブルを達成した1998-99シーズンもそうだった。宿敵がチャンピオンズリーグ決勝でバイエルン相手に世紀の大逆転勝利を収めた4日後、シティも大一番に臨んでいた。しかし、当時3部リーグまで落ちぶれていた彼らがウェンブリーで戦っていたのは「3部→2部の昇格プレーオフ」。PK戦の末にジリンガムを破って勝利したものの、サポーターの心には少なからず惨めな気持ちが残ったはずだ。
マンチェスターの日陰のクラブは、そんな悔しさをずっと胸に秘めたまま歩いてきた。その後、やっとの思いでプレミアリーグに戻り、2008年夏の“アラブ革命”で巨万の富を手に入れると、負け犬根性を叩き直し、コンプレックスを力に変え、プレミアリーグ、FAカップ、リーグカップと国内3大タイトルをすべて獲得した。とりわけアレックス・ファーガソンの退任後は、ようやく憎きユナイテッドより“格上”の立場を手に入れることもできた。
しかし、欧州の舞台ではなぜかサッパリだった。プレミアリーグので成功を引っさげ、2011-12シーズンから念願のチャンピオンズリーグに参戦してきたが、ロベルト・マンチーニが率いた最初の2シーズンは欧州の洗礼を浴びてグループステージ敗退。マヌエル・ペジェグリーニが引き継いだここ2シーズンも決勝トーナメント1回戦でいずれもバルセロナに完敗し、ベスト16の壁がどうしても破れなかった。世界でも類を見ないほどの補強費をかけて集めたスター軍団なのに、ヨーロッパでは負け犬のまま。「内弁慶」「守備が雑」「勝負弱い」「強者のメンタリティーがない」「カネでタイトルは買えない」……。散々な言われようの中で、彼らは痛感していたはずだ。国内でどんなに勝っても、欧州王者の称号がなければ“ユナイテッドの伝統と歴史”を上回ることはできないのだ、と。
そして今シーズン、彼らはついに壁を壊した。ベスト16でディナモ・キエフを破り、とうとうベスト16の鬼門を越えることができたのだ。そして、続く準々決勝の相手はパリ・サンジェルマン。奇しくも同じアラブ資本で生まれ変わったクラブであり、シティよりもひとつ上のレベル、つまり欧州8強の壁に挑んでいたチームである。
やや大味な展開になった敵地パリでの第1戦は2-2だった。だからマンチェスターでの第2戦は0-0でもよかったし、76分に奪ったリードを追いつかれたとしても問題はなかった。それでも、マンチェスター・シティは1-0でしっかり勝負をつけて、強者の証を見せつけた。この試合で見事なゴールを挙げ、「金満」のレッテルを貼られてきたチームをクラブ史上初のベスト4に導いたのが、クラブ史上最高額の移籍金で獲得したケヴィン・デ・ブライネだったのもどこか象徴的だった。
うがった見方をすれば、伏兵のディナモ・キエフ、強豪ではあるが優勝経験はないパリSGと、ここまで単に対戦相手に恵まれただけ、と言うこともできる。真の勝負はいよいよホンモノのビッグクラブだけが残ったここからであり、チームのクオリティーを見比べればシティは決して優勝候補とは言えない。
そもそも、リーグ優勝の翌シーズンに降格したり、リーグ最終節に他会場のスコアを勘違いして降格したり、ここぞの大一番で驚くような失態を犯すのが「典型的シティ」である。だから、準決勝でも、その先の決勝でも、相手がどこであれここまでの奮闘が嘘のようにあっけなくボロ負けする可能性だって十分に考えられる。
ただ、「典型的シティ」は何もネガティブな予想外だけを巻き起こしてきたわけではない。一夜にして世界一のリッチクラブになったことも、プレミアリーグ初優勝を最終節終了間際の連続ゴールでたぐり寄せたことも、サポーターのアンセムである「ブルー・ムーン」が本当に空に上がるくらい奇跡的なことだった。5月28日、決勝の地であるミラノの空にまた青い月が浮かんだとしても、不思議はないのである。
(記事/Footmedia)
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By Footmedia