タイカの鈴木大登社長 [写真]=野口岳彦
久保建英選手の今シーズンのレンタル所属先であり、過去にも日本人選手が在籍したことでも知られるマジョルカ。その今季ユニフォームの胸元には、ある日本企業のロゴが大きく刻まれている。
その企業とは、今季マジョルカのグローバルメインスポンサーとなった株式会社タイカだ。同社は、非常に柔らかいゲル状素材『αGEL(アルファゲル)』を独自に開発し、製造や販売を行っている。また、介護・福祉用品の開発や販売を行うウエルネス事業のほか、特殊フィルムを用いて様々な材質や形状にプリントする曲面印刷事業を展開する。
清水エスパルスのスポンサーとしても知られる同社が、マジョルカとの提携を決断した理由とは何か。欧州屈指のリーグのクラブをサポートすることで、どのような効果が見込めるのか。今回のスポンサー提携に込めた思いや戦略について、代表取締役社長の鈴木大登氏に話を聞いた。
インタビュー=井川洋一
―――まずは、御社やその事業についてお聞かせください。
鈴木 「弊社は1948年に静岡県の旧清水市で創業し、2006年に現在の社名タイカとなりました。事業は大きく分けて三つあります。一つ目は多機能素材の開発や製造で、主力製品はマジョルカのユニフォームの胸にもプリントされている『αGEL』です。高さ18メートルから生卵を落としても割れない衝撃吸収力を持ち、スポーツシューズや文房具のグリップなど、様々なものに使われています。二つ目は、床ずれ防止マットレスをはじめとする介護・福祉用品『αPLA(アルファプラ)』シリーズの開発から販売までを行っています。三つ目は、水圧転写をはじめとする立体物への印刷技術を使った事業で、車の内装の装飾などを手がけています。
―――スポーツ分野への貢献を行われている理由を教えてください。鈴木 「私は出身が清水なので、もともとサッカーが身近にありました。自分の人生と切っても切り離せないもので、サッカーとの縁を感じていますし、サッカーから学んだものや得たものも多くあります。そうした思いがあるので、自分たちがサッカーやスポーツに貢献できることがあれば、積極的にやっていきたいと思っています。スポンサーとしての協力は、その一つの形ですね」
―――スポーツ分野以外では、カンボジアを支援されていますが、その理由をお聞かせください。
鈴木 「弊社は2012年にカンボジアに工場を構えており、現地の方々にもご協力いただいています。現在、コロナ禍で観光立国のカンボジアは困難な状況にあるため、少しでも力になりたいと思い、清水エスパルスのショーツにカンボジアをPRするロゴを入れました。日本の皆様に、少しでもカンボジアのことを知っていただき、コロナが落ち着いた頃にはぜひ訪れてもらいたく、日本とカンボジアの架け橋になれればと考えています」
―――カンボジアでは、女子の社会人サッカーチームを設立されたそうですね。
鈴木 「カンボジアは、政府に『女性省』というものがあるくらい、女性のことを大事に考えている国です。弊社の工場で働いている方々も8割が女性で、彼女たちの多くは、以前はスポーツをしていたけれども、仕事をきっかけにやめてしまうと聞きました。日本には社会人チームがあり、学生から社会人になってもスポーツを楽しむことができますよね。
だからカンボジアの方にも、サッカーという趣味を続けることで人生を少しでも豊かにして、楽しんでもらえたらと思い、チームをつくりました。私も現地に行くと、必ず一緒にサッカーをします。国籍、性別、言葉に関係なくできるのが、スポーツのいいところですよね。良いプレーがあれば自然とハイタッチをするなど、すぐに仲良くなれるのも魅力です」
―――では次に、マジョルカとのスポンサー契約の経緯についてお聞かせください。
鈴木 「実は、マジョルカが胸のスポンサーを探していると知ったのは、インターネットの記事で、おおよその金額にも触れられていました。『これは、久保選手を後押しできるチャンスだな』と感じ、すぐに社員に直接連絡を取ってもらい、契約を締結しました。
ここまでスムーズに進んだのは、こちらが本気だと示したことも大きいと思います。最初の連絡の際に、『3営業日以内に社内の調整をして必ず連絡をする』と伝えると、向こうも理解してくれました。契約締結当日の第3節エスパニョール戦では、選手たちの着るユニフォームの胸に『αGEL by Taica』のプリントがしっかりと入っており、そのスピード感に驚きましたね(笑)。ほかにも手を挙げた企業はあったかもしれませんが、結果的に我々がこのご縁をいただいて、本当に嬉しく思っています」
―――清水エスパルスに続いて、マジョルカを支援することになりました。今回の提携によって、どのような効果を期待していますか?鈴木 「清水エスパルスは私の地元でもあるので、以前から貢献したいと思っていました。マジョルカについては、過去に大久保嘉人選手や家長昭博選手が所属していたことは知っていましたが、それほど深い思い入れがあったわけではないというのが正直なところです。
ただ、久保選手が所属している今季に、こうしてご縁を掴めた。我々のような中小企業でも、グローバルに打って出ようという、社内への意識づけにもなったと考えています。また、困難に思われたことでも積極的に動けば為せるのだ、と示せたとも思います。久保選手もまだ20歳で、これからどんどん成長していくはずですが、我々も同じように成長していきたいですね」
―――『αGEL by Taica』のロゴを胸にプリントした狙いは、どのようなところにありますか?
