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【インタビュー】Kリーグで戦う石田雅俊の“衝撃発言”に韓国サッカー界が激震…その言葉の真意に迫る

2021.10.29

[写真提供]=韓国プロサッカー連盟

「これまでのサッカー人生を振り返ると、自分は敗者だと思っています。それでも、こうして人生を変えられる試合がいくつもあります。いずれにしても、昇格のために人生を懸けます」

 自らを「敗者」だと言う一人の日本人選手が今、韓国で注目を集めていることをご存じだろうか。Kリーグ2(2部)の大田ハナシチズンに所属するMF石田雅俊がその人だ。

 冒頭のコメントは、10月10日に行われたKリーグ2第33節の安山グリナース戦でプロ初のハットトリックを達成した石田が、試合後のヒーローインタビューで通訳に頼らず、自らの韓国語で伝えた言葉だ。たどたどしい部分もあったが、感情がこもったその言葉に筆者も胸を打たれた。

 なぜ彼はそのような言葉を伝えたのだろうか。オンラインでの単独インタビューに快く応じてくれた石田は語る。

「普通、ハットトリックした後のヒーローインタビューで自分のことを“敗者”と言う選手いませんからね。驚かれた方々も多いとは思いますが、(あの言葉は)浮かび上がったというより、(自分が)敗者というのは常に意識、自覚があるんです」

 普段から思っていることをそのまま口にしただけだというが、韓国国内ではサッカー界を越え大きく反響が広がった。当時のインタビュー映像は韓国で100万回再生を突破し、ネット上には「日本人選手の韓国語インタビュー、感動の反響で人気爆発」(スポーツ紙『スポーツ朝鮮』)、「大きな反響を呼んだ日本人選手の韓国語インタビュー」(テレビ局『SBS』)といった見出しのニュースが多く並んだ。

「あり得ないぐらいにとにかく反響がすごくて、特にインスタグラムにはメッセージがたくさん来ました。うれしかったのは、他競技のアスリートやサッカーを全く知らない人、サッカーに興味がない人からもメッセージが届いたことです。偶然インタビューを見て“こんなサッカー選手がいるんだ”って感じで僕に連絡してくれたみたいで。うれしかったですね。そして俄然、やる気も沸いてきました。僕は日本の頃も含めて負けてばかりのサッカー人生だと思っているので、それを意識すると自然と“やるしかない”という感情になるんですよ」

■渡韓して得た自信と実績…肌で感じる日韓サッカーの違いとは

[写真提供]=韓国プロサッカー連盟

 Kリーグでの登録名を「マサ」とする石田は、市立船橋高校で1年時に冬の全国高校選手権、3年時に夏のインターハイ優勝を経験。2014年に京都サンガF.C.に加入した後、レンタル移籍でSC相模原、ザスパクサツ群馬、アスルクラロ沼津に在籍したが、これといった活躍はできず。そうして飛び込んだ地が韓国だった。

「京都との契約が満了したあと、トライアウトにも参加してなんとか日本で選手生活を続けたかったのですがかなわず、エージェントから言われるがままに受けたのがKリーグ安山グリナースのテストだったんです。当時は正直、“Kリーグはちょっとないよな”と思っていました。ケガも怖いし、いろいろ危なそうだし。日本でサッカーをしている選手なら、みんなそうだと思いますよ。Kリーグはヤバイって(笑)」

 ただ、当時の石田には後がなかった。テストに合格すると慌てて買った韓国語の本をバッグにしのばせて渡韓したという。それが2019年のことで早くも2年が過ぎたが、特筆すべきはKリーグで残した実績だ。

 水原FCでプレーした昨季は、在日コリアンで元Jリーガーの北朝鮮代表FWアン・ビョンジュンとともに中心選手として活躍。Kリーグ2で27試合10ゴール4アシストを記録し、昇格プレーオフを勝ち抜いてチームの1部昇格に大きく貢献した。

 これらの活躍が評価された石田は、今季開幕前にKリーグ1の江原FCに移籍してステップアップにも成功した。

 ただ、江原FCでは9試合無得点となかなか波に乗れず、夏の移籍市場が始まってすぐにKリーグ2の大田へレンタル移籍。その最初の試合で靭帯を部分断裂するケガを負っていきなりチームを離脱したが、負傷から復帰後の活躍は前述の通りだ。

