18日にクラブW杯決勝でレアルと対戦する鹿島 [写真]=FIFA/FIFA via Getty Images
胸を借りるつもりなど毛頭ない。FIFA(国際サッカー連盟)が主催する公式大会の決勝という一世一代の檜舞台。“銀河系軍団”として畏怖されるチャンピオンズリーグ王者のレアル・マドリード(スペイン)と世界一を懸けて激突する真剣勝負へ、鹿島アントラーズが臨戦モードに入った。
開催中のFIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016の決勝を翌日に控え、開催国代表のJ1王者・鹿島は横浜市内で最終調整。冒頭の15分以外を非公開とし、約1時間半にわたって行われた練習を終えたDF昌子源は「楽しみのほうが大きすぎて、何やらコンディションのことはよう分からないですね」とコメント。11日間で4試合目になる過密スケジュールもどこ吹く風とばかりに、前半から激しく厳しく入ることが極めて重要になると力を込めた。
「僕らもクラシコなどに自然と目が向かうし、レアル・マドリードやバルセロナは初見のチームじゃない。間接的にせよ一番見ているチームやと思うし、相手から見たら僕たちは未知数のチーム。案外向こうのほうが慎重な入り方をしてくるかもしれんし、その意味で前半から『こいつらマジだ』と相手に思わせないと。ちょっとでもひるんでくれたらありがたいし、そういう雰囲気を僕らが前面に出さないと。世界一のクラブであり、簡単に勝てる相手ではないことも分かっているけど、あまりリスペクトしすぎるのも良くないと思っています」
鹿島が初めて臨んでいる今大会では、小杉光正テクニカルコーチが舞台裏で八面六臂の活躍を演じてきた。2008シーズンから現職を務める分析のプロは、1回戦から対戦してきたオークランド・シティ(ニュージーランド)、マメロディ・サンダウンズ(南アフリカ)、アトレティコ・ナシオナル(コロンビア)のちょっとしたスキや弱点など、映像の資料すら少なかった対戦相手を短時間で徹底的に分析してきた。
選手たちはそれらを頭に叩き込んだ上で、実際に対峙した時に感じたギャップや新たな発見などを加えてデータを修正していった。すべての試合で後半の試合内容が良くなっている背景には、裏方に徹した小杉コーチの寝る間を惜しんだ“尽力”があり、感性を研ぎすませながら戦うクラブ伝統の“試合巧者ぶり”だと昌子は言う。
「小杉さんも『まさかレアルの分析をするとは』と思っているかもしれませんけど、いくら相手が公式戦で36戦連続無敗中のスーパーなチームでも、必ず弱点はあるわけですから。決勝も小杉さんの分析を信じて、それこそチーム全体としての戦いやと思っています。普段Jリーグでやっているプレーが通用しない可能性もあるし、そのまま通用する可能性もある。実際に戦いながらそういうことも分かるようにしたいし、僕は相手のクセなども試合中に僕は結構見抜くほうなので、それをみんなに『こういう動きをしてくるぞ』と伝えていく部分も大きな仕事だと思っています」
市立吹田サッカースタジアムでの決勝進出決定から一夜明けた15日、チーム練習をオフとした鹿島は空路横浜へ移動し、石井正忠監督やコーチ陣、そして希望した選手が横浜国際総合競技場でレアル・マドリードが2-0でクラブ・アメリカ(メキシコ)を下した準決勝を観戦した。
選手たちも戦闘モードに入っている。小杉コーチから最終的なデータが授けられる前に頭脳をフル回転。MF永木亮太は日本代表でヴァイッド・ハリルホジッチ監督が重要視する“デュエル”が、レアルにも風穴を開けるのではないかと閃いた。
