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未知の世界に挑むアタランタ…強さの正体は“ポジティブ”なサッカー

2020.08.12

アタランタはCL準々決勝でパリ・サンジェルマンと対戦する [写真]=Getty Images

 セリエAで、最も“ポジティブ”なサッカーをする。今のアタランタを表現するなら、そのひとことに尽きる。

「ポジティブ」には、いくつもの意味を込めている。

 主体的。能動的。自発的。積極的。アグレッシブ。さらに好戦的でもあり、もっと言えば楽観的でさえある。このチームは異質だ。相手を見極め、戦略的かつ戦術的に戦わなければ勝ち抜けない現代サッカーにおいて、アタランタはもはや前時代的な価値観と言えるかもしれない「自分たちのサッカー」を貫こうとする。理想とするプレーモデルを徹底的に修練して体得し、磨き上げた“力”で相手をねじ伏せようとする。

 今シーズンのセリエAは23勝9分6敗。この複雑怪奇なシーズンを、ユヴェントス、インテルに次ぐ3位という成績で終えた。

 チャンピオンズリーグ(CL)との掛け持ちに苦しんだシーズン前半戦は4つの黒星を喫したが、3連敗からの大逆転でCLグループステージを突破。ちょうどその頃からチーム力をぐっと高め、高次元の安定期に乗った。コロナ禍による中断前の6試合を含む後半戦は2つの黒星をつけられているものの、1つは最下位SPALに対する不覚、もう1つは来シーズンのCL出場権獲得をすでに確定させた後の最終節インテル戦で喫したものだ。つまり後半戦の19試合はユヴェントスにもラツィオにもミランにもローマにもナポリにも負けることなく、ひたすら勝点を積み重ねて最終的にはタイトルレースの大外からスクデット争いに加わった。「今、セリエAで最も強い」との意見に異を唱えるカルチョファンは、おそらくほとんどいないだろう。

 では、いったい、何がどう強いのか。

 指標としてわかりやすいのは、リーグ9連覇の絶対王者ユヴェントスに「22差」、2位インテルに「17差」をつけた「98」という圧倒的な得点数だ。しかしそこから見えるのはこのチームの突出した攻撃力ではなく、むしろ守備力であると考える。冒頭でひねり出した「ポジティブ」という言葉も、その真意の大部分はここにある。

 3バックシステムとマンツーマンディフェンスの使い手である指揮官ジャンピエロ・ガスペリーニは、2016-17シーズンから指揮を執るアタランタでついに自らの理想を体現し得る陣容を手に入れた。

ガスペリーニ

[写真]=Getty Images

 基本システムは3-4-2-1。守備時には前線でうまく相手のパスコースを限定しながら、中盤と最終ラインでは“人”を掴み、1対1の勝負に持ち込む。「うまく誘い込む」「わざと呼び込む」という駆け引きの優位に立てば、1対1の勝負とはいえそう簡単に負けることはない。つまり、守備はネガティブに構えるものではなく、ポジティブに仕掛けるもの。もしも1対1の局面でボールを奪えなければマンツーマンは乱れるが、そうしたネガティブな状況も起こり得ることがわかっているから意識の切り替えとマンツーマンの受け渡しは異常に速い。そうして刻一刻と変わる状況に対するリアクションと判断をかなりの精度で実行できるところが、アタランタのマンツーマンディフェンスにおける最大の特長だ。

 もっとも、それだけ主体的かつアグレッシブな守備は、大きな弱点と背中合わせでもある。

 例えば最終ラインの1対1においては、たとえ駆け引きの優位に立っていても“個の能力”で相手に上回られることがある。CLグループステージのマンチェスター・シティ戦ではセルヒオ・アグエロに何度も前を向かれて圧倒されたし、昨年11月のユヴェントス戦ではゴンサロ・イグアインに同じことをやられて3失点を喫した。失点のほとんどはそのパターンによるものだ。CLベスト8以降は、いわゆる世界的なビッグネームと対峙する1対1の連続。その緊張感の中で、チームの連動性に由来する1対1“前”の駆け引きを含めて1対1の局面でどこまで勝率を上げられるか。そこが、勝敗を左右する大きなポイントとなることは間違いない。

 ただし1対1の局面を制することができれば、速攻に転じた際のスピードと迫力、遅攻への切り替えの柔軟性とバリエーションは間違いなくセリエA随一だ。スピードと迫力は両サイドに位置するハンス・ハテブールとロビン・ゴゼンス、そして最前線に構えるドゥバン・サパタが牽引し、柔軟性とバリエーションは万全なら2列目に位置するキャプテンのアレハンドロ・ゴメスとヨシップ・イリチッチが保証する。とりわけ、ゴメスとイリチッチは攻撃面では完全なる自由を許され、ゴメスは中盤の底まで下りて攻撃を組み立てることもあるし、イリチッチは右サイドに張って好機をじっと待ち続けることもある。この2人の“掴みどころのなさ”が、対戦する相手に迷いを生じさせる。

 リーグ最終節のインテル戦に破れたとはいえ、チームはほぼ万全の状態でCLに乗り込むだろう。「ほぼ万全」とする理由は7月から戦線離脱しているイリチッチの不在にあるものの、代役を務めるルスラン・マリノフスキーマリオ・パシャリッチも申し分ない実力者だ。ベスト8の相手はパリ・サンジェルマン。もちろん紛れもない優勝候補の一角ではあるが、ベスト16の戦いでバレンシアが大混乱に陥ったように、独特すぎるアタランタの「ポジティブ」なサッカーは、実際に体感しなければその威力を計れない。試合序盤にアタランタがペースを握ってしまえば、相手にとっては「何がなんだかわからないうちに」そのまま90分を終わる可能性もある。

 CLベスト8はアタランタにとって未知の世界だが、いつもどおり主体的で能動的、自発的で積極的でアグレッシブ、さらに好戦的であり楽観的でさえある「ポジティブ」なサッカーができれば、どこが相手でも、勝てる可能性は十分にある。勝手知ったるセリエAのライバルが相手ではないCLだからこそ、「もしかしたら」との期待感は高まる一方だ。

文=細江克弥

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By 細江克弥

1979年生まれ。神奈川県出身。サッカー専門誌編集部を経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動する。近年はセリエAの試合解説などでもおなじみ。

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