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【アジア杯コラム】王者カタール代表、狙うは地元での大会連覇…注目はカタールを知り尽くす新スペイン人指揮官

2024.01.09

[写真]=Getty Images

 AFCアジアカップ開幕まで約1カ月となった2023年12月6日、カタールから衝撃的なニュースが飛び込んできた。なんと同国代表を率いていたカルロス・ケイロス監督が双方合意の上で契約解除となったのである。これは事実上の解任だったと見られている。

 2023年2月に4年契約でカタール代表の指揮を託されたケイロス監督は退任するまでの約10カ月間で4勝2分5敗と負け越していたが、チーム作りは始まったばかり。しかも自国開催のアジアカップ開幕直前の監督交代ということもあり、驚きは大きかった。

 そもそも2023年のカタール代表は世界で最も多くの試合をこなしてきた代表チームの1つだった。1月にブルーノ・ピニェイロ暫定監督のもと、アラビアン・ガルフカップを戦い準決勝に進出。6月から7月にかけて招待国として北中米カリブ地域No.1を決めるCONCACAFゴールドカップに出場し、準々決勝まで勝ち進んだ。さらにヨルダン国際大会も含めて国際親善試合が6試合、北中米ワールドカップのアジア2次予選の2試合も合わせて、計16試合も行っていたのである。

 全ては自国開催のアジアカップで連覇を達成するための準備のはずだったが、ケイロス監督の退任によって積み重ねのほとんどは水の泡となってしまった。

 後任の座を託されたのはエスパニョールやオイペン、シント・トロイデンを指揮した経験を持つタンティン・マルケス監督だ。61歳のスペイン人指揮官は、2018年から6年間にわたってアル・ワクラを率いてきたため、カタールのサッカー界やカタール人選手たちのことを熟知しているという強みがあった。

 ゆえにアジアカップに臨むチームの骨格は以前とそれほど変わらない。キャプテンのMFハサン・アル・ハイドスやベテランMFアブデルアジズ・ハテム、攻撃の核となるFWアルモエズ・アリやFWアクラム・アフィフなど中心選手たちはしっかりとメンバー入りを果たした。

 アル・ガラファから招集されているFWアハメド・アッラディーンは地元メディアの取材に対し「新監督はカタールリーグでの豊富な経験を持っており、全選手について明確なビジョンを持っており、それがメンバー選考の過程でも役立ったはずだ。今度は僕たちが監督を助けたい。スタッフたちもこれまでの状況を考慮しながらチームに対してしっかりとしたビジョンを提示してくれているし、バランスの取れたチームを構築するため懸命に働いている」とマルケス監督への信頼を語っていた。

 新体制での初陣は昨年12月31日に行われたカンボジア代表との親善試合だった。しかし、ほとんど映像が残っておらず出場メンバーと、FWモハメド・ムンタリを負傷で失ったこと、アルモエズ・アリがハットトリックを達成して3-0で勝利したことくらいしか情報がない。カタール代表は1月6日にもヨルダン代表と親善試合を行ったが、こちらはメディアやファンを入れず非公開だったため、わかるのは1-2で敗れたこととメンバーだけだ。

 とはいえ限られた情報からも読み取れることはある。先発メンバーの構成を見る限りマルケス監督はおそらく4-2-3-1、または4-4-2を採用しており、アルモエズ・アリとアクラム・アフィフを前線中央に並べる攻撃的な布陣を2試合連続でテストした。

 そして、新体制を象徴するもう一つの要素はセンターバックとして起用されるDFルーカス・メンデスの存在だろう。ブラジル出身で若手時代にフランスの強豪マルセイユで活躍した実績もある同選手は、2014年からカタールでプレーしてきた。2023年11月にはカタールへの帰化が承認され、同国代表デビューも飾っている。このベテランDFはアル・ワクラでメンデス監督とともに仕事をしてきた、いわば愛弟子。新生カタール代表ではディフェンス陣の柱として期待されているに違いない。

 スペイン人指揮官はこれまでのベースを活かしながら、必要最低限のチューニングを施してアジアカップに臨もうとしている。だが、優勝候補でありながら、急な監督交代によって現状では読めない部分が多くなってしまった。自国開催で連覇達成に挑むカタール代表が本格的にベールを脱ぐのは、1月12日に予定されている開幕戦のレバノン代表戦だ。

【KEY PLAYER】 FW19 アルモエズ・アリ

[写真]=Getty Images

 カタール代表で通算50得点を挙げ、歴代最多得点記録を更新し続ける絶対的エースはまだ27歳。所属するアル・ドゥハイルではキャプテンも務め、名実共にカタールサッカー界を象徴するスター選手である。

 クラブではウイングに入ることが多く、今季は左ウイング、昨季までは左右両ウイングを主戦場としている。そのためアル・ドゥハイルでの成績を見るとゴール数はそれほど多くなく、今季はむしろアシストの方が多くなっているほど。サイドではスピードを活かした突破とアイディア豊富なチャンスメイクで違いを生み出す。

 だが、カタール代表ではほとんどの試合でセンターFWとして起用され、ウイングでのそれとは全く違うプレースタイルに変貌する。2019年のアジアカップ決勝では開始12分でゴールを奪って日本代表を震え上がらせ、カタール代表の初優勝に大きく貢献した。大会通算では7試合に出場して9得点を奪い、ぶっちぎりで大会得点王、そして文句なしの大会MVPに輝いた。

 センターFWに入った際のアルモエズ・アリは高い身体能力を活かしたプレーで前線に起点を作りつつ、機を見た抜け出しで相手ディフェンスラインの背後を突いてゴールを陥れる。爆発的な加速と驚異的なトップスピードを、チャンスメイクのための突破ではなくゴールに直結するプレーに応用することができるのだ。また、ゴール前では異次元の跳躍力を活かしたヘディングでも対戦相手の脅威になる。若手時代にはオーストリアやスペインでのプレー経験も持ち、スピードや独創性を兼ね備えたアジア屈指のアタッカーはカタール代表に不可欠な大黒柱だ。

文=舩木渉

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