鈴木 「我々はこの『αGEL』という素材をもっともっと世の中に広めていきたいと考えています。シンプルに会社の名前をプリントすることも考えたのですが、自分たちが広めたいものを表に出した方がいいのではないかと考え、この形にしました。
久保選手が活躍してくれると、スポーツニュースなどでも取り上げられるので、そうした露出の価値は大いにあると考えています。またスペインのラ・リーガという世界屈指のリーグのチームの胸にあるロゴを見て、世界中の人が『あれはなんだ?』と興味を持ってもらえたら嬉しいですね。実際、友人や知人、特にサッカー好きの方からは連絡をもらうことも多いので、その効果は強く感じているところです。スポーツニュースなどでロゴを見かけると、やはり嬉しくなりますね。久保選手との距離感も縮まっていると、勝手に感じています(笑)」
―――マジョルカに対しては、契約金以外の面でもサポートをする予定はありますか?
鈴木 「いま考えているのは、弊社製品の枕の提供です。バレーボールの柳田将洋選手のファンの方々に向けて、弊社の介護・福祉用品を改良して枕にしたものを限定で制作したことがあるのですが、それが大変好評でしたので、マジョルカ版を考えています。これはビジネスというわけではなく、記念品のような形になると思います」
―――清水エスパルスという国内クラブへの支援と比べて、違いや難しさはありますか?鈴木 「当然、言葉や慣習、考え方も違えば、時差もあります。良い面もあれば、そうでない面もありますが、今のところ、問題はないですね。共通点として、どちらもサッカーが好きなので、最後はそこへの思いが拠り所になるような気もしています」
―――契約締結後、社内外の反響はいかがでしたか?
鈴木 「契約締結が金曜日の午後で、社内への周知も定時を過ぎていましたし、すぐに週末を迎えたため直後の反応は知らないです。ただその日の試合(8月27日のエスパニョール戦)にマジョルカが勝って、翌日には中国とカンボジアの現地法人の人たちから、『観ましたよ!』と連絡がありました。日本の従業員からも反応はありましたが、意外と多くなかったので『もう少し盛り上がってくれたら……』とは思いましたけどね(笑)」
―――今回の提携をベースに、今後どのようなPR活動をしていこうと考えていますか?
鈴木 「弊社はもともとBtoBに強い会社なので、これからはBtoCにも力を入れていきたいと考えています。素材メーカーって、『実際には何をやっているのか分からない』と感じている方も多いと思うので、やはりそこは強化していきたいです。その点で、サッカーはとても魅力的ですね。サッカーは競技人口も好きな人も多いので。とはいえ、サッカーだけにとどまらず、色々なことに絡めてチャレンジしていきたいと思っています」
―――最後に、来年以降も海外のサッカークラブのスポンサーとなるお考えはありますか?鈴木 「今回のマジョルカとの契約は、来年6月までで、その後は未定です。お互いにとってWin-Winの関係であればマジョルカとのスポンサー契約を継続していきたいと考えています。
まずは、今回のスポンサーシップが世界中の人々の印象に残るような取り組みになればいいと考えています。マジョルカの胸にある我々のロゴを見ることで、『あ、あの会社ね!』とか、『ほら、あの久保選手の!』とか、そんな風に知られていけば嬉しいですね」
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