ピッチに侵入し、FKを蹴ったファンに意外?な判決「ベッカムのようには…」

トッテナム

ピッチに侵入したジョーダン・ダン被告人(中央)[写真]=Getty Images

文=藤井重隆

 8月16日に行われたイングランド・プレミアリーグの開幕戦、ウェストハム対トッテナムの“ロンドン・ダービー”(1-0でトッテナムの勝利)で、ピッチに侵入して逮捕されたウェストハムファンが1日、裁判所から305ポンド(約5万3000円)の罰金処分を科されると共に、判事から称賛を受けるという珍事が起こった。イギリス複数メディアが一斉に報じた。

 逮捕・起訴されたのはホテルの受付係として働くケント州ドーバー出身の22歳男性、ジョーダン・ダン被告人。被告人は同試合の後半19分、トッテナムが相手ゴール前でFKを 得た際にピッチへ侵入。警備員に追われながら約60メートルを疾走し、このFKを蹴った直後に取り押さえられた。被告人が左足で蹴ったボールは右上隅に飛んだがGKにキャッチされた。

 試合前に3リットルのビールを飲んでいたという被告人は1日、東ロンドンのテムズ軽罪判事裁判所に出廷すると、「泥酔し、頭に血が上った」、「アップトンパーク(ウェストハムの本拠地)でボールを蹴るのが夢だった」などと当時の状況を説明しながら謝罪した。

 これに対し、罰金処分を言い渡したギャレス・ブランストン判事は、皮肉を交えて驚きのコメントを発した。

「8月16日の午後、3万5000人のフットボールファンは、22人の選手たちが90分間ボールを蹴るのを観戦しにお金を払った。選手たちは観客を喜ばせるために働いていた。試合中、チェックのシャツと赤いスニーカーを身にまとった一人の若者がピッチに侵入した。それがあなたであり、あなたはそれをするために働いておらず、犯行に及んだ」

「あなたはピッチ上で警備員に追われながら約60メートルを走り、トッテナムのFKを蹴った。率直に言うと、あなたはおそらくボールを蹴る前に疲れており、必要以上に長い助走だったようだ」

「酔った走りだったが、言葉を借りれば、あなたは『ベッカムのように曲げろ(注=映画『ベッカムに恋して』の原題)』をやって見せた。残念ながらボールスピードはデイヴィッド・ベッカムより時速40キロほど遅く、ウェストハムのGKに簡単にセーブされた」

「あなたの直後にFKを蹴ったプロ(枠外に外したトッテナムのデンマーク代表MFクリスティアン・エリクセン)でさえも上手く蹴る事ができなかったと理解している。小さな救いは、あなたが服を着て犯行に及んだことだ」

「あなたは小さいころからの夢を達成したから、もう二度と同じことはしないだろう」

『BBC』によると、被告人は「サッカー犯罪防止法」の「許可なしにプレーエリアに侵入する罪」に科されたが、フーリガンとみなされなかったため、スタジアム入場禁止の処分は免れたとされる。

 このニュースはソーシャルメディア上でも笑いのネタとなったが、イングランドにおけるスタジアムの安全性をめぐって、「フーリガン」、「侵入者再発」という観点から、判決に対しての賛否両論も巻き起こっている。

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