標的を定めたのは、準決勝でゴールを挙げたクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガルだ代表)でも、カリム・ベンゼマ(元フランス代表)でもなく、3トップの後方に位置するインサイドハーフのトニ・クロース(ドイツ代表)とルカ・モドリッチ(クロアチア代表)。レアルの左右の“肺”を担う2人のうち、特に後者に「スキがある」と真っ向から挑戦状を叩きつける。
「中盤のクロースとモドリッチは本当に厄介だけど、逆にそこで自由にやらせなかったら。前の3人はあの2人を経由してボールをもらうし、特に最終ラインが組織的ではなく、後ろからそれほどロングボールを通すチームではないと感じたので、自分のところで中盤を制圧できればいいというイメージは持ちました。クロースは懐が深くて足も長いから、恐らくボールを失わない。見た感じではモドリッチはドリブルも仕掛けてくる感じだし、ちょっとボールをさらしながら中盤でボールを持つので、取れるチャンスはある。試合が始まって相手の本当の感じを見ないと分からないですけど、準決勝はもうちょっとやるのかな、と思ったので」
モドリッチは準決勝でマッチ・アワードを受賞。ファンやサポーターから『ノーモドリッチ、ノーレアル(モドリッチなくしてレアルなし)』と呼ばれるほど必要不可欠な司令塔で、この背番号19にボールが渡った瞬間、チーム全体にスイッチが入る。鹿島としてはそこでモドリッチを潰してボールを奪い、ショートカウンターを仕掛ければゴールのチャンスが広がる。
最終ラインを束ねる昌子も、2人のインサイドハーフが与える脅威を認めた上で、「クロースとモドリッチの存在を僕らがボランチに伝える作業がすごく大事になる」と覚悟を明かす。
「今までと違って観客もいっぱい入るやろうし、ちょっとロナウドが何かやるだけで異様な雰囲気になると思うから、そういうところに惑わされんようにしないと」
決戦を2日前に控えた16日夜、浦和レッズGK西川周作から昌子に一通のメッセージが届いた。
「源、頑張れよ。Jリーグを代表してレアルをぶっ倒せ」
簡潔に「めちゃ頑張ります」と返信した昌子だが、短い言葉に熱い思いのすべてを凝縮させたと表情を引き締める。
「本来ならば浦和さんが出ているかもしれない大会に僕らが出ている。悔しいはずなのに、(西川)周作さんの人柄が出ているというか、鹿島だけでなく、Jリーグ全体の想いを背負って戦っているんだと改めて感じました。こうやってレアルと真剣勝負の舞台で戦える運を楽しみながら、すべてのJリーガーの代表として、そしてクラブの歴史を代表して戦いたい」
戦い方は決まった。ここまでの3試合と何ら変わらない。ピッチに立った全員がハードワークを前面に押し出しながら、試合展開に応じて思考回路やパフォーマンスに修正を加える。いわゆる“鹿島らしさ”をすべてぶつけた先に、必ず一筋の光明が見えてくると昌子は信じて疑わない。
「シュートを前半で十何本も打たれようが、準々決勝や準決勝と同じようにゼロで抑えられればいい。僕一人で全部止めるのは無理ですし、最悪でもコースを限定すれば後ろにはソガさん(曽ヶ端準)が構えているので、そう簡単には入れられないと信じている。いくら格上のチームだと言っても、僕らがハードワークすれば、向こうもきつい。お互いにバーンとぶつかった時に僕らが痛くて、相手が痛くないかと言ったらそうじゃない。相手は身体能力もすごいはずだし、骨格も違うと思うけど、お互いに同じ人間である以上、できることとできんことがはっきりある。今の僕らにできることを最大限ぶつけるだけです」
個人ではなくチームで。お互いが補い合いながら、Jリーグ屈指の常勝軍団として培ってきたすべてを、日本サッカー界を代表して銀河系軍団に真正面からぶつける。緊張と興奮とが交錯する歴史的な大一番は、18日19時30分に横浜国際総合競技場でキックオフを迎える。
文=藤江直人
By 藤江直人