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【塩谷司が見たUAEの姿 Vol.4】異なる習慣や規律は「新しい世界と刺激」を与えてくれた

2020.12.25

[写真]=Getty Images

 イスラム圏にあるアラブ首長国連邦(UAE)は、日本のサッカーファンにとってはほとんどなじみがない。そんな国で、2017年からキャリアを過ごす唯一の日本人選手がいる。

 アル・アインに所属する塩谷司は、日々どんなことを感じ、どのように過ごしているのか。この連載では、現地の情報を届けるとともに、彼に率直な心境を語ってもらう。

取材=原田大輔

【PROFILE】
DF 33|塩谷司(しおたに・つかさ)
1988年12月5日、徳島県生まれ。182センチ。2011年に水戸でトップデビューを飾り、翌年に広島へ移籍。2年目から主力に定着し、チームのリーグ連覇に貢献した。ほかにも、2014年から3年連続でJリーグベストイレブンに選出されるなどの活躍を見せた。2017年夏からはUAEの強豪アル・アインでプレーしている。

UAEではいまだ無観客試合が続く

 UAEでは、10月から国内リーグが始まりました。それまでは練習していても、どこか目標が定まらないところがありましたが、次の試合に向けた準備であり、やるべきことが明確になっていく日々は緊張感もあり、つくづく「やっぱりいいな」と実感しています。

 Jリーグは少し前から有観客での試合が開催されているようですが、アラビアン・ガルフリーグはいまだ無観客が続いています。アル・アインは国内でもファン・サポーターが多いクラブ。8試合を終えて4位という成績は、「応援」というアドバンテージを生かせないことが影響しているかもしれません。

 新型コロナウイルスの影響によるソーシャルディスタンスを保った集合写真の撮影や、5人交代制の導入などは、Jリーグと同じです。ただ、UAEでは試合の2日前に必ずPCR検査を行い、これにパスしなければ試合に出場できません。メディアの人たちも全員がPCR検査を受ける必要があるというのは、Jリーグと異なる点かもしれません。Jリーグではオンラインで記者会見を行っていると聞きましたが、検査が徹底されているUAEでは、マスクをしながらですが、従来どおりミックスゾーンでの取材が行われています。

練習前にはリラックスする選手も

[写真]=Getty Images

 環境が異なれば、それだけ文化や習慣も違います。なかでも、UAEでプレーするようになって驚いたのは、「規律の違い」です。UAEでプレーして4シーズン目なので、今は慣れましたが、予定どおりに進まないことが多々あります。その一つが練習でしょう。

 日本では、10時から練習開始と決まっていれば10分前くらいには選手たちがグラウンドに集まり、定時には練習がスタートできる状態になっています。ところが、アル・アインでは、定時になっても全員がそろっていないことが往々にしてあるんです。UAEでは夜に練習が行われるのですが、開始時刻の19時を過ぎてからグラウンドに歩いてくる選手もいたりします。

 日本のクラブでそんなことをしようものならば、罰金扱いです。監督によってルールは異なるため、時間に厳しい監督も中にはいますが、UAEでは遅刻による罰金などはありません。

 ちなみにアル・アインでは、「トレーニング開始の1時間前にはクラブハウスに来ているように」という約束になっています。日本では練習開始までストレッチをしたり、体のケアをしたりして過ごす選手が多いですが、アル・アインでは、お茶を飲んだり、テレビを見てリラックスする選手もいます。もちろん、ジムでしっかりとトレーニングしている選手もいますけどね。

 日本では、電車をはじめ何事も時間に正確で、日常生活においても時間を守る習慣があったので、最初はそのルーズさにストレスを感じました。でも、「郷に入っては郷に従え」ということで、今では些細なことは気にしなくなりました。海外でプレーしていくには、現地の環境に適応しなければならない。僕がこの3年間で学んだことの一つかもしれません。

ラマダーン中は選手のコンディションに影響

[写真]=Getty Images

 ほかに驚いたことといえば、UAEはイスラム圏のため、一日に何度も礼拝する時間があることです。礼拝は早朝の4時とか5時頃にも行われます。しかもその時間になると、周辺のモスクなどから「アザーン」と言われる礼拝への呼びかけが流れるんです。UAEに来た当初は、早朝に流れる放送のたびに目が覚めていました。部屋の中にいても聞こえてくるくらいの大音量なんです。

 ショッピングモールなどで買い物をしているときにも、礼拝の時間になるとアザーンが流れます。もちろん、そのタイミングが練習時間と重なることも。トレーニング中に放送が流れると、練習は一瞬止まります。監督やコーチが礼拝をするかどうかをチームメイトたちに確認するからです。さすがに練習中に礼拝をすることはないのですが、練習の前後や、試合日には試合前、ハーフタイム、試合後に礼拝を行っている選手もいます。

 ご存じの人も多いかと思いますが、「ラマダーン」(断食月)もあります。この期間、現地の人たちは日の出から日没までのあいだ一切の飲食を絶つため、「夕方になると、みんな早く家に帰って食事をしたくて、車の運転が荒くなるから注意したほうがいい」なんて言われたこともありました。ラマダーン中は、僕ら外国人のために開いているレストランもありますが、カーテンで外から見えないようにするなどの工夫がされています。

 今年はコロナ禍のため、その期間に練習や試合はありませんでしたが、シーズン中にラマダーンが重なると、UAEの選手たちはコンディション調整が難しくなります。試合中も、いつもよりパワーが出ていないように感じました。

 ラマダーンの時間帯に練習や試合をすることがないように配慮されていますが、僕自身も日中に街中に出掛けたときなどは、現地の人たちの前で水を飲んだり、何かを食べたりしないように気をつけています。ここも郷に入っては郷に従えではないですが、彼らに対するリスペクトは必要。宗教的な習慣にも配慮しながら生活していくこと、その国の人々や文化を尊重する姿勢もまた、海外でプレーしていくためには重要なことかもしれません。

 UAEに来て3年半。日本とは異なる文化や習慣に触れる機会は、僕に新しい世界を見せてもくれれば、新たな刺激を与えてもくれました。

By サッカーキング編集部

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