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【アジア杯コラム】不支持率80%…トルシエ率いるベトナム代表が狙う“下剋上”「チャンスがないわけではない」

2024.01.09

[写真]=Getty Images

 ベトナム代表に逆風が吹き荒れている。

 1月4日にカタール遠征に臨む30人のベトナム代表メンバーを発表したフィリップ・トルシエ監督は、記者会見の席でこう述べた。

「多くの人々がフィリップ・トルシエの辞任を望んでおり、ベトナム代表の成功を信じていない人も多い」

 厳しい世論を突きつけられたトルシエ監督によれば、現在のベトナム代表を支持しないファンの割合は「80%」にものぼるという。一体なぜこんなことになってしまったのだろうか。

 2023年のベトナム代表は確かに安定感を欠いた。1月にAFF三菱電機カップ(東南アジアNo.1を決める大会。かつてはスズキカップと呼ばれていた)でタイ代表との激闘の末に準優勝という成績を収めたものの、それはパク・ハンソ前監督の残した結果。3月にトルシエ監督が就任してからは3連勝ののちに3連敗を喫し、とりわけ下半期は6試合で2勝4敗と負け越している。

 異例の3試合をこなした10月シリーズは中国代表、ウズベキスタン代表、韓国代表に3連敗。11月から始まった2026年北中米ワールドカップのアジア2次予選では初戦のフィリピン代表戦こそ2-0で勝利したものの、アジアカップのグループステージでも対戦予定のイラク代表にはホームで0-1と苦杯をなめた。

 トルシエ監督への批判は、一向に軸が定まらないチーム作りに対しても向けられている様子だ。毎回のように招集メンバーをコロコロと入れ替え、総勢約80人もの選手をテストしてきた。パリ五輪世代の若手選手たちにも多くのチャンスを与えている中で、結果が伴わなかったことがファンからの反発に拍車をかけているように見える。

 そんな苦境に輪をかけるようにアクシデントも相次いでいる。正守護神候補だった元セレッソ大阪のGKダン・バン・ラムが負傷。さらにチームキャプテンだったDFクエ・ゴック・ハイが肉離れを負い、現代表選手の中で最も多い通算18得点を挙げているFWグエン・ティエン・リンは鼠蹊部を痛めるなど、多くの主力級の選手たちが負傷離脱してしまったのである。これほど多くの負傷者が出るのは指揮官にとっても「想定外」だった。

 彼ら離脱した実力者たちの代わりに招集されたのは、トルシエ監督が兼任するU-23ベトナム代表の若手たち。MFグエン・タイ・ソンやMFクアット・ヴァン・カンは20歳ながらすでにA代表でもチャンスを与えられており、アジアカップで大きな飛躍を遂げる可能性もゼロではない。

 元横浜FCのMFグエン・トゥアン・アインやフランス2部でのプレー経験を持つグエン・クアン・ハイら既存の主力選手たちと、大舞台でチャンスを与えられた若手選手たちをどれだけ融合させられるかがグループステージ突破へのキーポイントの一つになりそうだ。

 ベトナム代表はトルシエ監督の代名詞とも言える3バックを採用しており、3-4-3が基本システムになっている。日本代表とのグループステージ初戦では、何としても勝ち点をもぎ取るべく5バック気味に守りを固めてくることも十分に考えられる。

 元日本代表監督でもあるフランス人指揮官はアジアカップに向けて「どのような状況でも自分たちから主体的にゲームをコントロールできるようになりたい。まずはボールを持っている時に自信を持ってプレーしてもらいたい」と述べているが、現実は甘くないだろう。

 なお、ベトナム代表はまず30人の編成でカタールに乗り込む。すでにアジアカップに出場する各国のメンバーリストは発表されているが、1月9日にキルギス代表との国際親善試合を行ったのち、最終的な26人は日本代表戦の前日までに固める方針だという。トルシエ監督はインドネシア代表をグループステージ突破に向けた直接のライバルと捉えているようだが、日本代表相手の下剋上も諦めていない。

「まずは1試合ずつ、着実に戦っていきたい。理論上、初戦の相手である日本代表には10回対戦して9回は負けてしまうかもしれないが、残りの1試合でベトナム代表が勝ったり、勝ち点をつかんだりできるチャンスがないわけではない。それが1月14日に起こる可能性だってあるはずだ」

【KEY PLAYER】 GK1 フィリップ・グエン

[写真]=Getty Images

 元セレッソ大阪のGKダン・バン・ラムが負傷のためアジアカップを欠場することとなり、新たな正守護神候補として大きな期待を集めている。代表キャップが0試合なのは、2023年12月にベトナムへの帰化が認められたばかりだからだ。

 ベトナム人の父とチェコ人の母の間に生まれたフィリップ・グエンは、名門スパルタ・プラハの下部組織で育ったGK。同国1部リーグでは100試合以上の出場歴を誇り、スロバン・リベレツ時代の2020年9月にはチェコ代表から初招集を受けたこともある。しかし、UEFAネーションズリーグでの出場はなく、A代表デビューは叶わなかった。

 ただ、その間にも父の祖国であるベトナムへの帰化手続きを粛々と進めて、9年もの歳月をかけてパスポートを取得。アジアカップ直前に晴れてベトナム代表でプレーする資格を得た。

 2023年6月からはベトナム1部リーグのハノイ公安FCでプレーしている。加入してすぐにレギュラーの座をつかんだフィリップ・グエンは、2023シーズン後半の8試合に出場して7失点という確かな実力を発揮し、クラブのリーグ優勝に大きく貢献。2023年10月に開幕したベトナム1部リーグの2023-24シーズンもハノイ公安FCで正守護神を務め、出場した8試合のうち4試合でクリーンシートを記録している。

 欧州基準の実力を備えた31歳のGKは身長192センチと大柄ながらアジリティに優れ、鋭い反射神経を生かしたセービングで際どいところに飛んだシュートも弾き出す。そして、長身を生かしたクロス対応も長所の1つだ。5バックで守りを固めた際にサイドから数多のクロスが飛んできても、彼がいれば心強い。グループステージ初戦で対戦する日本代表にとっては、今大会最初に立ちはだかる壁となるだろう。

文=舩木渉

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