自身、3度目のカップ戦決勝でようやく優勝を手にした飯倉 [写真]=兼子愼一郎
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、最後までゴールマウスを守り抜いた飯倉大樹は両手を天高く突き刺した。
「あまりにも後半の45分がハード過ぎて、優勝とかを考えている余裕はなかった。これがタイトルを取るってことなのかもしれないけど。すごくうれしいけど、終わってみたら、泣かなかったし、『鹿島つえー』、『点を取られたら持っていかれるぞ』って考えていたから、全然そんなことを考えている暇はなかった。気づいたら(酒井)高徳の顔をパンパン叩いていただけだった(笑)」
3度目の挑戦での初戴冠だった。育成時代から慣れ親しんだ横浜F・マリノスでは2018年に天皇杯決勝、同年10月にルヴァンカップ決勝と2度のチャンスをつかんだが、決勝の舞台で涙をのんだ。そして2019年7月に飯倉はヴィッセル神戸へ移籍。そのシーズンのリーグ戦を制したのが、飯倉不在の横浜FMだった。
「(マリノスでは)俺が入ってから優勝を逃していて。いいところまでいっても、天皇杯、ルヴァン杯と(チャンスが)あって。今年、リーグ優勝したことで、俺が疫病神だったんじゃないかってちょっと思っていて(苦笑)。もし、これで神戸が優勝できなったら、すごく落ち込んでいたと思うから本当に大きかった」
そういって安堵の表情を見せたが、昨夜は緊張で少し眠れなかったという。「30分は眠れなかった。逆にそれを楽しんで、30分をワクワクドキドキしようと思ったら、30分で寝落ちしてた(笑)」。
実に飯倉らしいエピソードだが、「決勝だから緊張するし、踏ん張って勝てたことがこのクラブの財産になる」と経験豊富な33歳は語る。「このクラブにはメンタリティが必要だと思っていた。戦ってタイトルを取る、最後まで体を張る。そんな当たり前のことが難しいし、それを分かっていても集中してやり切るのが一番難しい。だから(決勝の舞台で)無失点でタイトルを取れたことは全員が同じ方向を向いて戦えた理由だし、それがこのクラブには必要だった。非常に大事なタイトルだったんじゃないかなって思います」。
約半年前、悩んで悩んで、それでも悩み抜いて決めた神戸への移籍だった。自信を失いかけていた守護神は自らの手で運命を切り拓き、ついに“頂”にたどり着いた。
「普通に勝った時の一勝と変わらなかったけど、表彰台とか、ファン・サポーターの喜び方とか、応援してくれている人の笑顔が『優勝したんだなあ』っていう感じを思い起こさせてくれた。みんなが喜んでくれたことが一番うれしいかな」
そう、“頂”から見た景色を表現して、飯倉はホッとした表情を見せた。
By サッカーキング編集部
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