昇格組が独走の末にリーグ初制覇
コロナ禍の影響で1年以上にも及んだ今シーズンのタイリーグは、BGパトゥム・ユナイテッドのリーグ初制覇をもってようやく幕を閉じた。最終節でムアントン・ユナイテッドに敗れて無敗優勝こそ逃したものの、24勝5分け1敗。2位のブリーラム・ユナイテッドに勝ち点14差をつけての独走優勝だった。
今シーズンのBGパトゥム・ユナイテッドは2部からの昇格組だった。昇格チームがあわや無敗でのリーグ制覇を果たした事実だけを見れば、驚きの出来事にも思えるかもしれない。しかし実際には開幕前から有力な優勝候補の一角と見られていた。同クラブは2000年代にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に3度出場したクルンタイ・バンクを前身とする名門で、2018年まではバンコク・グラスの名でタイリーグの強豪の一つだった。今シーズンの独走優勝は予想を上回る結果であったとはいえ、そもそも一昨シーズンの2部降格が予想外のものだったと言える。
2部では別格の強さを見せて1シーズンでの1部復帰を果たすと、悲願のリーグ初制覇へ向けて開幕前から積極的な補強を敢行。タイ代表MFティティパン・プアンチャンを大分トリニータから復帰させたのをはじめ、ローカル選手、外国人選手ともに質の高い戦力をそろえて1部でもトップクラスの戦力を整備することに成功した。
とはいえ、開幕時点ではリーグを独走するほどの圧倒的な戦力とまでは言えなかった。昨年2月の開幕から3勝1分けと好スタートを切ったところで、新型コロナウイルスの感染拡大によってリーグ戦が長期中断に突入。すると、その間にもタイ代表MFサーラット・ユーイェン、元ベネズエラ代表DFアンドレス・トゥネス、MF丸岡満らを次々と獲得。さらに、昨年末にはともにタイリーグ通算100ゴール以上をマークしているタイ代表のティーラシン・デーンダーとブラジル人のジオゴ・ルイス・サントというリーグ屈指のFWを獲得し、リーグ制覇へ盤石の戦力が整えられた。
開幕から無敗を維持しながらシーズン中にも積極的な補強を続けたBGパトゥム・ユナイテッドは、30試合で13失点という堅守をベースに安定した戦いぶりで文句なしの新王者の座についた。
全体のレベルが底上げされてきたタイリーグ
2018年まで10シーズンにわたってブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドの2強がタイトルを分け合っていたタイリーグは、2019年にチェンライ・ユナイテッドという新チャンピオンが誕生。そして今シーズン、BGパトゥム・ユナイテッドがそれに続いたことで、タイリーグは完全に新たな時代に突入した。
2強の一角を担ってきたムアントン・ユナイテッドは主力の大量流出によって弱体化した面があったが、ブリーラム・ユナイテッドは今シーズンも2位で終えているように必ずしもチーム力が衰えたわけではない。これまではJリーグなどに比べれば上位と下位の力の差が大きい傾向にあったが、全体のレベルが底上げされたことによって戦力は均衡化しつつあり、リーグ制覇を狙えるクラブも年々増えてきた。
今シーズンからタイにはACL本戦ストレートイン2枠、プレーオフ出場2枠という韓国と同等の出場枠が与えられている。ACLの出場枠を決めるAFCクラブコンペティションランキングにおいて、タイはオーストラリアを抜いて東地区の4位に浮上。その結果、今シーズンから出場枠が増やされたわけだが、タイリーグの内実もそれにふさわしいものに変化しつつあると言っていい。
タイリーグが本格的なプロのリーグとして発展を始めた2010年代以降、ACLにおいてはブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドが結果を残してきた。ブリーラム・ユナイテッドが2度、ムアントン・ユナイテッドが1度、決勝トーナメントに駒を進めているが、それ以外のクラブは中国勢、日本勢、韓国勢の前に厳しい戦いを強いられてきた。しかし、今後はタイリーグから複数のクラブがアジアの舞台で存在感を示していく可能性も十分にありそうだ。
2020―21シーズンのタイリーグを制したBGパトゥム・ユナイテッドは、2021年と2022年のACL本戦ストレートインが決まっている。タイ勢としてはチャナティップ、ティーラトン、ティーラシンらを擁して決勝トーナメント進出を果した2017年のムアントン・ユナイテッド以来、充実の戦力を誇るチームと言える。今シーズンと来シーズンのACLでは、日本勢にとっても難敵となるかもしれない。
文=本多辰成