初のリーグ制覇からわずか3カ月後に……
中国スーパーリーグ(CSL)はどこへ向かうのか──。
新シーズンの開幕を控えるなか、厳格なサラリーキャップが導入されたうえ、各クラブが名称の変更を余儀なくされたのは、最近のコラムでお伝えしたとおりだが、その後、にわかに信じがたいことが起こった。昨シーズンのリーグ王者・江蘇FCが、財政問題により活動を停止することを発表したのだ。
2月28日、CSL各クラブは新シーズンへ向けた財務諸表の提出期限を迎えていた。もとより昨シーズンは、財政難にあえぐ16ものクラブがリーグの厳しい基準をクリアできずに消滅してしまっていたが、今冬にはビッグクラブまでもが、首の回らない状況に陥っていることが判明した。
まずリーグ創設メンバークラブの一つ、天津津門虎が基準を満たせず、リーグから除外されている。昨シーズン6位に終わった重慶両江は、期限ギリギリに投資を得てなんとか存続できた。また昨シーズンの中国FAカップを制した山東泰山は、人件費の未払いが発覚し、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージから除外されている。そして極めつきが、ディフェンディングチャンピオンの消滅だ。江蘇FCを所有していた蘇寧控股グループは先月末──初のリーグタイトル獲得からたったの3カ月後だ──、クラブの活動停止を告げた。
同グループは2015年12月にクラブを買収すると、翌月にはリヴァプールとの競合を制し、シャフタール・ドネツクからアレックス・テイシェイラを約64億円で獲得。その後、オーナーをともにするインテルからエデル(2018年)とミランダ(2019年)を、アラベスからムバラク・ワカソ(2020年)を迎えたチームは、昨シーズンのCSLで決勝トーナメントを勝ち抜き、初のリーグタイトルを手にしていた。
選手獲得に費やす額は、最盛期の17分の1に
ところが、新型コロナウイルスの影響はことのほか大きかったようだ。江蘇FCを含め、今冬の移籍市場(国際移籍は2月26日まで。国内移籍は3月いっぱい)におけるCSLクラブ全体の支出は、約30億円にとどまっている。これは昨年の同時期の半額以下となり、2012年以降で最小だ。最盛期の2017年と比べると、実に17分の1である。
CSLの各クラブが、かつてのように欧州のトッププレーヤーたちに札束攻勢を仕掛けることは不可能となり、現在は隣国やマイナーリーグから助っ人を探している。目玉と呼べるのは、山東泰山が引き抜いた昨シーズンのKリーグ1のMVPであるソン・ジュンホ(前所属:全北現代)と、J3とJ2で得点王となったレオナルド(前所属:浦和レッズ)くらいか。各メディアも、以前のような大型新戦力ではなく、去りゆく大物を取り上げざるを得ない状況にある。
ただし、現状に陥った要因をクラブのオーナーたちだけに押しつけるのは、フェアではない。歴史的に、中国のスポーツクラブは鉄道公社や陸軍などに運営されてきたのだが、1990年代後半に民間の投資が許されるようになった。
フットボールクラブの経営が利益性の高いものではないことは、企業や富豪たちも理解している。しかし、国家プロジェクトとしてサッカーの強化や普及が推進されるようになり、オーナーたちはリスクを冒してでも、この競技に参入するようになった。その先にある“旨み”を信じて。
ところが、往々にして、彼らの期待は袖にされてきた。大物外国籍選手が集まり、潤ったリーグの収益の多くは機構側が手にし、クラブ側には高額なサラリーを支払う義務が残る。そして、未払いの明細が重なっていくのだろう。
それにしても、江蘇FCの活動停止はショッキングだ。リーグ優勝というビッグタイトルを手にしたクラブでさえ、かくも厳しい経営を強いられ、助けを差し伸べる人もいなかったのだから。
「おそらく2年以内に、CSLでプレーしたいと考えるクラブは4つくらいになってしまうだろう」と、中国の著名なコメンテーターのドン・ルーは言う。
中国サッカー界は現在、4、5年前とは全く異なる状況にある。派手な一時期が過ぎ去り、冬の時代を迎えようとしているようだ。
文=Ming Zhao(趙明)
翻訳=井川洋一
By サッカーキング編集部
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