広州恒大は“カネ”でアジアの盟主に
過去10年、中国スーパーリーグ(CSL)では、おびただしい量の札束が行き交ってきた。国の好景気を背景に途方もない資金を得たフットボールクラブたち。その筆頭が、広州恒大だ。
地元出身の富豪で恒大不動産の創始者、許家印(シュー・ジアイン)が同クラブの前身を市から買ったとき、チームは2部で苦しんでいた。だがその後、モダンフットボールの常として、成功はカネで買えること──それがとてつもない額であれば──が、ここでも証明された。
買収から4年後、W杯覇者マルチェロ・リッピ監督に率いられた広州恒大は、クラブW杯のセミファイナルに到達。そこから6年が経った今、2つのACLタイトルと、8つのリーグタイトルを保持するアジアの盟主の一つになった。
長く辛酸をなめてきたクラブが、計り知れない財を持つパトロンの到来により一夜にして強豪となり、国内の勢力図を塗り替え、国際的に最も名の通る存在となった。それは欧州における、マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンに似た変貌と言えるだろう。
だがそんな広州恒大の勢いにも、陰りが見え始めている。過去3シーズンで優勝は1度のみ、アジアの頂点からは5年間、遠ざかっている。そんなところにさらなる向かい風が吹こうとしている──金満クラブを抑制する新たなルールが決まったのだ。
2021シーズンから導入される新規約
中国サッカー協会(FA)のプレスリリースによると、2021シーズンから、CSLの外国籍選手のサラリーキャップは約3億7800万円となる(これまでの半分以下だ)。国内の選手のそれは、約7900万円。21歳以下の選手は、470万円だ。どんなに能力が高くても、これが上限となる。
中国FAは、この新規約はフットボールの品位を取り戻すためのものだと主張している。近年のCSLでは、桁外れの財力を持ついくつかのクラブが上位を独占し、それ以外のチームはただひたすらに残留だけを目指してボールを蹴っている。そうした状況を正すためだと。
また昨年、新型コロナウイルスの影響もあり、上位3部リーグに所属していた16のプロクラブが資格を剥奪され、解体された。巨万の富を有するひと握りのクラブが支配するリーグでは、中小クラブの望みは限りなく薄い。困難に直面した時、踏ん張ろうとするだけの希望がなければ、さじを投げても不思議ではない。運営側が財政格差を狭め、この状況を改善しようとするのは正しいことに思える。
そもそも広州恒大の財政面には、規制されてしかるべきショッキングな数字が並ぶ。例えば、8度目のCSL制覇を成し遂げた2019年、年間の損失は驚異の約312億円を計上。外国籍選手の移籍金(エウケソン、パウリーニョ、タリスカ、パク・ジスを同時に正式契約)やサラリーが、その大半を占めている。
中国FAの声明には、もっともで崇高な言葉がつづられている。あるいは、お上のフットボールへの捉え方が変わりつつあるのかもしれない。以前は大号令をかけて、この競技への投資を推進していたが、このソフトパワーに見切りをつけ始めているだろうか(たとえば代表は一向に強くならない)。
欧州のファイナンシャル・フェアプレー規則は、クラブの収益性を問うものだ。言い換えれば、クラブが自らの稼ぎで、彼らの支出──途方のない額だとしても──を賄えるかどうかが問われるわけだ。
一方、CSLクラブに課される新規則は、どれほど利益を上げていても、またビリオネアのオーナーがいたとしても、決められた額しか選手に支払うことができなくなる。これまでとは比較できないほど現実的に。
各クラブ間の戦力格差が是正されていくのは、予想しうる未来だ。しかし同時に、リーグ全体の不利益も考えられる。
まず国外の選手への魅力が減り、もうオスカル(29歳/上海上港)やパウリーニョ(32歳/広州恒大)級の選手がメディアを賑わすことはなくなるだろう。フッキ(34歳/昨季まで上海上港)やグラッツィアーノ・ペッレ(35/昨季まで山東泰山)は、すでに中国を去ったようだ。
CSL全体の戦力が低下し、主役の座を譲って久しいアジアでの存在感が、ますます低くなるかもしれない。ただし、国産の若手の活躍の場が増えることにつながると考えれば、長期的には中国にとっていいことなのかもしれない。
文=Ming Zhao(趙明)
翻訳=井川洋一
By サッカーキング編集部
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