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タイの文化的な特徴が大きく影響している
新型コロナウイルス禍で、Jリーグをはじめ世界各国のリーグに大きな影響が出ている。もちろんタイリーグも例外ではなく、現在はリーグ戦の中断を余儀なくされている状況だ。
今シーズンのタイリーグは2月14日に1部と2部が幕を開け、同29日と3月1日に開催された第4節までは予定通り日程を消化した。このタイミングでタイ保健省が新型コロナウイルスを「危険感染症」に指定したことを受け、タイリーグは3月中の試合をすべて無観客試合とすることを発表。しかし、この決定に各クラブから「延期のほうがいい」との声が上がり、リーグ戦は一転、延期が決まった。
当初はタイの旧正月を祝うソンクラーン休暇後の4月18日にリーグ戦が再開される方針だったが、事態は世界的に深刻度を増していき、3月26日にはタイでも非常事態宣言が出された。4月に入ると夜間外出禁止令も発令され、リーグ戦再開の目処が立たなくなったタイリーグは大きな決断を下した。リーグ戦の再開を9月とし、ヨーロッパと同じように年をまたいでの秋春制へ移行することを決定したのだ。
9月に再開される予定の今シーズンは来年の5月頃まで続き、来シーズンは再び9月に幕を開けて2021-22シーズンとして開催されることになる。さらに、タイリーグの3部と4部を統合して「新3部リーグ」として開催することが決まるなど、かなり大胆な決断が早期に行われる結果となった。
タイ国内のウイルス感染状況は、世界的に見ればそれほど深刻な水準ではない。5月13日には国内の新規感染者が初めて0人を記録し、それ以降は海外からの帰国者などを除いた純粋なタイ国内での感染はほとんど見られない。すでに治療中の患者数も100人を切り、タイは新型コロナウイルスの第一波に対して早期の封じ込めに成功した国の一つと言っていい。
そんな状況下で早期に大胆な決断を下したことには、驚きを感じる人も多いだろう。その点に関しては、前提としてタイの文化的な特徴が大きく影響していると思われる。タイでは日頃から、「スケジュール」は常に変更可能な面があり、こういった非常事態に直面したときにも極めて柔軟な対応を取ることをいとわない。日本とは対照的な部分であり、よくも悪くも“変化を恐れない”タイ人の生き方が表れた決定だった。
日本人選手への影響も小さくない
もちろん、大胆な変更によって生じる問題も少なくない。まずは、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権をめぐる問題だ。来シーズンからタイリーグには「2+2」の出場枠が与えられることになっているが、その出場権をどのように決定するのか。また、年末に予定通り開催されることとなっている東南アジアサッカー選手権(AFFスズキカップ)と国内リーグを並行して行うことは可能なのか、といった点も課題として浮かぶ。
来シーズンのACLが予定通りに開催されればの話だが、出場権については現状、年内のリーグ戦順位によって決定されることになりそうだ。年末の時点で1位と2位のチームが本戦ストレートイン、同じく3位と4位のチームが予選からの出場となる。そして、AFFスズキカップの期間中もリーグ戦は中断しない方針で、本来は東南アジア王者を決める重要な大会だが、西野朗監督率いるタイ代表にはどんな選手たちが招集されるのか不透明だ。
多くの日本人選手がプレーするリーグとしても知られるタイリーグには、今シーズンも開幕時点で1部から4部のクラブに40名を超える日本人選手が所属していた。しかし、3部と4部が統合された「新3部リーグ」ではアジア枠が撤廃されることとなり、その煽りを受けて契約解除となった日本人選手も複数出ている。1部、2部の選手に関しても中断期間は50パーセント程度のサラリーカットとなっているクラブが多く、タイでプレーする日本人選手への影響は小さくない。
今後の状況次第で詳細は変更される可能性もあるが、現在のところ再開後のタイリーグは無観客試合として第5節からリスタートすることになっている。この10年で大きく発展を遂げた東南アジアの新興リーグは、新型コロナウイルス禍を機に大きな歴史の転換点を迎えている。
文=本多辰成