[写真]=Getty Images
イスラム圏にあるアラブ首長国連邦(UAE)は、日本のサッカーファンにとってはほとんどなじみがない。そんな国で、2017年からキャリアを過ごす唯一の日本人選手がいる。
アル・アインに所属する塩谷司は、日々どんなことを感じ、どのように過ごしているのか。この連載では、現地の情報を届けるとともに、彼に率直な心境を語ってもらう。
取材=原田大輔
【PROFILE】
DF 33|塩谷司(しおたに・つかさ)
1988年12月5日、徳島県生まれ。182センチ。2011年に水戸でトップデビューを飾り、翌年に広島へ移籍。2年目から主力に定着し、チームのリーグ連覇に貢献した。ほかにも、2014年から3年連続でJリーグベストイレブンに選出されるなどの活躍を見せた。2017年夏からはUAEの強豪アル・アインでプレーしている。
“ぶっつけ本番”となったACL
約半年ぶりの公式戦がAFCチャンピオンズリーグ(ACL)というのは、チームにとっても、個人にとっても、厳しいものがありました。
新型コロナウイルスの影響で自粛していたアル・アインの練習は、7月中旬に再開しました。チームは当初、新シーズンの開幕に向けてヨーロッパでキャンプを行う可能性を模索していました。ところが、欧州での新型コロナウイルスの拡大が収まらず、断念。結果的に国内でミニキャンプを行い、数チームが集まっての練習試合で強化と調整を図ってきました。
東アジア地区のグループステージはまだ先のようですが、西アジア地区は9月にカタールで集中開催を実施しました。国内のカップ戦が、やはり新型コロナウイルスの影響で延期となったため、アル・アインにとってはACLのグループステージは“ぶっつけ本番”でした。
僕らは中断前の2試合で2敗していたこともあり、勝たなければならない状況でした。しかし、アル・サッド(サウジアラビア)との第3節を引き分け、その翌節は同じくアル・サッドに0−4で敗れてグループステージ敗退が決定しました。
アル・アインでプレーするようになって4シーズン目。日本でプレーしていたとき以上に強く感じるのが、クラブ、そしてファン・サポーターがACLを重視しているという点です。それを痛感したのは、アル・アインに加入した2017-18シーズンのこと。リーグ優勝した翌日、チームメイト数人とカフェでコーヒーを飲んでいたところサポーターから声を掛けられたので、祝福してもらえるんだろうなと思っていました。すると、予想外の言葉が飛んできたんです。
「ACLも頼んだぞ!」
サポーターは、それだけ言うと立ち去っていきました。アル・アインのファン・サポーターは、国内王者になることよりもACLを重視しているんだと実感した瞬間でしたね。それだけに、グループステージ敗退という結果に終わったことに申し訳なく感じるとともに、何としてでも新シーズンはリーグ優勝を勝ち取らなければならないと思っています。
優勝はほぼ5チームに絞られている
アラビアン・ガルフリーグは14チームで構成されています。J1のように実力が均衡しているわけではなく、いわゆる強豪クラブと、それ以外のクラブとの戦力の差は開いていると言えるかもしれません。
優勝を争うチームは、僕が所属するアル・アインを筆頭に、5チームくらいにほぼ絞られていると言えるでしょうか。その5チームにはUAE代表に選ばれている選手も多く、質の高い外国籍選手がそろっています。監督によってそれぞれ戦術は異なり、ポゼッションしてくるチームもあれば、前線からハイプレスを掛けてショートカウンターを狙ってくるチームもあります。
一方で、それ以外のチームは比較的守備を固めてくる傾向にあります。ただ、どのチームにも質の高い外国籍選手はいますし、どこが相手でも慢心することなく勝ち点3を取れるかどうかが優勝へのカギになります。2017−18シーズンに僕らアル・アインが、2018−19シーズンにアル・シャールジャが独走優勝した背景には、下位相手に取りこぼしが少なかったという要因があると思います。
アル・アインは、今年1月に就任したペドロ・エマヌエル監督のもとで3シーズンぶりの優勝を目指します。自粛期間が明けてからの2カ月間は、かなり多くの時間を戦術の練習に割いてきました。そのおかげで、監督が志向しているサッカーをより理解できるようになったので、あとは実践で精度を高めるだけです。
外国籍の選手としてチーム最古参に
チームメイトのGKハリド・エイサは注目選手の一人です。身長は僕と変わらないくらいなんですが、身体能力が抜群に高く、とにかくシュートを止めてくれる。これまで僕が見てきた中で最も優秀なGKではないかと思うほどです。
MFのラーヤン・ヤスラムもおもしろい選手です。スピードはそれほど速くないんですが、ドリブルができて、パスが出せて、運動量も多い。攻撃的なセンスは目を見張るところがあります。ケガが多いので、新シーズンは負傷することなく貢献してくれたらうれしいなと思っています。
あとはこの夏、新たな外国籍選手としてブラガからFWウィルソン・エドゥアルドが加わりました。ポルトガル代表のジョアン・マリオの兄ということなので、彼がチームにフィットしてくれることを楽しみにしています。
先に挙げた優勝を争う5チームの中でも、僕が所属するアル・アインは実績、環境ともに国内屈指のクラブだと感じています。国内最多となるリーグ優勝13回という成績もさることながら、最もそれを感じるのはサポーターの存在です。UAEは一年中気温が高いこともあり、スタジアムが満員になることはほとんどありません。それでもACLや強豪との試合では、1万人を超える観客がホームのハザーア・ビン・ザイード・スタジアムに来てくれます。
一方、下位クラブのスタジアムに行けば、数えられるほどのサポーターしかいないこともあります。そんなアウェイでも、アル・アインのサポーターは数百人単位で駆けつけてくれる。その熱気や声援も含めて、僕はアル・アインが国内ナンバーワンクラブだと思うんです。
気がつけば、外国籍の選手としてはチーム最古参になりました。それだけ外国籍の選手は頻繁に入れ替わっている証拠でもあります。起用してくれた歴代の監督には感謝するとともに、助っ人という立場としては、気が引き締まる思いです。
ACLではグループステージで敗退してしまった今シーズン、常に熱い声援を送ってくれるサポーター、そしてクラブの歴史に恥じないためにも、3年ぶりとなるリーグタイトルを獲得できればと思っています。
By サッカーキング編集部
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