[写真]=Getty Images
2018年以降、中国への帰化を推進
中国政府はサッカーの代表チームを強化し、彼らが史上2度目のワールドカップ出場を果たすべく、外国籍選手を帰化させてきた。その計画が始まったのは2018年。中国サッカー協会と中国スーパーリーグ(CSL)のトップクラブ、なかでも広州恒大(現広州FC)のシュ・ジアイン会長が主導してきた。中国人選手にあまり可能性を見出していなかった当時の代表監督マルチェロ・リッピも、その動きに賛同していた。
2019年、ノルウェー出身のヨン・ホウ・サテルとイングランド出身のニコ・イェナリスが北京国安に加入し、同国史上初の帰化選手となった。広州恒大がこれに続き、その後の2年間で7選手を帰化させた。現在、その数は11人に増え、そのうち5人は中国にルーツを持つが、残りの6人はFIFAルールの5年間の現地滞在を経た選手たちだ。
ただし、これまでに代表に招集されたのは6人にとどまる。2019年のW杯予選で、リッピ監督がアーセナル・ユース出身のイェナリスと、CSLを代表する点取り屋エウケソンを初めて呼んだ。2021年に予選が再開されると、エヴァートンの下部組織を経験したタイアス・ブラウニングと、アラン、アロイージオ、フェルナンジーニョのブラジル人トリオも代表に名を連ねるようになった。
そのほかの面々は、それぞれの理由で代表でプレーしていない。サテルやペルー出身のロベルト・シウチョは単に能力が代表レベルになく、ガボン出身のアレクサンデル・エンドゥンブとポルトガル出身のペドロ・デウガドは、過去に出身国の代表として公式戦に出場したことがある。リカルド・グラールは代表の戦力として最も望まれているが、あろうことか、中国滞在歴を誤認していたため、2019年から数え直さなければならなくなった。
崩壊の兆しを見せつつある帰化政策
彼ら帰化選手については批判も絶えない。この競技に深く通じるサポーターは、欧州の列強国や日本をはじめ、フットボールの代表シーンではまったく珍しいことではないと理解しているが、多くの中国人は保守的で閉鎖的だ。そもそも外国人居住者が少なく、2020年の国勢調査によると、その数は85万人(ちなみに日本は2021年の発表で288万人超)。13億人の国民との比率は、実に低い。そんな土壌で育ったファンの中には、明らかに異なる外見の選手たちに拒否反応を起こす人も多い。
かたや、帰化選手たちの多くも、国籍変更を(中国は二重国籍を認めていない)金銭的な見返りとして決断しているケースがほとんどだ。彼らはそうすることによって、市場価値以上のサラリーやボーナスを受け取り、中国を去る時には元の国籍に戻すことも可能だという。また中国の生活様式や文化に溶け込もうとせず、中国語を話せる選手はほぼいない。通訳なしのインタビューはおろか、一つの文を言葉にすることさえできない。これは帰化を推進した協会や政府だけでなく、選手側にとっても、少なくとも中国に住んでいる間は得にならないはずなのだが。
今季のCSLはいつ再開されるか分からず、さらに中国サッカー界最大のパトロンであった恒大集団(広州FCのオーナー企業)が財政危機に陥っているため、帰化選手のサラリーも大幅に減額される見通しだ。この状況に、帰化選手たちは不安と不満を抱え、例えばアランは11月の代表戦後に家族を連れて母国ブラジルへ帰国した。フェルナンジーニョに至っては、代表キャンプを途中で抜け出し、今も未キャップのままだ。グラールは広州との契約を破棄して、ブラジルの名門コリンチャンスとパルメイラスと交渉中だという。
こうした事態を受け、中国サッカー協会は帰化選手たちに現行契約の履行を遵守することを約束したものの、広州集団が崩壊している今、それが本当に可能なのかどうか、現時点では分からない。
文=Ming Zhao(趙明)
翻訳=井川洋一
By サッカーキング編集部
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