29日、チェルシーvsアーセナルのEL決勝戦が行われる [写真]=Getty Images
イギリスの首都を離れ、「ビッグ・ロンドンダービー」がアゼルバイジャンのバクーで行われる。5月29日、今季のヨーロッパリーグ(EL)決勝はチェルシー対アーセナルだ。2009-10シーズンに現行の大会名になってからは初、UEFAカップ時代を振り返っても1971-72シーズンのトッテナム対ウォルヴァーハンプトン以来となる、ファイナルでのイングランド勢対決。勝てばアーセナルはクラブ史上初、チェルシーは2012-13シーズン以来2度目の優勝となる。
両チームが抱える負けられない理由
アーセナルには、絶対に負けられない事情がある。もちろん、ウナイ・エメリ監督就任1年目を無冠で終えるわけにはいかないという思いや、1993-94シーズンのカップウィナーズカップ優勝以来となる欧州でのタイトル獲得に向けた渇望もあるが、それ以上に来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権がなんとしてでも欲しい。プレミアリーグのシーズンを5位で終え、惜しくもトップ4にあと一歩届かなかったガナーズにとっては、EL優勝によるCL出場権獲得が残された最後の道。補強など来季の編成や財政面にも関わってくる部分だけに、クラブにとっては切実だ。
かたや、プレミア3位で来季のCL出場権は確保しているチェルシーだが、こちらはあまり内容が芳しくなかったマウリツィオ・サッリ監督の解任騒動の真っ只中にいて、この決勝後にもクラブとの話し合いの席が持たれる予定であり、(すでに退任は既定路線という報道もあるが)サッリとしてはトロフィーを手土産に会談へと臨みたいはず。そうでなくとも、今季のチェルシーはリーグカップの決勝でマンチェスター・Cに敗れており、ファイナルで連敗するわけにはいかない。「決勝を戦うのに、それがCLか、ELか、リーグカップかなんて重要じゃない。とにかく勝ってトロフィーを取り、ファンと祝福したいんだ」とはエデン・アザールの言葉だ。
そのアザールは、「もしそれが僕のラストゲームになるなら、トロフィーを掲げたい」とも語っており、この試合がチェルシーで最後の試合になることを示唆している。来季からレアル・マドリードへと移籍する可能性が高いと報じられているエースは、2012年から7年間を過ごしたチェルシーと「最高の形で」お別れがしたいと強く望んでいる。チェルシーとしては、今季プレミアで19ゴール15アシストと最高のシーズンを過ごしたアザールの打開力を存分に生かし、アーセナルを攻略したいところ。逆にアーセナルは、右サイドで先発が予想されるエインズリー・メイトランド・ナイルズのプレーがひとつのポイントか。今季大きく飛躍した21歳が、アザールとのマッチアップをどこまで互角に持っていけるかがカギとなりそうだ。
要注目の古巣対決
クラブとのお別れといえば、アーセナルのGKペトル・チェフは今季限りでの現役引退を発表しており、この試合が正真正銘のラストゲームとなる。プレミアではベルント・レノが正GKだったが、ELではグループステージの途中からずっとチェフがゴールを守っており、決勝でもおそらくこのベテランに活躍の場が与えられるだろう。彼にとって、2004年から15年まで11年間プレーして公式戦494試合に出場した古巣チェルシーとの決勝は感慨深いものがあるはずだ。「腕にトロフィーを携え、首にメダルをかけてハッピーエンドで最後の試合を終えるのが夢」と語る37歳の最後の勇姿は、プレミアファンなら絶対に見逃せない。
一方では、そのチェフからゴールを狙うチェルシーのストライカーも古巣対決になる。オリヴィエ・ジルーもまた、プレミアではゴンサロ・イグアインに先発の座を譲ってきたが、ELではここまで得点ランクトップタイの10ゴールと気を吐いてきた男。彼の活躍なくしては、チェルシーの決勝進出はなかったと言えるだろう。チェフと同じく決勝でも先発機会を与えられるであろうジルーは、アーセナル時代からFAカップに滅法強かったいわゆる“カップ戦のスペシャリスト”だ。そんな彼のマークにつくのは、ジルーとフランス2部トゥール時代から親しい友人関係を築いてきたローラン・コシェルニーで、このマッチアップも非常に楽しみだ。
万全の状態で挑む絶好調な2トップ
とはいえ、チェルシーにとってジルーの好調が心強い要素であるように、アーセナルにも波に乗っているストライカーがいる。それも2人である。ピエール・エメリク・オーバメヤンとアレクサンドル・ラカゼット。2試合トータル7-3で難敵バレンシアを撃破した準決勝で、チームの全得点を叩き出したアーセナルの2トップは、ともに万全の状態で決勝に臨んでくる。とりわけオーバメヤンは、バレンシアとのセカンドレグで鮮烈なハットトリックを決め、続くプレミア最終節でも2ゴールを挙げてモハメド・サラー、サディオ・マネと一緒にプレミア得点王を獲得し、最高の状態にある。アントニオ・リュディガーを左膝の手術で欠き、エンゴロ・カンテも負傷により欠場の可能性が高いチェルシーの守備陣にとっては頭の痛い存在になりそうだ。
リヴァプールとトッテナムが戦うCLの決勝も楽しみだが、なかなかどうしてEL決勝のロンドン対決もまた、注目選手が目白押しで激闘の予感が漂っている。今季のプレミアリーグではともにホームチームが勝って1勝ずつと成績は五分だった。また英ブックメーカー『ウィリアム・ヒル』の勝利オッズを見ても、チェルシーが「2.37倍」、アーセナルが「3.00倍」とほとんど開きがない。タイトルを懸けたバクー決戦は、どちらが勝っても決しておかしくない接戦が予想される。
文=寺沢薫
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