 大田を率いるイ・ミンソン監督も「マサは常に最善を尽くしてくれる。選手の精神面にも大きな影響を及ぼした。チームにとって頼りになる存在だ」と厚い信頼を寄せているが、気になるのは、日韓どちらのリーグも経験している選手が語る両国のサッカーの違いだ。「JリーグもKリーグもたくさん見る」という石田に聞くと、細かい分析を話してくれた。

「よく韓国はフィジカル、日本はテクニックと言いますが、すごく抽象的な言い方だと感じますね。最近だと(ACL準々決勝の)名古屋グランパス対浦項スティーラースも観ましたが、名古屋の吉田豊選手のようなフィジカルが強い選手は韓国にいない。逆に、韓国でも1部には(テクニックが)うまいチームもあります。ただ、ビルドアップ時のボールを揺さぶるスピードやテンポはJリーグのほうが早くてスムーズな印象があります。逆にKリーグは堅い試合をする。あまりプレスをかけずに後ろでコンパクトに守備を敷いて、とにかく守備的なチームが多いですね」

■「“敗者”としてどう突き抜けるか」――韓国キャリアに懸ける思い

[写真提供]=韓国プロサッカー連盟

 では、Kリーグにおける1部と2部の差はどうだろうか。両カテゴリーでプレーした石田の見方はこうだ。

「カテゴリーの差は身体的な差と世界的に言われますが、いい選手が1部に来るのは当然ですから、個人能力は1部のほうが上です。サッカーのスタイルで見ると、2部は芝生が悪いこともありますが、あまりボールをつながず、とにかく早く大きく蹴る展開が多い。1部はもっとゆったりしていて、ボールをうまくつないだりします。1部だと上の2チーム(蔚山現代、全北現代モータース)以外はあまり変わらないと思います。やっぱり2強は少し抜きんでていて、それ以外はどこが3位になってもおかしくないし、どこが降格してもおかしくない」

 大田はすでにプレーオフ進出圏内の4位以上を確定しており、今後2~4位で争うプレーオフを勝ち抜けば、1部11位とホーム&アウェーでの昇降格プレーオフが待ち受ける。大田としては昇格すれば2015年以来7年ぶりの1部復帰となるだけに、チーム全体で昇格に懸ける思いは強い。昨季に水原FCで昇格を経験した石田もその一人だ。

「サッカーというスポーツではどんなに個人が頑張っても勝てないことがあります。個人的に“勢いに乗る”みたいな論理的ではない言葉は大嫌いですが、今はチームがとても勢いに乗っていますし、チームメートもみんな好きなので、なんとかして昇格したいし、させたあげたい。どうしても自分ではコントロールできない部分もあると思いますが、最大限個人でできることはやりたい。覚悟はあります」

 これからの目標や夢はあるか。インタビューの最後にそう聞くと、石田は「日本の頃に自分が裏切ってしまった指導者がいる」と市立船橋高校時代と群馬時代の指導者を挙げ、決然とした表情でこう語った。

「本当に魅力的な指導者でしたが、その2人に対して結果を出せなかった過去が自分にはあって。今は彼らのことを毎日思いながらプレーをしていて、今後のサッカー人生で自分が成長した姿、完全に変わった姿を見せたい思いでやっています。だからこそ、いつかは日本でまたプレーして2人に見てもらいたい。もう一度あの後悔を取り戻しにいく、じゃないですけど。サッカーを続けている間は何としても2人に何かを見せたい思いがあります」

 自分自身を“敗者”という石田には確固たる意志がある。それはたとえハットトリックを決めても、周囲から大きく注目を浴びるようなことがあってもブレることはないのだろう。

「敗者やどん底にいる人間はどうやって突き抜けるか、どうやって圧倒するかが大事だと思っていて、それをしない限りはずっと負け組だと僕は思っています。でも、週に1回ある試合の90分間だけは、そのどん底から脱出するチャンスがあると、僕は信じているんです」

 韓国で挑戦を続ける石田は、今日も走ることをやめない。

[写真提供]=韓国プロサッカー連盟

取材・文=姜 亨起(ピッチコミュニケーションズ)

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